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2008年6月28日 (土)

曲解音楽史38)カール5世の時代:2-中南米

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前の回:1)音という手段 2)リズムの成立 3)音程から音階へ
    4)言葉と音楽  5)トランス 6)古代メソポタミア
    7)古代エジプト 8)古代インド  9)古代中国 10)古代ギリシア
    11)古代ローマ 12)初期キリスト教の聖歌について
    13)ササン朝ペルシャ  14)西暦5,6世紀ユーラシア音楽横断
    15)中世前半の西ユーラシア  16)唐朝と朝鮮・日本 17)「声明」の伝来
    18)モンゴルと中央アジア北方 19)「十字軍時代」の西ユーラシア
    20)日本固有(?)の古歌 21)グレゴリオ聖歌
    22)平曲と能楽:付)発声法について 23)アンブロジアン聖歌・ローマ聖歌
    24)西ヨーロッパ中世 25)ジョングルール 26)十字軍時代前後のイスラーム
    27)ペルシア伝統音楽〜中世からの遺伝子 28)インド中世 29)宋・元時代の「中国」
    30)日本の「オラショ」 31)ヴェトナム伝統音楽 32)インドネシア 33)東アフリカ
    34)イスラムと西欧の融合 35)ルネサンス? 36)フランドル楽派 37)16世紀スペイン


レコンキスタ(「国土回復」と邦訳されていますが、「コンキスタ」の原意は「征服」です)を成し遂げ、イスラム勢力をイベリア半島から駆逐したスペイン(カスティリヤ)は、それまでポルトガルに支援を求めても良い返事をもらえず悶々としていたコロンブスに大西洋西航のための資金を提供します。これが(本来の目的とは異なりましたが)彼の新大陸アメリカ【中南米】発見として結実し、スペインはこの新大陸で豊富に産出される金銀を大量に手にすることとなりました。
王室は「新発見」したこの土地の先住者たちをキリスト教(カトリック)化するために聖職者たちを送り込みましたが、それと併行して、あるいは別個に「新大陸」に乗り込んだ民間人(貴族)たちは、彼らがインディオと呼んだ先住民族たちを奴隷化し(これはある程度は王室が許可したことでした)、従わない者は虐殺し尽くす蛮行を繰り返しました。特に中米方面でのマヤ・アステカ文明はこのことによて壊滅状態となり、インカ文明を中心とした南米も、都市文明は事実上崩壊しました。
この事実については、現地に何度もおもむいて「インディオ」の救済に努めた司教ラス・カサスがカール5世に上程した告発文を基礎にまとめた『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(岩波文庫に日本語訳あり)で知ることが出来ます。
スペインからの征服者(コンキスタドール)たちが「インディオ」たちを殺戮したおおもとの背景には、どうやら「インディオ」たちにカニバリズム(人肉食)の風習があることへの生理的な嫌悪があったらしいことが、南米に兵卒として赴いたシエサ・デ・レオンの著作『ペルー誌』第一部(邦訳『インカ帝国地誌』岩波文庫)前半部から窺われますが、やがてインカ文明の中心地にたどり着いたレオンは、「インディオ」の全てがカニバリズムに浸っているわけではないことに気づき、さらに、自分たちの西欧に比べて勝るとも劣らない文化・文明を持つことに驚嘆、敬意さえ示し、やがてその歴史をまとめる決意を固めることとなります。(ペルー誌第二部、邦訳『インカ帝国史』岩波文庫。第3部、第4部は未訳)。
政治・社会史的な背景は、以上の文中で触れた、邦訳も出ているそれらの書物に委ねることにしましょう。
なお、中南米の文明にスペイン人が「帝国」の名を冠した謂れは、インカに関してはヨーロッパのローマ「帝国」史観にある、との研究報告が最近出されています(「他者の帝国—インカはいかにして「帝国」となったか」)。



さて、ではスペイン人に征服された当時の中南米の人々の音楽事情はどうだったでしょう。
これは、レオンの前掲2著作から垣間見るに、インカの場合は主に次のようなものが存在したようです。

・国内史の朗誦(スペインの「ロマンセ(叙情歌)」や「ビリュシコ(宗教歌)」に例えられている)
・大祭典(ハトゥン・ライミ)の際の奏楽(歌唱は上に準じ、金製や銀製の太鼓で伴奏された)
・人身御供が殺される前に酩酊状態で歌う歌(!)
・無災豊穣の占いの厳粛な酒宴の祭の大歌会
・戦勝時の神への礼の大歌会
・和平交渉成立時の大舞踏会
文明圏についてはこのようですが、まだインカ文明の傘下にない戦闘的な民族については、
「戦いに出るときは大きな声をあげ、角笛、太鼓、笛などをはじめいろいろな楽器を持っていく。」
(「インカ帝国地誌」邦訳書130頁)という記載を見受けます。

私が耳にし得た「インディオ」音楽は、殆どが太鼓の伴奏によるモノフォニーでしたが、例外もあります。
幾つかサンプルをお聴き頂きましょう。

ホピ族の 〜祝い歌にでも属するのでしょうか。
  この民族はマヤ文明の後裔とされ、予言で有名です。

ナバホ族の
  ホピ族と今も対立している人々だそうで、他の歌も概して戦闘的です。

(以上2曲、"Native American" IMC MUSIC(Portugal) GLD 25449-2)
  
この2例以外でも、伴奏として使われる楽器は太鼓、鈴に限られたものしか聴けませんでしたが、16世紀当時の征服記には登場しないアマゾン上流域のインディオ音楽の中ではフルート族の楽器や「竹製のクラリネット(単リード楽器)が使われており、なおかつ低音が持続的に鳴り響くホモフォニックな発想が見られ、興味深いものがあります。この例をも聴いて頂いておきましょう。



 (世界宗教音楽ライブラリー41「アマゾン・インディオの儀礼音楽」KING RECORDS KICC 5741)
このアルバムには、他国人が入り込むことなく現地の先住民族が暮らし続けて来た希少な地域の音楽が収録されており、しかも先の2例に比べると多様な楽器(クルタ・イとはまた別のフルートや角笛、鈴)で演奏される器楽だけの舞踊音楽などを聴くことができます。

レオンの記載した中での、インカ圏での「祭典関係」にあたる歌唱に相当するものはあげられませんでしたが、以上の歌や器楽から、スペイン人が入り込む以前のアメリカの人々の音楽が垣間見えるようであれば幸いです。

※ なお、マヤ文字あるいはその語彙に音楽や楽器、歌い手などを現す文字がないかどうかを探してみましたが、見つけられませんでした。ご存知のかたからご教示頂けましたら幸いです。



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