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2008年4月15日 (火)

やっぱりいいたくなっちゃった。。。

     夢想家には夢を見させておくがいい
     彼らの好きな理想の国を
     そんな楽園あるはずもない
     かぐわしき花、美しき木は
     揺るぎなき地にこそ育つもの
     無垢でもなく、賢明でも、善良でもなきわれらは
     ただ己の知る最善を尽くすのみ
     家を建て、薪を割り
     庭を育てよう

     ----後掲書所載、L.バーンスタイン「キャンディード」中の歌詞、山本章子訳----
     


「おかどちがいじゃないですか?」
そんな印象を受けたのは、最近、奇しくも同じイニシャルMをもつかたのお出しになった、「クラシック音楽(!)」関係の啓蒙書です。
私が「おかどちがいじゃないですか」といってしまっているくらいですから、私自身は購入もしておらず、したがって、私の綴ることの方が「おかどちがい」である可能性も充分ありますので、そこはお読みくださるかたの良心と判断にお任せします。


まず、1冊目は、ラ・フォル・ジュルネ・ジャパンにも貢献し、最近テレビなどへの露出度が高くなった、とあるアタマのご研究者のご本ですが、「クラシック音楽」がいかにアタマ(この人のお考えでは、イコール情操)によい影響があるか、ということについて、ご自身の経験をもとに<演繹>して<延延と>お述べになっている。
・・・魚の「鰹」のとある成分が<アタマにいい>と言われて久しいですが、鰹が大好物の私が未だにお馬鹿である、ということを<演繹>して新通説を<ダラダラと>開陳する、すなわち、「そんな成分、べつにアタマにいいわけではない」と述べるのに等しい論の進め方で、はなはだ気に入りません。ラ・フォル・ジュルネ・ジャパンが何故、都度成功してきたかへの本質的な反省と、今後への洞察にも欠けています。


もう1冊は、コミックを元にしたテレビドラマの音楽監修と、同じくそのコミックの音楽を題材にしたコンサートを指揮して有名になられ、いっときは私もファンになった、本来は指揮者ではないMさんの出された本。これは、クラシック音楽の聞き方の薀蓄本で、前に作品の聞き方のほうを列挙した本を出されていまして、今度(4月刊行)でお出しになったのは、コンサートへ出かけるときの服装から拍手のマナーまでお綴りになったものです。・・・まあ、<ツウ>のかたにとっては常識なのかも知れませんが、一方で、お書きになったことの全てが、実はこんにちの「クラシック音楽業界」の慢性的な不況を招いた原因になっていることばかりでして、ご自分は存分にお稼ぎになっていらっしゃるから構わないのかも知れませんけれど、他の音楽家さんの生活についてはどうお考えなのでしょうか?「クラシック音楽は敷居が高いのは当然」だとか、「聴衆がどこでどう拍手するかをレクチャーしましょう」なんてのは、<余計なお世話>だと言いたくなります。

後者のMさんは、ご自身の若かりし日の、貴重な体験を素直に美しく綴ったご著書もあり、私はそれに打たれて彼のファンになったのでしたが・・・その後のご本は、どんどん初心をお忘れになっているような記述ばかりで、目を疑っております。これからの「クラシック音楽業界」はどうして行ったら伸びるか、という展望をお書きになった本もお出しになっていますが、アイデアの面白さは抜群だったものの、実際的なマーケティングを考慮したものではないために、統一的な、あるいは臨機応変なものにはなっておらず、本来ならその延長としてのヴィジョンを呈示するご著作をものにすべきではないかと思うのですが、どうも、今回の新刊は、過去にせっかく打ち出したアイデアをつぶす方向が目立ち、
「Mさん、どうなっちゃったの?」
と声をあげたくなりました。
本来は指揮者ではないこのかたが、随所に「指揮したい」仰っていることにも反感を覚えます。指揮しなければあなたの音楽は出来ないのですか? 「弾き振り・吹き振り」について、せっかくプレヴィンのいい例を出しながら、「弾き振り・吹き振り」の捉え方を誤っています。アシュケナージはピアニストに専念しているときはいい「弾き振り」をしていましたが、日本の某超一流オーケストラの指揮者になってからは、だんだんにその指揮も下降線を辿る一方です。前任者が築き上げた財産で何とか食い繋いだ、という恰好でした。そこも、お見えになっていないのでしょうか?

とにかく、この2冊に限らず、「クラシック音楽は特別だ」ということを主観や、歴史の表層の薀蓄を述べるだけで強調し、「クラシック音楽」というジャンルを<なにか、オバカな私とは違う世界のものなんだって!>という読後感を与える本が屋上屋を重ねるのには、ほとほと嫌気がさしました。最たるものはCD紹介本なのですけれどね、こちらは「ちょっと特別なCD」というメディアに興味のある人だけが手を出すだろうから、まだ害が少ないのかも知れません。CD本じゃないから、たちが悪いのです。

なんだか気が高ぶってしまって、すみません。
でも、こうした本は、本当に、私は人様には読んでもらいたくない。


「クラシック音楽」分野にのみ(加えてジャズもあるかもしれません)目耳が行きがちのかたに、音楽だけを念頭におくと読みにくいかも知れませんし、お安くもない(2,400円+税)のですが、むしろ目を通して頂きたい種類の本があります。

芸術の売り方――劇場を満員にするマーケティング Book 芸術の売り方――劇場を満員にするマーケティング

著者:ジョアン シェフ バーンスタイン

販売元:英治出版
Amazon.co.jpで詳細を確認する

コトラーが推薦しているだけあって、経営関係の本ではあり、最初に手にしたときには
「結局、損か益かだけでしか<クラシック音楽>業界を捉えていないんじゃないの?」
という印象がありましたので、読む必要があるかどうか、ためらいを覚えました。内容も海外の事例ばかりですので、日本の実情に合うのかどうかも疑問でした。
ですが、次の一文に接したとき、
「やはり、これはよく読まなければならない」
と、強く感じました。

「マーケティングを一種の投資と考え、その投資にかかる費用は長続きする顧客や収入を生み出すのだと考える必要がある。」(p.144)

・・・すなわち、数多くは明言していないのですが、本書の著者は、<クラシック音楽>は大事な<資産>であり、だからこそ、<資産>を保持していくだけの収益を(助成金や寄付金ではなしに、企業努力・団体の努力として)確保する・・・そのための大胆な投資もする必要があるのだ、というポリシーを、バックボーンとしてしっかり持っているのです。

著者は、音楽の演奏者やバレーの演じ手、あるいはそれらの監修者が、自分の発案に沿った聴衆・観客像のみを期待することに警鐘を発しています。
数多く採り上げられた事例は、子供から老人まで気軽に「クラシック音楽」を楽しめる企画に満ち溢れてはいますが、それに偏っているわけではありません。「楽しめる企画」というのは、企画自体も重要ではありますが、(どんなものをさしてそういうのかは難しいですけれど)「正当な企画」の顧客を確保する補助的な手段であることを見失ってはいけない、とも述べています。(いずれも、著作全体を読まないと完全には伝わってこないメッセージではあります。)
面白いものして、ひとつだけ。
「定期会員は、会費値引きしたからと言って増えるものではない。すなわち、定期会員と会員費には価格の高低による相関関係はない」
ということが、具体的な事例をいくつも、何度も挙げて述べられています。このことは、プロのオーケストラは良く良く参考にすべきであるかと思います。
また、本文中には非営利の団体の運営についてどう考えるかも言及されています。したがって、アマチュアオーケストラのプランニングをなさっているかたにも充分参考にしていただけます。


再び、音楽家のMさんのほうへ戻ります。
Mさんは、コミック絡みのコンサートのほかに、レクチャー・コンサートという注目に値する企画も継続的に行なっており、家内を亡くした後の私たちもご案内を頂いて堪能させて頂きました。・・・それは、「歴史的」な作品を「歴史的」に演奏してみせる、それにあたって、信頼できる良心的な研究者の成果を取り入れ、前半に充分な説明を行なった上で、後半は演奏そのものを聴衆に味わってもらう、という、素晴らしい内容のものでした。
この点に関する敬意は、今でも失っておりません。
ですが、私の感じるMさんの欠点は、ご自身が納得されるところまではよろしいのですが、それ以後は「納得してしまった」ことに対し拘泥してしまうために、柔軟さを失う、というところにあります。
かつ、どうしてもご自身が「指揮」することばかりご念頭にあるお姿は、(これは私の、あまりに日本人的すぎる美意識なのかも知れませんが)美しくありません。
かつて、まだ第2次世界大戦後の心の傷を背負って生きている西ヨーロッパの人々に深い感慨をもって接してこられた日々を、是非再び新鮮に思い出して頂き、本当にご自身にふさわしい、あなたの「音楽」を、それなりの深みを持って聴衆にアピールするにはどうしたらよいか、を、硬い発想を押し隠した上でのジョークによってではなく、生真面目でもいいから原点に返った新鮮な、柔軟な発想でお考えいただければ、このうえない喜びなのですが。

かつて、私はこのM先生に、モーツァルトのスコアの問題やハイドンの交響曲の時期的な諸問題について、無償でご教示をお受けしたことがあり、そのことにはいつまでも感謝の念を忘れないだろうと思います。

「ですから、どうか、あなたの進むべき向きが今のままで良いのかどうか、是非、お考え直してみてくださいませんか?」

そのように、切に訴えたい気持ちでいっぱいです。


CDや『クラシック音楽』書籍のことなら、こちらのサイトをお勧めします。お買い物も出来ます。

CVLTVRA ANIMI PHILOSOPHIA EST ― おもにクラシック音楽な日乗

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コメント

この本、買いました!
もちろんここのアフィリエイトで!!

GW後半にじっくり読むつもりです。

投稿: キンキン@ダイコク堂 | 2008年5月 1日 (木) 10時04分

お、おありがとうございます!

って、アフィリエイト、どれだけポイントたまってるのか、確認しておりません。。。

たしか、まだそんなにポイントたまってないし。。。
あてにしてないし。。。

でも、キンキンさんにはきっとお役に立てる本だと確信しております。

私も役に立てなくちゃ!

投稿: ken | 2008年5月 1日 (木) 22時19分

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