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2008年4月24日 (木)

バッハ(J.S)新発見オルガン曲BWV1128について

先日、バッハのオルガン作品の大ファン、かつオルガンと言う楽器そのものにも精通しておられる(かつ、ご専門柄でしょう、中世アイルランドについて非常にお詳しい・・・聖ブレンダン伝説のサイトへのリンクを左下に貼ってあるので、是非ご覧下さい)curraghさんのブログ記事で、

「バッハのコラールファンタジー、新発見」

のニュースを拝読しました。

このオルガンコラール、断片は研究者には知られていて、果たしてバッハの真作か偽作かが議論されていたものだそうですが、上記ニュースを知った後で調べた限りでは、こちらのサイトhttp://www.jsbach.org/complete.html以外(こちらのブログ記事で知らせて頂きました)には、私のような一般人が手に出来るものでは最も詳しかろう、と思われる作品表にも記載がありませんでした。詳細情報はhttp://www.jsbach.org/bwvanh71.htmlに記載されています。

この作品の素材となっているコラールについては、同じものを用いてカンタータBWV178を作曲しており、少なくとも、このコラールが存在していることをバッハが把握していたことは間違いありません。

以上を確認した上で、リンクを辿り辿りして、発見されたという作品の筆者譜(筆写したのはバッハより1世紀後にライプツィヒのトマス・カントール、かつ旧『バッハ全集』の指導的校訂者でもあったヴィルヘルム・ルスト)画像をこちらのハレ大学のサイトで入手しました。(ハレはヘンデルゆかりの地です。筆写の経緯等はcurraghさんの記事、ならびにその記事上のリンク先をご参照下さい。)

入手できた楽譜は、おそらく曲の第1頁と最終頁だと思いますが、非常に綺麗な筆跡ですので、読むのも容易でしたから、夕べ我が家の安物DTMソフトで、内臓ソフトウェアシンセサイザーの音色もきちんと選択せず(単純にChurchOrganにしてしまいました)、楽譜の途中が抜けているのも承知の上で、連続で音声化してみました。これだけでもよく繋がるもんだ、と感心しちゃいました!
なお、実際の演奏ならばなされるだろうテンポの変化(早めたり、遅くしたり)も全く考慮しませんでした。ただ書かれている通りを音にしただけです。

雰囲気の把握だけ、のおつもりでお聴き下さい。
(ここを右クリックで、別ウィンドウで聴けます。)

・参考にした、 (1724年作)
"Bach・75 Kantaten vol.4" ARCHIV 439 368-2

・・・私の作ったオルガン音声に強弱がところどころあるのはソフトウェアの問題であって、私は何の加工も加えていません。ベタ打ちです。

テンポは、古めではありますが、上に併せて掲載したリヒター/ミュンヘンバッハの演奏によるカンタータのものを参考にし、
「大バッハは速めのテンポで演奏するのを好んだ」
という証言(バドゥラ=スコダ著書引用のものによります)も考慮して、ただし、あまり速くなり過ぎない程度に、ということで四分音符60(1秒間に四分音符1個が鳴る)よりやや速めた程度で設定してみました。

いかがでしょうか?(響きがお粗末でしたら、加工した私の非でございます。ただし、これだけ動きの少ないコラール旋律の第1詩節目でいきなり始まっている点・最終頁のコーダの延々と続く十六分音符が「あんまり工夫がない」気がする点は、「なんとなくバッハらしくないなあ」と感じました。とはいえ、バッハのオルガン作品には詳しくありませんから、他にもそういう作品があるのかも知れず、また、楽譜が部分的すぎるために「この部分だけが物足りない」感じなのかも知れず、私の印象は真贋を議論する上ではとりあえず役に立ちません。:5月27日付記~コラール旋律で始まるからバッハらしくない、という見解が誤りであることについては、5月14日に追記として綴りました。また、十六分音符部分については根本的に読み直し、5月26日に分析譜とともに言及しました。)

(5月7日追記)
以下の記述は、Curraghさんに頂いたご教示(コメント参照)を考慮し、
・私の知っている狭い範囲でのバッハからの類推でしか綴っていない
・楽譜を慌てて読んでいるため、読解のの可能性についての誤認と考慮不足がある
との、大きく二つの問題点があったため、訂正を検討しました。
が、読解の部分について別に記事を綴りましたので、誤認部分の削除と、削除したために生ずる齟齬の補正に留めることにしました。
読解の詳細は該当記事(5月26日掲載)をご覧下さい。

Curraghさんほど幅広いオルガン音楽知識がありませんので、なお妥当性に欠ける見方になっているかもしれませんが、私の限界ということでご容赦頂きますとともに、なおご指摘・ご指導等頂ければ幸いに存じます。

素材のコラールは本来7詩節から成っています。音声化したもの、すなわち入手できた楽譜を読んだ限りでは、パッと見だけでは最初の2詩節分までしか含まれていません。かつ、コラール旋律はまず鍵盤部(上声)に1節ずつ示され、続いてペダル部でその節を再度響かせる、という手法で作られています。したがって、単純に見ただけですと、完全版全ての楽譜は、演奏時間が今回音声化した分(約1分30秒)の3.5倍から4倍程度になるものと思われます。
最上声部に細かい下降音型が現れるところからが最終頁の分であり、この部分にはコラール旋律が全く現れていませんから、ここ以降はじつは曲のコーダ(終結部)となっていることが分かり、かつ、今回音声化したうちの約3分の1がこのコーダで占められています。
このことを考慮しただけですと、第1頁(16小節)でコラール部分の4割ですから、残り6割程度としてコラール部分と間奏を併せてあと22ないし24小節、それに最終頁が9小節ですから、全体で40小節前後と推測され、今回音声化したものに対し、本来の演奏時間は1.6倍程度。それだと2分30秒で終わってしまいます。
研究者の発表では7分程度、となっていうようですから、もっと複雑な要素もあるのかと思われます。
(5月27日追記)ただし、後日掲載しました通り、講評された範囲内では、私の目にはどうしても「バッハの真作」だとは考えにくい特徴があります。

真作なのであれば、研究者の推定では、1705〜10年ごろの作品だ、と判定されたそうです。
見た目でも、音声化してみたところでも、私には、有名な「トッカータとフーガニ短調」BWV565のうちのトッカータ部分と非常に似て感じられます。かつ、作品中で多用されている「・タタタ|ター」という動機も、同じのフーガの主要動機です。
この「トッカータとフーガニ短調」も研究者の推定した時期と概ね同じ頃(1704年説あり)に作曲されたというのが最近の見解ですから、私としては研究者の判断は妥当なものであると考えております。

なお、楽譜はここにリンクしたサイトで画像を見ることが出来、ダウンロードも出来ます。
印刷時に適切な設定をしないと、第1頁のほうは最下段が2段しかないように見えますが、ちゃんと3段あり、ペダル声部が抜け落ちずにかかれていることも分かります。
第1ページの最初には第1段二行目(鍵盤下声部)に"Piano"、第2段1行目(鍵盤上声部)に"Forte"の記入がありますが、私はバッハ自筆のオルガンの譜例を知りませんから断言は出来ないものの、これは筆写者がオルガンのストップをどう設定するかのための備忘のために付記したのではないか、という印象を受けました。どんなもんでしょうか?(これについては、Curraghさんに示唆を頂きましたが、写譜した人物が加えたのではないか、とのことです。詳細はこの記事に寄せていただいたコメントをご参照下さい。オルガンの双方に関する興味深い内容まで言及いただいており、大変参考になります。記事下部の「コメント」というところをクリックして頂ければ読むことが出来ます。)

なお、リンク先の説明(ドイツ語)では、年代の判定はBWV718(1703年とされています)を参考としたもののようです。
BWV718はコラール「キリストは死の絆につきたまえり(Christ lag in Todesbanden)」のオルガン用編曲です。これとの関連性も深い、ということなのでしょう。作りは似ていると言えなくもありませんが、こちらはコラール旋律では始まっていません。
新発見のBWV1128についてはブクステフーデの影響について云々されています。
この点は、BWV565も同様ですから、ちゃんとご研究なさったかたの仰ることに間違いはないのだろう、と信たいところです。(ただし、BWV1128が真作であるためには、今回見ることの出来なかった間の部分にかなりの充実が認められなければならないはずです。少なくとも、最終頁はBWV565終結部の緊張感には遥かに及びませんが、それはコラールファンタジーだから「より軽くて当たり前」で済む話ではない気もします。)

上にリンクした以外の、日本の関連記事【新聞ニュースは含まず】)
2008-04-21 - 現代古楽の基礎知識
新発見の曲を、早速ピアノで (Bach with Piano)

画像)クリックすると拡大します。
第1頁
Bach_bwv1128

最終頁
Bach_bwv11282

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コメント

Kenさん

いまプリントアウトした筆写譜画像と首っ引きで、Kenさんの作成されたファイルを聴いております。

1). BWV.718は、「コラール・ファンタジー」として知られている唯一のバッハのオルガンコラールで、ヴァルヒャの全集盤にも収録されてなくて、しかたないので下記サイトのMIDI音源で聴いてみました。門外漢の第一印象としては、様式的には北ドイツオルガン楽派によく見られる「幻想様式」の書き方かしら、と(買ったばかりのピーター・ウィリアムズの本を見ますと、あきらかに「コラールファンタジー」形式だと言えるのはエコーパッセージ部分のみで、全体としてはもっと大きなスケールの「パルティータ」風の変奏を試みていたのではないかとありました。またおなじコラール旋律を使ったシャイトの作風との類似性も指摘されてました)。もしかするとKenさんが「規則性が崩れる」と指摘された部分から、自由な中間部に入るのかもしれません。研究者はもちろん筆写譜の全容を知っているので、北ドイツオルガン楽派の特徴が見られると考えてBWV.718を拠りどころとしたのだろうと思います。

http://blog68.fc2.com/j/jsbach/file/bwv0718.mid

出だしがコラール旋律ではじまっている…ことについては、「オルガン小曲集」のコラール編曲もこの手の開始が多いので、とくに意識はしてませんでした。最終ページはあきらかにカデンツァですね。

2). 楽譜冒頭の指示について。おそらくバッハ自身のものではなくて、筆写者の書き写した「底本」にあったのだろうと思います。この楽譜がキッテル経由なのかどうかはまだ不明ですが、バッハの死後、演奏指示については通奏低音同様、すでにすたれてバッハの意図がかならずしも伝承されているわけではないからです。表記を額面どおりに受け取ると、下声部を強音のリュックポジティフで、上声部を弱音のオッパーヴェルクで弾く、ということなので、「二段手鍵盤と足鍵盤用」の作品、ということになりますね。ふたつの手鍵盤を想定していたとなると、エコー風のかけあいパッセージも出てくるかもしれません。

たしかに終結部なんか見ますとBWV.565と似ていますね。ブクステフーデやベームの作品とも似ています。おそらくアルンシュタットの教会で、「コラールが聞き取れないじゃないか!」と叱責を食らっていたころの作品ではないでしょうか(確実に真作だったら、の話ですが)。

投稿: Curragh | 2008年4月27日 (日) 14時38分

Curraghさん、詳細な読みを、ありがとうございました!
大変勉強になります。

「オルガン小曲集」のコラール編曲とコラール・ファンタジーを同列に考えてよいのか、ということだけは、未だに疑問に思っているのですが、それはBWV1128の始まりかたが、仮にコラール旋律で始まることが真贋の根拠にはならないにせよ、「オルガン小曲集」のどの作品に比べても密度が薄いからなのです。
それはたとえば、「シューブラー・コラール集」の作品群との比較でも言えることです。

この点の疑問は、しかし、Curraghさんの仰る通り、
>アルンシュタットの教会で、「コラールが聞き取れないじゃないか!」と叱責を食らっていたころの作品
ならば氷解するかな、と思いました。あるいは、BWV719であればコラール旋律を長々と単体で奏するところから始まるので(記事を記した後で分かりました。ちなみに720も同様ですが、これは舞曲風の主題なので、ちょっと違います)、「物足りない」のはパソコンで音にしたのがいちばんの原因なのかもしれません。

終結部に関してはバッハを買いかぶり過ぎなのかもしれませんが、これもちょっと物足りない気がするのですよね。

オルガンの鍵盤の使い方の分析は、さすがCurraghさんならでは、でして、私は全然想像がつきませんから、ただ頭が下がります。

いずれにせよ、全貌を素晴らしい演奏で聴いてみたいですね。
第2葉目以降がどんなつくりなのか分からないと、軽々と「え? 真作? ウソなんじゃないの?」とまでは言えませんね。。。

真作であることを、ますます強く祈るようになりました!

投稿: ken | 2008年4月27日 (日) 21時53分

ああ、わたし、上声部が「強音」のリュックポジティフ、下声部が「弱音」のオッパーヴェルクなのに、なぜか逆に書いてしまいました…しかるべく訂正してお読みください。m(_ _)m 上声部の入りでは、親指で下の音鍵を押さえながら人差し指で上の鍵盤を弾きはじめる(あるいはその逆)という技法も使うことになるのかもしれません。

ちなみにオルガンコラール演奏において、下の鍵盤で親指のみを滑走させて弾く技法はシャイト以来の伝統的奏法でもあります。バッハやラインケンの作品には、ときおり両脚で和音を奏でる「二重ペダル」という技法で弾く箇所があり、いずれも高度な演奏技術を要求されます。「二重ペダル」は後世の作品、ボエルマンの「ゴシック組曲」とか、ヴィドールの「オルガン交響曲第5番」終曲の「トッカータ」でも出てきます。

それとこれは質問なのですが…自分はコラールの1行目の前半と後半とで分かれているように見えました。つまり出だしのテノールとすこし遅れてバスに前半部分が、6小節目最初のBの四分音符ではじまる部分と、そのすぐあとにつづくバス声部に後半部分が、ついで12小節目から後半部分を変形した音型がソプラノ声部に現れる、というふうに思ったのですが…。出だしのところだけちょっと音を出してみました。もっともどんな感じなのかつかむためだけですが。

「オルガン小曲集」とは、もちろん直接の関連はないと思いますが、一種の変奏曲である「コラール・パルティータ」との関連性では北ドイツオルガン楽派つながりであると思います。ヘルマン・ケラーの本でも、BWV.718をコラール・パルティータとおなじ項目で論じていました(pp.238-49)。「コラール・パルティータ」は1700年以降、急速に衰退したジャンルですが、ここでもバッハは師匠のベームを凌駕するすばらしい作品を書いています(BWV.768)。

投稿: Curragh | 2008年4月27日 (日) 23時48分

私は1〜3小節目が中鍵盤上声部での第1節、4〜5小節目がペダル部(バス)6〜7小節目が間奏、と読みました。・・・が、ご質問を受けてみますと、これは間違いだったようです。なにか、早とちりをしたのですね。6小節目からはご指摘のように、テナー声部に第2節があらわれています。8小節目でそれがペダル部(バス)に行き、13小節目のアウフタクト(すなわち12小節目の最終拍)からソプラノに第3節があらわれる、というつくりで、第1節の後(7小節から)を2小節間間奏、とした際には読みをこの部分でダブルカウントしてしまっており、実際に間奏と言える「2小節」は10〜11小節のみですね。私のイメージした「規則性」は誤りだということになります。
ご質問のかたちをとってのご指摘というご配慮に感謝申し上げます。
(コラールそのものの節の分割は、ないものと思っております。)

オルガン作品の分類自体はまだ全然分かっておりませんので、ベームなどの作品も徹底して勉強していかなければ。。。
BWV768って、大作ですよね!

重ね重ね、ありがとうございます。記事本文の書き直しは少々お待ち下さい。

投稿: ken | 2008年4月28日 (月) 00時23分

音楽学学理を、研究されているようで、私のような、音楽の愛好家とは違い、楽譜や演奏の立場からの考察は、私はしておりません。もし、そうした価値のある研究を、ウィキ・ペディアなどに、発表することも良いのではないかと思います。前に、ディートリッヒ・ブクステフーデについての記事が、秀逸だと評価され、我々でも読めるウィキ・ペディアでその博識をボランティアすることもいいと思います。
 オルガン・コラールによる楽譜考察については、私は何も語れませんが、ぜひ、そうした研究の成果など、発表していってください。
 たまたま、ネットサーフィンをしていたら、立派なブログがあることを知り、何か書きたく拙いことを書きました。がんばってください。

投稿: さとちゃん | 2008年5月20日 (火) 17時05分

さとちゃん様、コメントありがとうございました。

拝読し、汗顔の至りです。
楽理の勉強だなんて・・・さほどのものではありません。ただ、長年アマチュアオーケストラで演奏して来ましたので他に話題に出来ることもなく、私が「音楽って何だろう」ということだけを独断と偏見で、でも夢中で綴っている、という程度のものでございます。

ただ、綴っている背景としましては、http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/10_5cec.htmlや、http://ken-hongou.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/post_75b4.htmlに綴ったようなことがございます。

今後とも宜しくお願い申し上げます。

投稿: ken | 2008年5月20日 (火) 21時51分

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