« 【古典ひとこと00】『江戸端唄集』〜なぜ古典に触れるのか | トップページ | 【やじうま古文02】『無名抄』散歩2 »

2015年2月20日 (金)

【やじうま古文01】『無名抄』散歩1

Mumyosyo1

最古写本の第1ページ(鎌倉時代 14世紀)「e国宝」から

和歌のことはわかりません(洒落じゃなく)が、鴨長明が和歌の詠み方をめぐって書いたこの本が、好きです。

鴨長明と言えば、私らシロウトには何といっても『方丈記』で、かつ、平家物語の舞台となった時期の京都の大きな天災人災を生々しく描いた『方丈記』 前半部、長明さんの挫折だらけ(と見えがち)な履歴、それらをめぐってなされているいろんな解説文から、暗くて偏屈な性格の、人生の落伍者みたいなイメージ を抱きがちです。
でもこの『無名抄(むみょうしょう)』を読んでいると、長明さんは自分を静かに静かに見つめようと努めながら、外の世界にも柔らかな視線を注いでいた人なのではないか、と思えてきます。

和歌の作りかたについてとはいえ、人の批判を受けることに謙虚で、歌人デヴューの頃に先達から受けた注意(5や13)、先生に受けた指導(41、 47や50など)、歌合せで誉められた自作歌が名人定家に受けた批評(74)をみんな長明さん納得、といった風情で淡々と記しています。けれど自慢もさり げなくしていて(11、35、40など)、決して卑屈ではありません。自慢にしても、楽しく誇らしい経験を縷々と述べたしめくくりに、自分の歌が新古今集 に十首入集したことがとても嬉しかった、と言ってすぐ「あはれ無益のことどもかな(こんなのならべたてたってなんてこたないさ)」(11)と肩をすぼめて みせるあたり、うぬぼれない人だなあ、と微笑ましく感じさせてくれます。

まわりで歌を詠んでいた人たちに対する目のあたたかさも、いくつかの章段に垣間みることが出来ますが、そのなかのひとつに、こんなものがあります。

「長守語りていはく、「述懐の歌どもあまた詠み侍りし中に、ざれごと歌に、
  火おこさぬ夏の炭櫃(すびつ)の心地して人もすさめずすさまじの身や
と詠めるを、十二になる女子の、これを聞きて、『冬の炭櫃こそ火の無きは今少しすさまじけれ。など、さは詠み給はぬぞ』と申し侍りしに、難ぜられて述ぶる方なく」など語りしこそ、をかしかりしか。」
(53)

長明さんの兄弟(兄か弟かは不明)鴨長守さんが長明さんに「自分の不遇をたくさん歌に詠んだんだけどさ、ジョークで ”火をおこさない夏の炭櫃みた いな気持ちだよ どんな人も相手にしてくれない、つまんないやつなんだよおいらは” なんて詠んだらさ、十二歳の女の子がこれを聞いててさ、『寒いさなか の冬の炭櫃だったらもうちょっとしょうもない感じが出るのにさあ、なんでこんなふうに夏の炭櫃だなんて詠んだのよ』って言いやがってさ、こんな文句つけられちゃって、ボク絶句しちゃったのよ」と話して聞かせてくれたので、長明さん、可笑しくてたまらなかったんだそうです。

他にも、長明さんの先生のお父さんだった源俊頼さんの和歌を、俊頼さんが出仕していたおおやけの席で傀儡たちが神歌ということで歌ったので、俊頼さんが「おれも名人の域に達したと言うことか」と誇らしげにしていた、と、そんな噂を聞いて、他の人がうらやましくなって琵琶法師を買収して自分の歌をあちこちで 歌ってもらったり、敦頼という歌好きのおじさんがまたこれをうらやんだのはいいけれど、金品もとらせずに琵琶法師たちに「おれの歌を歌え、歌え」と無理強 いして世間の失笑をかった、などという話もあって(28)、『無名抄』は生真面目な中にも意外にほのぼの暖かかったりするのです。

「(数字)」は、角川文庫版(久保田淳 訳注)での章段のナンバー。底本の章段分けに沿っている由

角川文庫『無名抄』
http://www.amazon.co.jp/dp/4044001111

『無名抄』の電子テキスト(やた管ブログ)
〜角川文庫版の底本と同じ「梅沢本」をテキストファイルに落としてあります。
http://blog.livedoor.jp/yatanavi/archives/53157957.html

e国宝
http://www.emuseum.jp/detail/100410?d_lang=ja&s_lang=ja&word=&class=2&title=&c_e=&region=&era=&cptype=&owner=&pos=177&num=4&mode=detail&century=

|

« 【古典ひとこと00】『江戸端唄集』〜なぜ古典に触れるのか | トップページ | 【やじうま古文02】『無名抄』散歩2 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/95716/59006750

この記事へのトラックバック一覧です: 【やじうま古文01】『無名抄』散歩1:

« 【古典ひとこと00】『江戸端唄集』〜なぜ古典に触れるのか | トップページ | 【やじうま古文02】『無名抄』散歩2 »