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2008年5月12日 (月)

曲解音楽史31-32補遺:スマトラ島の音楽

前の回:1)音という手段 2)リズムの成立 3)音程から音階へ
    4)言葉と音楽  5)トランス 6)古代メソポタミア
    7)古代エジプト 8)古代インド  9)古代中国 10)古代ギリシア
    11)古代ローマ 12)初期キリスト教の聖歌について
    13)ササン朝ペルシャ  14)西暦5,6世紀ユーラシア音楽横断
    15)中世前半の西ユーラシア  16)唐朝と朝鮮・日本 17)「声明」の伝来
    18)モンゴルと中央アジア北方 19)「十字軍時代」の西ユーラシア
    20)日本固有(?)の古歌 21)グレゴリオ聖歌
    22)平曲と能楽:付)発声法について 23)アンブロジアン聖歌・ローマ聖歌
    24)西ヨーロッパ中世 25)ジョングルール 26)十字軍時代前後のイスラーム
    27)ペルシア伝統音楽〜中世からの遺伝子 28)インド中世 29)宋・元時代の「中国」
    30)日本の「オラショ」 31)ヴェトナム伝統音楽 32)インドネシア 補遺:スマトラ島
    33)東アフリカ



マルコ・ポーロの元からの帰路に沿った世界の音楽を巡る旅は、いちおう前回で終わっていたのですが、その中で素材が見つからず断念していたものの一つに、なんとか触れることが出来ましたので、「補遺」として簡単に掲載します。

東南アジア島嶼部の「スマトラ島」です。

結論から言えば、触れ得たのはこの島の西部、すなわちインドネシアの中では歴史的におそらく最も初めにイスラム文化と接触した一帯に残されていた音楽なのですが、想像とは全く異なり、実際には「イスラム教的」というよりは、より東南アジア伝統そのものに近い(分かりにくい言い方ですみません)ものでした。

耳にしえるものは、この島に何種類も残っている伝統音楽のひとつに過ぎないのかもしれませんが、それが「銅鼓ガムラン」でもなく、イスラム的、あるいはヒンズー的な撥弦楽器でもないものであったところに、大きな意味を感じます。

西スマトラの音楽は、「竹笛を伴奏とした歌唱」なのでした。

これは、(今まで採り上げていませんが)ビルマ残っており(ちなみに、ビルマ【ミャンマー】の古典音楽はタイの宮廷音楽を18世紀に輸入したものとみなされているのですが、竹笛についてはどれくらい遡るのかは不明です)、バリ島ではガムランの中にも取り入れられており、さらにフィリピンの土着音楽にも定着しているものですから、インドやアラブの影響以前の「東南アジア世界」の音楽の原型を最も忠実に引き継いでいる可能性があります。

念のため柘植・植村著「アジア音楽史」(音楽之友社 92頁)を確認しますと、以下のように記述されています。

「東南アジアの音楽においては、外来音楽を取りこみはしたが、それが音楽の構造と様式を決定づけるものではなく、基層文化の要素を自ら発展させて独自の文化を作り上げたということができるのである。」

かつ、面白いのは、この竹笛文化、(いつごろのことかは突き止めなければなりませんが)、響きを聞いていると、日本の尺八と、調べの上で非常に似通った印象を受けます。・・・これは、是非、洗いなおしてみたいところです。wikipediaの記事には鎌倉時代以降の移入とありますが、東南アジアとの交流史が必ずしも明確ではなく、典拠を知りたいと思っております。

また、竹笛文化は、パプア=ニューギニアの音楽にも引き継がれています。
パプア=ニューギニアの音楽の例は前に上げていますので、そちらをまたお聴き頂ければ幸いに存じます。

さて、西スマトラの音楽(アルバム「ミナンの風」KING KICW 1080に収録されているもの。現在、入手困難)は、前口上を伴う歌唱が主体で、歌い回しが非常に魅力的なのですが、歌を伴うのは長いものばかりですので、恐縮ですが「サルアン(スリン)」と呼ばれる竹笛の独奏曲の方を聴いて頂きます。

(パウア村の太鼓)

興味深い点が2つ。
西欧音楽ですと管楽器では(「管弦楽法」の教科書以外では明確に意識されることが無い)フラジョレットの技法が多用されていること・・・それによって標題音楽的な効果を狙ったのでしょうか・・・。これはタイの擦弦楽器ソードゥアンでフラウタート(弦楽器で多様なフラジョレットを用いるのは非常な困難を伴うため、弓を糸に浅く当ててオクターヴ上を出す奏法、すなわちフラウタートを用いているのだと思われます)を多用するのと同じ発想から生まれた様式ではなかろうかと推定されること。
もうひとつは、音程です。
西欧音楽で言えば「ドレミファソ」に当たる五音の中に収まってしまっていますが、それでいて単調に陥りません。
なお、音程は西欧式の平均率に慣れていると
・「ド」が低く、それに伴い「ソ」も低く聞こえ
・「ド」に対して「レ」が高く、従って「ミ」が低く聞こえ
・「ファ」が西欧音楽で言うところの微分音的な音程に聞こえます
・・・が、「ド」・「ミ」・「ソ」の関係は純正調、すなわちピュタゴラスの発見した音程関係になっているのであって、「レ」・「ファ」の音程の位置も、その中で決めているもののように聞き取れます。すなわち、モノフォニーであるために、音程関係を人工的に調整したものを「是」としていない点は、実はある意味では高度なことなのだということは、銘記して頂いてよいと思います。
(但し、今回上げたサンプルは短音階的な旋律、したがって上で採り上げた旋法とは違っていますので、「(ソ)ラシドレミ」で受けとめると「シ・ド」の音が高く聞こえる、という風になっています。旋法によって音程関係を変えているのは、響きを考慮してのことかと推測しております・・・装飾的な冒頭部を除き、音楽本体で実際に使われているのは「ソラシド(=ドレミファ)」の四音で、終止音が「ラ(=レ)」です。「3)音程から音階へ」をご参照下さい。)

なお、スマトラ島には、この他にオーボエ系の「スルネ」、両面太鼓「ゲンドラン」などの楽器もあるそうです。(若林「世界の民族音楽辞典」・・・残念ながら詳しい記載に欠け、民族分布と楽器の関係についてはこの本だけでは分かりませんが、それでも手元に置いておくと、民族音楽について最も簡便に調べることの出来る本ではあります。若林さん自体のHPなども参照すると良いでしょう。)

ほんのわずかな補遺で、スミマセン。

世界の民族音楽辞典/若林忠宏著Book世界の民族音楽辞典/若林忠宏著


著者:若林 忠宏

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