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2008年4月29日 (火)

楽譜の読み方3(調・旋法・音階)

さて、
1回目では五線譜の主な記号の意味、それによって示される「音の高さ」を
2回目では音符に棒や点(ホクロ)が付くことで示される「音の長さ」を
すっごーくかいつまんで記してみました。

いわば公式集みたいなものですから、分かりにくいでしょうか?
でも、市販の「楽譜はこうしたら読める」という本に比べれば、面倒なことに立ち入っていない分、
「ドレミファソラシド」と唱ってみて頂けるだけで、感覚的には掴みやすいのではないか、と思っております。

・・・いや、ここまではしょると、かえって分からないかなあ・・・不安。

でも、とりあえず、「楽譜(正しくは<五線譜>が読める)」最小限については、綴り尽くしました。
あとは本当に理屈を突っ込みたくなったときに突っ込めばいい話ばかりだ、と、私は思いこんでおります。



「読み方」の話は、とりあえず今回で締めくくりますが、前の2回とは毛色が変わります。
最初から、ちょっと面倒なお話ですが、理解しておいて頂ければありがたく存じます。

前2回では、「長調=長旋法、短調=短旋法」という言い方をしましたが、どうしてそんな言い方をしたのかは、あえて突っ込みませんでした。

実は、(いろんな本でいろんな言い方をしていますが、それらの主旨にある通り)「調=旋法」ではありません。

これも歴史的な背景を述べると面倒ですが、
・「調」という場合には「絶対的な音の高さ」を基準としています。
・「旋法」という場合には、「唱われる音の相対的関係」を表しています。

音楽は本来「唱われる」ものですから、一般人には「旋法」のほうが大切です。
ところが、もともとは奏楽の専門家が学ぶべき音楽理論の用語である「調」の方が、いつの間にか、「旋法」よりも普通に使われるようになり、西欧音楽では「旋法」が17世紀後半あたりには「長旋法」と「短旋法」の2つきりに集約してしまったために、「調」と「旋法」が混同されてしまいました。

(ちょっと面倒な注釈:バッハの有名な「トッカータとフーガニ短調」は「ドリア調」というニックネームを持ちますが、実態はドリア「旋法」ではなく、短旋法が使われています。)

西欧に限らず、ヨーロッパに流布していた「唱い方」は、グレゴリオ聖歌の普及と共に神学者さんたちによって整理され、「教会旋法」と呼ばれる4種類の旋法にまとめられました。図示しませんでしたが、これはさらに「正格」と「変格」の二つに分けられましたので、実際には8つの「旋法」がまとめられました。それを音階として示したのが、下の図です。「変格旋法」については終止音のみを赤で描きましたが、たとえば「正格」のドリア旋法の<終止音>が「レ」、でしたら、「変格」は呼び名のアタマに「ヒポ」と付けて「ヒポドリア」と呼び、終止音を下から5つ目の音(=正格旋法の吟唱音・・・2回目の話の後半参照)に持ってきます。

(クリックすると拡大します。)

Gakuhusetsunei3


図の最下段に例として<グリースリーヴス>のメロディを書いてみました。
いま普及している読み方ですと、この楽譜は「イ短調」ということになりますが、唱い始めがレであり(これは教会音楽のルールだと「ド・レ」として始まるべきものなのですが、最初の「ド」が歌の性質上欠落したものと見なし得ます)、2番目の音は変格旋法の吟唱音である「ファ」で、かつバツ印を付けた音が半音下げになっていないことから、ヒポドリア(変格ドリア)旋法であることが確認出来ます。

(またもやちょっと面倒な注釈:始まりの音から想定されるのは「シ」の音が半音下げになること、かつニ短調になること、なのです。「イ短調」ならば「ミ」で始まるのが、短旋法としては正しい・・・これはしかし、この旋律では考えられないことです。最初の「レ」や、3小節目・・・あ、前に説明していませんでしたが、小節からはみ出た短い音からメロディが始まる場合、その短い音は「弱起」といって、小節としては数えません。ですから、3小節目は「ファーレレードレ」とある小節になります。・・・3小節目が前の小節から「ファ」の音へと引っ張って来られるのを見れば、吟唱音が「ファ」だという事実が歴然とするからです。すなわち、短旋法を前提として<グリースリーヴス>のメロディを読むと、ニ短調とイ短調が入り乱れていることになってしまい、複雑です。まさに、バツ印をつけなかった「シ」の音の存在が、『このメロディは短旋法ではない』ことを示しているのです。)

20世紀に入って「教会旋法」と称して用いられるようになったものには、ほかに3つ(イオニア、エオリア、ロクリア。ただし、イオニア旋法は長旋法と同じもの)あります。

ですが、起源の古いヨーロッパの歌は、中世の理論でまとめられた4旋法の正格・変格いずれかに当てはまってしまいます。(それが民謡収集のかたちで初めて明らかになったのは、なんと20世紀に入ってからでして、発見者はバルトークとコダーイなのです。発見した旋法を活かして書かれたバルトークの「ミクロコスモス」は、1〜4巻は初歩のピアニストのための教本の一種と見なされていますが、実はそれ以上に、17世紀以降に「宮廷化・ブルジョア化・市民化」されていった音楽の中で見失われてしまっていた、本当に古くからのヨーロッパ音楽の原点を一から学び直す意図を持って編まれており、まさに「音符だけで学ぶ音楽史」といった側面をも併せ持っているのです。)

ちなみに、アジアやアラブの音楽は「五音音階」だといわれますが、どの世界にも「音階」上の音しか使っていない音楽、というものはありません。日本も、まず理論的には(中国からの輸入ですが)7音音階を構成できるだけの音を「認識」しています。ただ、一般的に歌われる歌が、たとえばいわゆる「都節」だの「田舎節」だのと呼ばれるような音からのみで成り立っていることが圧倒的に多い、ということで、それを考慮すると、

・まず、「旋法」を「唱い方」と定義したとする
・すると、上図は「旋法」を「音階」に集約したものであって、「旋法」そのものではない
・「音階」とは、従って、「旋法=唱い方」を抽象化したものに過ぎない

ということがわかります。
かつ、実際の歌の中では、旋法を抽象化した「音階」には含まれない音も現れます。

上図では、参考までに、日本の「都節」がフリギア旋法であること、「田舎節」がミクソリディア旋法であることをも示しておきました。
日本の「都節」は、上向型と下向型で構成音が違う(上から2番目の音が、上向型ではレ、下向型ではド)とされていますが、上向だろうが下向きだろうがレである場合もあり、ドである場合もあり、旋法を「音階」に抽象化するときには、本当ならもっと気をつけるべきだ、ということは併せて申し上げておかなければならないでしょう。

小難しい屁理屈話になって済みませんでした。

ですが、これが、20世紀にとって「調」とは、「旋法」とは何だったかを考える上で、もっとも簡単な入り口のお話です。

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