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2008年2月 3日 (日)

雪景色・・・ラフマニノフ

    ・・・村は、深い雪のなかに横たわっていた。
    城山は、なにひとつ見えず、霧と夜闇につつまれていた。
    大きな城のありかをしめすかすかな灯りさえなかった。
    Kは、長いあいだ、国道から村に通じる木の橋の上に立って、
    さだかならぬ虚空を見上げていた。
      ----カフカ「城」冒頭。前田敬作 訳 新潮文庫----

今朝、窓を開けたら、雪が積もっています。
記憶するかぎり、東京近辺ではほぼ10年ぶりの積雪ではないかと思います。

東北育ちなので、関東に来たばかりの頃は、殆ど雪が積もらないのがつまらなく思えました。
けれども、こちらで雪が降ると電車が止まるし、通勤に差支える。
それから、積もった雪に、あろうことか、お湯をかける人がいるので、路面が凍る。
そういったことに辟易して、
「ああ、東京辺りじゃ、雪が降らない方がいいなあ」
だんだん、そんな風に気が変わってきておりました。

私よりずっと北の生まれである亡妻の実家へ、正月に帰省すると、必ず雪景色でした。
雪国の方はよくお分かりの通り、いつも積もるくらいの地方では、さらさらと小粒の雪が降ります。積もった地面を踏むと、キュッ、と締まった音がする。
ですが、今、関東に降っている雪は、ぼた雪です。
なので、路面に落ちたとたんに溶け始めて、ぐちゃぐちゃのべたべたになる。

家内の急逝から1年経って、家内の実家に行くこともなくなって、こんなに真っ白な景色を目にすることがあるとは思っていませんでした。
家内の出身地がそうだったから、ということ以上に、雪は私たち二人が一緒になったときのこと、子供たちと楽しく過ごした時間のことを、いやでも思い出させてくれてしまいます。
ですので、出来ることなら、見たくありませんでした。

なのに、いちど眺め出したら、目をはなすことが出来ません。

結婚する、と決めてからは、まだ住むところも考えちゃいないのに、毎晩一緒にどこか泊るところを探して過ごし、朝になると、それぞれがそこから出勤をする、というジプシー生活をしました。3ヶ月間ほど、そんな暮らしをしました。
その年、関東には珍しい大雪が降りました。
前の晩の宿は神社の近くでした。
家内は車通勤ですから、チェーンを巻けるかどうか心配しましたが、大丈夫、ということでした。
家内と分かれて勤めに向かった私は、神社の参道をを歩いて、駅に向かいました。早朝でしたので、まだ雪はべたついてはいませんでした。
日が射していたわけではないのに、まだ人の足跡もない参道の白さが、とてもまぶしかった。

子供たちが大きくなったら行こう、と言っていた家族スキーも、家族4人だけでは3回、祖父母もしくは従兄弟たちと一緒を含めれば他にも数度、実現できました。今となっては、実現できて幸せだったと思うばかりです。

雪の似合う音楽は、やはりロシアのものにかぎります。
チャイコフスキーも、そうです。

が、なんといっても、ラフマニノフがいちばんでしょう。

独身時代以来、仕事の業績がぱっとしない私は、彼の音楽の優しいメロディに助けてもらいっぱなしでした。
とくに、交響曲第2番は、ピアノ協奏曲の2番3番と共に、硬いタイトルでは勿体ないほど、ポピュラー系しかお聴きにならない方にもお勧めできる、耳に優しく、でいながら心を強く刺す切なさも持ち併せた作品です。

この作品、しばらくの間、短縮版で演奏されるのが普通だったそうですが、アンドレ・プレヴィン(若い頃はジャズミュージシャンで、これがまたうまいのです!)が完全版をロンドンで復活演奏して以来、完全版での演奏が定着するようになりました。

本当は第1楽章が最も「雪国的」、第2楽章が「吹雪のよう」で大好きなのですが、YouTubeにあったのはメロディの美しさで最も親しまれている第3楽章ばかりでした。
復活上演の立役者プレヴィンが昨2007年にNHK交響楽団を指揮した映像をリンクしておきます。

(真ん中の右向き三角をいったんクリックし、輪郭がくっきりしたらもう一度クリックすると再生されます。ダメなときは画面なかのどこかをダブルクリックするとYouThbeそのもののページに飛んで再生されます。・・・当ページ上で画像が上手く再生されなくても、他にはPCにもネットの閲覧にも何の支障もありませんから、ご心配なく。)

第3楽章前半

第3楽章後半から第4楽章前半

第4楽章後半

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コメント

雪景色には、ロシアの作曲家の作品がやはり似合ひますよね。
チャイコフスキーの「四季」など、どうしても「雪景色」が目に浮びます。
「四季」なんですが、冬のイメージがこころに殘ります。
プレヴィンさん、お歳を召されましたねえ・・・
少し驚きました。

投稿: 仙丈 | 2008年2月 3日 (日) 18時13分

彼も、もう80歳になりますしね・・・
それとも、ムターに精力吸い取られて、捨てられちゃったからかな・・・
(不謹慎ですみません!)

「四季」はピアノ曲なので、また別の要因があるのでしょうが、ロシアの作曲家、有名無名を問わず、オーケストレーションが西欧ともチェコとも違うんですよね。とくに、木管楽器の組み合わせ(フルート系の高音域にファゴットの低音域をユニゾンさせる)という、冷たい響きは、ロシア人の発明で特許もんだと思います。
そうしたなかでは、ラフマニノフのオーケストレーションは暖色系ですけれど。。。
彼の作品、リズム(とくにヴィオラに配したもの)が巧みなことが多く、これが「雪の舞い散る」様子を私たちに連想させてくれるのかも知れません。

投稿: ken | 2008年2月 3日 (日) 18時49分

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