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2008年5月 1日 (木)

モーツァルト:楽器を知りつくしたオーボエ協奏曲(ハ長調K.314)

昨日の記事もお読み頂ければ幸いです。



ここまで読んできたモーツァルト作品の個々へのリンクを作成し直しました。ご利用下さい。

・・・まるきり感慨から綴り始めて恐縮ですが、この作品のスコアを見て
「管楽器はうらやましいなあ・・・」
と思ってしまいました。

管楽器なりの難しさを承知しての上で、ですので、ご容赦下さい。
でも、この協奏曲のソロ・オーボエパートは、ヴァイオリンだったら、比較的ラクに弾けるんですよね。
だから、
「オーボエ奏者は(四重奏は大変ですが、この協奏曲については)モーツァルトの距離が近くて、いいなあ・・・」
そんなふうに僻(ひが)んでしまいます。

実は、これが僻みである証拠に、最高音のDを伸び伸び吹くには、オーボエのかたは、相当きちんと基礎ができていなければダメなはずです。
それでもなお、協奏曲全体の長さも、よく演奏されるヴァイオリン協奏曲第3番以降に比べて短いですから、
「やっぱり羨ましい」
・・・ピアノ奏者に比べれば、こんな僻みは贅沢なんですけれどね。ピアノ協奏曲は、ずっと長くて、難しい。



構成を先に見ましょう。

オーボエ協奏曲 ハ長調 K.314
第1楽章:Allegro aperto,4/4,188小節(ソナタ形式)
第2楽章:Adagio non troppo, 3/4(F),90小節(二部形式)
第3楽章:RONDO Allegro, 2/4,285小節(これは第4ヴァイオリン協奏曲の終楽章よりは小節数は多いです。)

大変いい曲だと思いますし、もともと有名な上に、「のだめカンタービレ」でもテレビドラマでは第8話(原作コミックでも第8巻だったっけ)で採り上げられましたから、モーツァルト作品としては認知度も高いと言えるでしょう。ただし、形式上に際立った特徴は無いため、お詳しいかたにとって目新しいことは綴れません。敢て特筆すべきことがあるとすれば、第2楽章が前半部と後半部で全く同じ主題(複数の要素があるためサイクルが長い)を用いながらも、単調になるどころか素晴らしいアリアを聴くような出来に仕上がっている点でしょう。声楽作曲家としての成熟度が、そのままオーボエの音域を有効活用する面でも活かされている事実に注目しておきたいと思います。

と言いつつ、またも個人的感情で申し上げますと、私にとっては、この協奏曲は、必ずしも好きな作品ではありません。
アマチュアでありながら、過去2回か3回、伴奏に参加しました。ひとつ以外は忘れましたが、覚えているその1回のときのソリストは、ある町のアマチュアオーケストラの仲間内で「腕のいいオーボエ奏者」と自他共に認めていた人でした。・・・でも、最高音がキツくて、なんぼアマチュアとはいえ
「これじゃあなあ」
と思った記憶があります。
で、打ち上げの席で、私ではなく、彼に身近だった誰かがそのことを指摘したら、真っ赤になって怒ったのでした。品がなかった。
このときの印象が尾を引いているのでしょう。
なおかつ、日本のプロ奏者のソロないしは伴奏でも、「これならいいなあ!」と感激できる演奏に巡り会ったことがありません。あるソリストは歌い込み過ぎだし、あるソリストは解釈に一貫しがなかったり。伴奏は、どちらも、別に一流ではないヨーロッパのオーケストラに比べても、どことなくモーツァルトの演奏らしくなかった。・・・「のだめ」で(映像に出てくる役者さんに成り代わって音声だけで登場なさったのですが)お吹きになった、某女性ソリストの「ソロ」が、日本人の演奏としては、これまででいちばんいいものを耳にしたような気がします。・・・ただし、このときの伴奏には、どうも物足りない印象が残っています。
まあ、自分たちがやったら、もっと悲惨になるのも目に見えるようですから、いっそう、この曲には日本人としてコンプレックスのようなものを感じてしまうのです。



無駄話はともかく。

この作品、長い間、フルート協奏曲(ニ長調)として演奏され続けて来たことは、年輩のかたほどご記憶かと思います。
アルフレート・アインシュタインが「モーツァルト その人間と作品」(1945年)で既に言及しているにも関わらず、私の子供時分(1970年代前半)には、少なくとも日本で手に出来るレコードで、この作品をオーボエで演奏したものはひとつもなかったと思います(事実を調べたわけではないので、「いや、その当時に、もうあったよ」という情報があれば、是非お知らせ下さい)。

K.314が本来オーボエ協奏曲であることが判明したのは、ザルツブルクにオーボエ独奏パートの筆写譜が存在するのが確認されたためで(NMA第14分冊に写真版がⅠ葉だけ掲載されています)、それによると、同じ曲(調は違う)のフルート協奏曲の「作曲日付」が1778年の1月ないし2月(マンハイム滞在中)とされているよりもさらに1年早い、1777年4月1日作ということになるので、「オーボエ協奏曲」の方がオリジナルだ、と判定された経緯があるようです(NMAの解説やアインシュタインの記述では、これ以上詳しい経緯は分かりませんでした)。
ザルツブルクでソロを吹いたと想像されているのは、ジュセッペ・フェルレンディスという人物です。
翌年フルート協奏曲に編曲された経緯は、アインシュタインが記述した当時も、モーツァルトに幾つかのフルート作品を注文したド・シャンという人物に急かされての苦肉の策だった、とされていましたが、現在はこの話は怪しまれています。海老澤敏さんの近著「モーツァルトの回廊」(立読みしかしてません、ゴメンナサイ)では、「仮説」とまでお考えではないのでしょうが、「(マンハイムに行ったモーツァルトがべた惚れしてしまった)アロイジアの気を引きたくて編曲したのではないか」なる、実に気になる推測がなされています。かつ、海老澤氏は、モーツァルトがフルート嫌いだたt、という通説をも否定しています。これは、モーツァルトが、ト長調協奏曲(K.313)だけでなく、交響曲や室内楽に魅力的なフルートパートを書き続けたことからして、充分説得力のある見解です。私たちは、モーツァルトが書簡で父に
「あのいまいましい楽器(=フルート)のために作曲しなければならないなんて!」
と書いていることに惑わされ続けて来たと言えるでしょう。これについては、管楽器にお詳しいかたが、べつのところで、「フルート奏者にはピッチを正しくとれる名人が少なかった」と述べることで、海老澤氏の見解を先取りしていましたが・・・こちらは当時、とくに協奏曲を演奏するのであれば宮廷音楽家でしたでしょうし、宮廷に採用される楽員は(もともと供給過多の中から厳選されたのですから)、あまり安易に首肯していい意見だとは言えないでしょう。



もうひとつ、モーツァルトのオーボエ協奏曲には、未完で終わっているヘ長調の第1楽章の草稿がのこされていまして(K.293)、1778年11月にマンハイムで手がけ、何らかの事情で中断してしまったもののようですが、楽譜を見るかぎり(NMA第14分冊695頁、Serie V "Konzete" werkgruppe14の付録、167頁)、主題は「ハ長調協奏曲」より柔らかめでありながら構想が「ハ長調協奏曲」と似ていること・でありながら、充分に独自性を持っていることが窺われ、未完であるのが非常に惜しまれます。オーケストラ呈示部の48小節までは出来上がっており、49小節からのソロが(62、63小節に補助的に第1ヴァイオリンをはさみ記している部分を加え)70小節の1拍目まで書かれています。
・・・これは、補作して仕上げられるシロモノでは無いでしょう。残念です。

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コメント

K314は、「オーボエっていいなあ」と素直に素人に教えてくれる曲ですよね。ハインツ・ホリガーがオススメです。

投稿: ランスロット | 2008年5月 5日 (月) 19時03分

ホリガーをお勧めになるとは、やはり、さすがです!
今日までの2泊3日の合宿の中で、オーボエの人たちとも幾つかの話をしたのですが、
「(BSで放映した)こないだのホリガーを見て、聴いちゃったら、<やっぱりホリガーしかない>って思っちゃうよね」
と異口同音に言っていました。
若い時から、まず初めに技術、それから設計、続いて仕上げ・・・さらに検証、ということをして来た人ですから、若年時のホリガーについては
「つめたい感じだとばかり思い込んでいた」
のだそうで・・・これは私にも理解できました。
「でも、そうじゃなかったんだよね。総合的に仕上げるって、こういうことなんだ、ていうのを筋道をきちんと立てて見せつけられた。すごいことだ!」

そういう、「すごいこと」を感じる感性も、私は「すごいこと」だと思います。

投稿: ken | 2008年5月 5日 (月) 23時16分

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