« 曲解音楽史:28)インドも広い!(いちおう中世) | トップページ | 祝! TMF40周年 »

2008年2月23日 (土)

思いやりの響き〜金管吹きの「心得」

    わかるとも、君のみごとな絵の前に立ってみれば、
    暗い樹林の中の透徹した眼は
    はっきりと見て取っていた筈だ・・・(後略)

    ----ユゴー「アルブレヒト・デューラーに」安藤元雄訳----



人間、勝手なもので、
「ああ、私、いま、ガックリ来てんのよ」
「えー? なんで、なんで、なんでー、あらそう。。。かわいそうに。いいのよ、そういうときはこうすればああすれば、それでもってさあ、、、」
いきなり面と向かって思いやられ、まくしたてられるとうんざりされるものですが。

オーケストラでそんな「損な」おせっかい思いやり役を受け持たされやすいのが、金管奏者なのではないかと思います。古典派までは、それでもトロンボーン、チューバの人は楽勝です。・・・トランペットまでしか出ないので。
「あ、また<思いやり>すぎて指揮者にお目玉クラってらあ!」
なんて、苦闘するトランペット奏者を眺めて溜飲を下げたりしているかも知れません。

娘のトロンボーンの恩師は、古楽からモダンまで幅広く出演するのですけれど、最近は、どんな縁でだか、とある町のジュニアオーケストラの面倒見まで頼まれて、辟易しています。
というのも、とても勉強家の方で、私なんか知らないような、弦楽についての素晴らしい文献を探し出して来たりして・・・私もコピーを頂いたりして助けて頂いているのですが、
「ジュニアオケだから、まず響きを大切に、から体験させてあげようかな」
と、比較的平易な楽譜を持って行くと、ご自分が不在の時に、古参の弦楽コーチが
「こんなの簡単すぎますから」
と、難しい曲に差し替えたりして・・・次に指導に行って見ると、子供たちは難しい曲に怖じ気づいて、初心者の子は結局手も足も出ないで、怖がって動けずにいるんだそうで
「かわいそうなんですよね」

「じゃあ、バッハのオルゲルビューヒラインあたりをアレンジしたものでも持っていかれたらどうですか? あれなら、単純なコラールより見た目が難しいから、弦楽コーチさんも採用OKするんじゃないですか? それ以上難しいものの編曲になると、コラールの響きも見えませんし」
「ああ、そうですねえ」
なんて答えて頂いて、自己満足に浸っている私です。



そんな私が、このトロンボーンの先生と、「江藤さんのヴァイオリンの音が壁に当たって跳ね返ってくるのが見えた思い出(大学時代の思い出を綴ったものです、ご記憶でなければリンク先をご参照下さい)」
についてお話したら、
「ああ、それは、オケ(オーケストラ)で吹くときの金管奏者の感覚とは逆ですねえ」
と仰られました。
「どういうことでしょうかね」
と伺ったら、
「私たちの場合は、響きが<後ろ>に回ることを最優先に考えますから」
「っておっしゃいますと?」
「ストレートに前に出過ぎると、たとえば弦楽器が大切な<細かい動き>をしているのまで覆い隠して潰してしまうことになるでしょう? お客さんも、聴いていて心地よくないはずなんです。ですから、ベルから音が前に出る、というのではなく、発音した音が後ろへ回ることを考えるんです」
「でも、それで、金管がテーマを吹いているのに隠れてしまう、ということはないんですか?」
「基本的には、ないですね」
「なぜ?」
「絶対的な音量はあるわけですから・・・音質をコントロールすればいいだけですもの」
「なるほど。」

技術的なことを述べるだけ、私は金管楽器を知りませんから、仰ったそのことだけを、ここに綴りとどめておきます。

が、よく勘違いされる事例で、これは古典派ですからトランペットだけが犠牲者になるのですが、モーツァルトのシンフォニーでティンパニと演奏する時に
「あなたは打楽器の役目をしているのです!」
と決めつけられて、不愉快な思いをなさる奏者の方も少なくないと思います。

・・・発想を変えましょう!

トランペットの音程は、確かにティンパニと「同じ」かも知れません。
で、トランペットが「打楽器」と同じで良いのなら、作曲者は本来「セレナータ・ノットゥルナ」のように、最初からトランペットなんかスコアに書かなくたって良いんです。
じゃあ、なぜトランペットが書いてあるのか・・・トランペットの「音色」が必要だからです。

ただし、必要なのは「音色」だけなのです。

モーツァルトの交響曲「リンツ」第1楽章の例をお聴きになってみて下さい。

(スウィトナー/シュターツカペレドレスデン)
 (※ 他にベーム、ホグウッドも参考に聴きましたが、同じバランスでした。)

ここで、トランペットがなかったら、色合いはどんなに「鮮やかさ」を失うでしょう!
だからといって、トランペトがこれ以上出過ぎたら、音楽がどんだけぶっ壊れちゃうでしょう!

このあたりの機微が、金管奏者としての「思いやり」のコツのようです。

ここにまた・・・トロンボーンなども加わると「響き」を構築するという重要な役目が待っているわけですが、参考曲としては、

(ガーディナー)

を上げておきます。
また、「フィンランディア」の記事を再度ご覧頂けましたら幸いです。

ご研究の一助にして頂ければ幸いに存じます。

|

« 曲解音楽史:28)インドも広い!(いちおう中世) | トップページ | 祝! TMF40周年 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/95716/10714345

この記事へのトラックバック一覧です: 思いやりの響き〜金管吹きの「心得」:

« 曲解音楽史:28)インドも広い!(いちおう中世) | トップページ | 祝! TMF40周年 »