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2008年3月15日 (土)

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」(5)第3楽章

第3楽章については、「3月1日練習記録:付)1954年N響ライヴから」で述べました。

三連符の動きの連携が難しいのは、参考に掲げた演奏(CD)を聴き比べて下さればお分かり頂けますので、今回はそれを再掲しておくだけに留め、細かい比較はしません。

ただ、岩城盤(「連携」の面では途切れがなく、この点での違和感はありませんが)では、前半のうち、マーチの主題(オーボエが初めて奏でる)の「切れ味」が管楽器と弦楽器で差があります。
テーマが同じものである時には、楽器の相違を超えて同じ「切れ具合」で演奏しなければ曲の一貫性を損ないますから、他の演奏をお聴きになる場合にも、このあたりは是非注意して聴いてみて下さい。

第3楽章の構成についても、千葉潤氏校訂の音楽之友社版(OGT2122)で述べていることに私としての異議はありません。文章部分は割愛しますのでご一読下さればよろしいかと存じます。

アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ、ト長調 4/4(8/12)
 スケルツォ 主部   1-18
       中間部  19-36
       再現部  37-44
 移行部        45-70
 行進曲   主部   71-96
       中間部  97-112
       再現部  113-138
 スケルツォ再現    139-182
 移行部        183-228
 行進曲再現      229-315
 コーダ        316-347

以上の「つくり」は、パート譜等に記入して、把握をして置いて下さるよう、演奏する方にはお願い申し上げます。



スコアの解説で述べていない、動機の要素についてのみ、いつもの汚いメモで恐縮ですが、書き出しましたので、ヒントになさって下さい。
Tchaikovsky634要素のうちの最後の、4)装飾的要素 が活かされているのですが、芯になっているのは、あくまで1)のラメント(スケルツォの主題)と、3)の「運命の動機」(スケルツォ主題の伴奏部に、既に現れていることに注意して下さい。かつ、マーチの主題も、実は「運命の動機」の巧みな変形です)であることが、左の譜例でよくお分かり頂けると思います。

ここで、この楽章を含め、「悲愴」交響曲がチャイコフスキーの「幻想交響曲」にあたる、ということを、第2楽章の説明の際に述べました。その根拠について・・・正しいか誤りかは読んで下さるかたにご判断を委ねますけれど・・・スコアの解説にも伝記にもありませんから、ほんのすこしだけ綴ります。

いま、感銘を受けながら読んでいる、ある文学研究書に、次のような記述があります。
「個人全集という形態においては、作品は作家の固有名にしたがい、おおよそジャンル別に時間軸にそって並ぶ。そのため、作品が周囲の状況と作り上げていた関係、いいかえれば共時性を捨象してしまうことになる。」杉山欣也「『三島由紀夫』の誕生」64頁)

この言葉に沿えば、残念ながら、「共時性」を完全に拾い上げることは出来ないのですが(「交響曲全集」で「悲愴」を聴きました、というのが、音楽愛好家の場合は関の山でしょうし)、今何とか日本で探し出せる範囲内での資料を見る限り、「悲愴」を巡る、一見創作と同時進行していた言説についての関係者の証言は、むしろ、この交響曲に対する誤解を形作って来たように、感じております。<前提>で、既に他の方が詳しく検証していることを示しました通り、まずタイトルの日本語訳「悲愴」が、誤解から来る訳語であることも分かっていますが、それ以上に、「悲愴」の謎を解く鍵は、この曲単独の創作過程を追いかけていただけでは手にすることが出来ません。やはり周囲へ目を向けなければなりません。

演奏する前に、あるいは「悲愴」をあらためて鑑賞する前に、是非お耳にしておいて頂きたい作品は、ひとつだけあげるに留めなければならないのでしたら、なんとっても歌劇「スペードの女王」です。
筋書きは、おおよそ以下のようなものです。
・第1幕:主人公ゲルマンは、ふと見かけた美しいリーザに一目惚れするが、彼女には既に財産家の婚約者がいる。リーザは、しかしこの婚約に乗り気ではない。ゲルマンはリーザに愛を告白すると共に、カード賭博でリーザの婚約者から金を巻き上げる計画を立てるが、必勝の秘密を知っているのはリーザの祖母である伯爵夫人である。しかも、その秘密は悪魔の呪いによって、口外を禁じられている。
・第2幕:舞踏会で婚約者から愛を打ち明けらるリーザは、しかし、それを拒絶する。祖母の伯爵夫人は、場の雰囲気から何となくそれを察し、不機嫌で帰宅してしまう。そこへ、リーザから鍵を手に入れたゲルマンが侵入し、伯爵夫人を脅してカード賭博必勝の鍵を聞き出そうとするが、ピストルを突きつけられた伯爵夫人はショック死してしまう。
・第3幕:伯爵夫人の死に衝撃を受けたゲルマンは一旦帰宅するが、そこへ伯爵夫人の亡霊が現れて、カード賭博必勝の秘密をゲルマンに告げる。リーザとゲルマンは夜中に落ち合うが、秘密を手中にしたゲルマンは同時に悪魔の呪いによって狂ってしまっており、賭博上へと去って行く彼の背中を見つめながら、リーザは絶望して川に投身して自殺をとげる。カードの呪いは最後の切り札のところにこめられていた。そのために結局一切を失ったことに気づいたゲルマンは、やっと正気に返り、リーザへの詫びを口にしつつ、ピストル自殺をとげる。
(「スペードの女王」は、その呪いを象徴するカードであるわけです。)

筋書きはともかく。
まずはこの歌劇の全体の構成を見て下さい。複雑に絡み合い、最初から悲劇を予想させる恋愛模様を冒頭に置いたあと、舞踏会の場面を持ってくる、という構成は、「悲愴」交響曲に類似しています(酷似、とまでは言いません)。
さらに、特に第2幕後半から第3幕前半にかけての音楽は、耳にしておく価値があります。
・第2幕第2場のゲルマンの登場シーンでは、バックに「悲愴」第1楽章に現れる音型が「くるみ割り人形」に使われている動機と混在したかたちで現れます。
・第3幕第2場のリーザの歌の基調は、「ラメント」の動機、すなわち「悲愴」交響曲で一貫して重要な役割を果たしている第1要素になっています。

名指揮者だったラインスドルフも「ひとつのオーケストラ作品を演奏するには、その作曲者の他ジャンルの作品もよく知っておかなければならず、時代背景も把握しておかなければならない」と言っていますし、ヴァイオリニストの諏訪内晶子さんはジュリアードで勉強中に、ヴァイオリン作品の演奏にあたって必要なこととして、同趣旨のことを口を酸っぱくして言われた、ということを本に書いていらした(「ヴァイオリンと翔る」)と記憶しています。

「スペードの女王」、高価なお買い物になるかも知れませんが、なるべくその目、耳で確かめてみて下さいね。

大切な音楽がカットされてはいますが、ニホンモニターで出しているDVDは視覚的に一番分かりやすく、お値段も手頃ですので、リンクしておきます。

P.I.チャイコフスキー:歌劇「スペードの女王」映画版DVDP.I.チャイコフスキー:歌劇「スペードの女王」映画版


販売元:ニホンモニター株式会社ドリームライフ事業部

発売日:2007/08/22
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   ・前提
   ・全体像
   ・第1楽章
   ・第2楽章
   ・第3楽章
   ・第4楽章

チャイコフスキー:交響曲第4番、第5番、第6番「悲愴」Musicチャイコフスキー:交響曲第4番、第5番、第6番「悲愴」


アーティスト:ムラヴィンスキー(エフゲニ)

販売元:ユニバーサル ミュージック クラシック

発売日:2001/10/24
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