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2013年6月10日 (月)

ひとの価値観【こどものころ(3)】

【ひとの価値観】

空襲にあった人たちが引っ越して来た、にしては、ウチのあたりは戦後の色をあまり引きずっていないように見えました。だから、本当にみんながみんな空襲で焼け出されて住むようになったのかどうか、は、分かりません。
はっきりそうと分かっていたのは、隣の老夫婦の所帯くらいでした。
おじいさんのほうは、あんまり印象に残っていません。
ばっぱ、と呼んでいたおばあちゃんのほうは、冬に僕が家の前の雪を竹箒で掃いてやると(仙台は大層な除雪をしなければならないほどの積雪はありませんでした)
「ありがとなぃ(ありがとうね)」
と言ってくれたので、背中を少し曲げて歩く小柄な、色のやや黒い人だったことを覚えています。
そのばっぱは、「女郎」だったのだ、と教わりました。
飲屋街になっている国分町がそうだったのかどうかまでは知らないのですが、とにかく街中で色を売っていたのだそうでした。おじいさんとどうやって一緒になったのか、なども、まだ関心もありませんでしたし、その後も誰にも尋ねませんでしたから、もう知りようがありません。
その家には、もともと娘さんと息子さんがいたとのことでしたが、僕は一度も会ったことがありません。なんでも
「戦争のあと、食べるもんがないときに、子供二人を畑に泥棒にやって芋を盗ませたんだ。盗むのに失敗して帰って来ると折檻して。失敗したときは畑のほうでも見つかってぶたれてきてたんだから、あっちでもぶたれ、こっちでもぶたれだったんだよね。それで二人ともいつの間にか家を出て行って、もう帰って来なかった」
のだそうです。
本当にそうだったのかどうかは、知りようがありません。
ばっぱの顔を思い出すたび、そんなことはなかった、と誰かにあらためて言ってほしい気がしますが、時代がそうだったのなら仕方がないことだったのかも知れない、とも思います。

我が家は、と言えば、祖父までは漆塗りの職人で、空襲で焼ける前の家では親兄弟揃って器を塗る仕事をしていたのでした。それも祖父の代でおしまいで、親戚でもだれも継いだ人がいません。
そのくせ、曾祖父が先祖代々の戒名を書き留めていた暦の隅っこに「豊臣秀長 孫」とか書いてあって、僕などは
「おまえは十三代目だから」
などと言われ続けたものでした。まあ、十三代目などというものも、職人を継がなかったのだから有名無実です。遡れば西暦で1700年ごろに亡くなったのが初代さんだとは、大学生になってから少しだけ調べましたけれど。
なんで秀長の子孫と名乗ったのかも面白いのですが、これは曾祖父が近江八幡方面に近いところに本山のある宗教の信者だったことに関係があったのかもしれません。
これはもし歳をとって機会が出来たらお寺に頼んで調べたいのですが、僕の姓は仙台藩主となった伊達政宗が大坂の陣のときに連れ帰ったらしい職人さんの姓に多いのです。仙台では刀鍛冶さんが同じ姓で、ここのご子孫はお寺が一緒です。ただしウチと違ってお金持ちで、いまでは宝石店を営んでいます。親戚関係でもありません。・・・ウチの話は、脱線ですが。

ほかのお家の来歴はまるで分からずじまいで、いまになって、ああ、教わっておけば良かったなあ、と思います。

ただ、商売人を蔑むふうはあったように思います。お店をやっていない所帯にも、なんでそうなのだかはっきりしない誇りのようなものがあって、
「商売人は金に意地汚い。商売人なんかにはなるな」
と自分ちの子供たちには言い聞かせていました。

西の下り坂のところにSという酒屋さんがありました。そこの兄弟の、弟の方が僕とおない歳でした。
他の家では親を
「とうちゃん、かあちゃん」
と呼ぶのが普通でしたが、酒屋の、とくに弟の方は
「パパ、ママ」
なのです。
それがなんだかきざったらしくて、心底嫌いで、だからほんとうには仲良くもなりませんでした。
それでも、そこの家には、近所ではめずらしいアップライトピアノがあって、先生が教えにまで来ていたのでした。町内の幼稚園にもピアノなんてない頃でした。
なんだかんだで、商売やってるお宅は強かったのでした。

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