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2008年1月12日 (土)

聴いてきました「ウィーン・リング・アンサンブル」

先日掲載したウィーン・リング・アンサンブルのコンサートに出掛けてきました。
メンバーは昨年と全く同じ。皆さんお元気で、よかった!
(メンバーの経歴は昨年の記事に綴っています。ただ、昨年分からなかったクラリネットのヒントラーさんについては、1989年入団で、遡る80年にはシュミードルさんの助手をなさっていたとのことです。)
ただ、4日から名古屋を皮切りに、さいたま〜佐倉(千葉県)〜福岡〜東京〜大阪〜今日の松伏(埼玉県)というハードな移動、かつコンサートがなかった日は8日と10日だけ、というスケジュールで、明日は松本(長野県)、最終日のあさっては東京(早稲田大学大隈講堂)。
もちろん気づかれないように、ではありましたが、クラリネットのシュミードルさんが1回だけリードミスをしたり、ホルンのヘーグナーさんも目だたないところでちょっとミスしたり、キュッヘルさんも時々音がかすれたり、と、お疲れが気になる瞬間もありました。
とはいえ、大変楽しいコンサートで、お客さんは大満足だったはずです。

プログラムは
・「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲(ニコライ)
・ワルツ「天体の音楽」(ヨーゼフ・シュトラウス)
・妖精の踊り(ヘルメスベルガー〜ブラームスと同時代の、ウィーンフィルのコンサートマスター)
・ポルカ・シュネル「浮気心」(J.シュトラウスⅡ)
・ポルカ「狩り」(J.シュトラウスⅡ)
休憩を挟んで
・「くるまば草」序曲(J.シュトラウスⅡ)
・ポルカ・シュネル「人生は喜び」(K.M.ツィーラー)
・ワルツ「うわごと」(ヨーゼフ・シュトラウス)
・ジプシーのガロップ(J.シュトラウスⅠ)
・マリアのワルツ(J.ランナー)
・「メリー・ウィドウ」メドレー(レハール)
・狂乱ガロップ(J.シュトラウスⅠ)
アンコールは3曲でしたが、最初のポルカ・シュネルがなんという曲だか分かりませんでした。
あとは「青きドナウ」と「ラデツキー行進曲」で、昨年と同じです。
ハードスケジュールでサイン会が出来なかった分なのでしょうか、1曲余分にサービスしてくれました。
(ただし、帰りのバスにシュミードルさんが乗り込むところをつかまえてサインをもらえた人が数人いました・・・じつは、そのうちのひとりは、私です!)


今回は、ステージ上手(かみて)のすぐ脇で「見る」ことが出来ましたので、昨年より細かく勉強をさせてもらえました。
「アンサンブルはかくありたい!」
という話です。それを綴ることにしましょう。
室内楽で管と弦が混在するコンサートを目に出来るチャンスは少ないはずですので、アンサンブルの基本を知るには、リングアンサンブルのような演奏に接するのは、大変良いチャンスです。
そして、彼らは大編成のオーケストラでも、必ず同じことをしているのです。
編成が小さい分、オーケストラでは見そびれてしまう「基本テクニック」が、手にとるように分かる・・・こういうコンサートを、なるべく多くの演奏者に「見て」貰いたいと感じました。


彼らが一流だから、という訳ではなく、「聞ける」アンサンブルをなさるかたならどなたも心得ていることを、当然ですが、リングアンサンブルのメンバーも実行していました。

・常に「アイコンタクト」を取り合い、タイミングをズラさない
 (だから、結果的に、特定のリード役がいらない)

・同じ主題を担当する楽器どうしで、主題のニュアンスを事前によく打ち合わせて揃える
 (弦楽器同士〜使う弓の位置、スピード、弾み具合を「相似形」的に揃える)
 (管楽器同士〜息の量、スピード、切り上げ方を「積分」的、「相似形」的に揃える
 (弦と管〜上記の順番で奏法が対応するので、対応する奏法を積分的、相似形的に揃える)

・伴奏に回るパートは、伴奏者同士で、やはり同じことを行なう。
 ただし、主題が頭の中に叩き込まれていて、主題といっしょに歌っており、
 かつ、主題よりワンランク後ろに引いて演奏する

おおまかには、こうしたことです。・・・変ないい方だから、通じるかしら?


リングアンサンブルならでは、の大きな見物はふたつ。

ひとつは、コントラバスの運弓でした。
ワルツが主ですから、ワルツを例にしましょう。
コントラバスは「ブン・チャッチャ」の「ブン」を担当しますが、全てダウンボウ(下げ弓)で弾くだけだったら他でもやります。
ウィーン流だなあ、と感心したのは、主題のニュアンスが柔らかくなると、弓の当て方を和らげ、ほんのちょっと当てて、かつ、そっと、いとおしむように弓を弦から放すのです。で、ワルツが勢いづく場所では全弓で弾ききる・・・ただし、あくまで紳士的に。

もうひとつは、キュッヘルさんの存在。
ファーストヴァイオリンだけが・・・恐らくはこれが大きなオーケストラの中であっても・・・アンサンブルの中では特異なのだなあ、というのが、よく分かりました。
他の連中は、伴奏のときは伴奏の時、主題のときは主題の時、相手が弦同士か管同士か、弦と管か、のいずれをも問わず、わざと体を寄せあってみたり、大きく目配せしたりして「遊んで」いるのです。
キュッヘルさん個人が、という意味ではなく、音楽的に、ファーストヴァイオリンだけが、明らかに違うのです。
ファーストヴァイオリンは、さっきセカンドに歩調を合わせさせていた(もしくは合わせてもらっていた・・・このアンサンブルの場合、後者なのですが)かと思うと、次の瞬間にはフルートと、そしてまたチェロ、続いてホルン、と、目まぐるしく「合わせてもらう」相手を取り替えなければならない。気の毒なくらい、忙しい。
それを、お客さんに「忙しい」とは感じさせず、美しく切り替えていかなければならない。
ですが、極端な話、ヘマをしたらしたで、他のパートが「音楽の作り」は補ってくれているので、仮に「どうせヘマだらけ」なんだったら、別にファーストヴァイオリンなんかには弾いてもらう必要も何にもない。
・・・もちろん、アンサンブルが「完成している」団体にして初めて許されることではあるのですけれど、
「あ、そうなのか、内声や低音が上手ければ、ファーストヴァイオリンなんかいなくてもいいんだ!」
・・・そういうことになります。
・・・孤独です。

世の中の「ファーストヴァイオリン弾き」は、この点、よくよく知っておかなければならないようです。
もちろん、キュッヘルさんは見事にご存知のようでした。
他の連中が「遊んで」笑っていても、彼だけは終始、目が「マジ」でした。
キュッヘルさんの「マジ」は、前任の偉大だったコンサートマスター、ヘッツェルさんの事故死の後を受けて大変なご苦労をなさったことが、今でも影を落としているのだろうと思わされます。ヘッツェルさんが山で事故死しなかったら・・・ボスコフスキー時代のウィーンフィル「ニューイヤーコンサート」の映像では、若き日のキュッヘルさんは満面の笑みを浮かべていたのが見られますから、また違う表情で自らの「責任感」を示すことが出来ていたのではないかなあ、と、下衆の勘ぐりをしてしまいました。
尊敬するかたですから、なおさら大袈裟に、勝手にそう感じただけかもしれません。

その他にも面白く思ったことはいくつかあるのですが、偉そうなことを言っておきながら弾くヴァイオリンはヘタクソな私にとって最も愉快だったのは、セカンドを弾いているザイフェルトさんが、「マリアのワルツ」で自分の弾く主題(ファーストの主題の対旋律になっています)を、前半は弓を寝せて、あたかも弱音器をつけたような効果を出して演奏しておき、後半再度同じ主題が現れた時には、ファーストと対等の、輪郭のはっきりした音で演奏する、という弾き分けをなさっていたことです。

いつも飄々としているヴィオラのコルさんも、私は大好きです。

どうも、毎度長くてすみません。

こんなところで。

付記:トラックバック下さった雅哉さんのおかげで、分からなかったアンコールの1曲目について判明しました。ツィーラー作曲の「ヴィネアガロップ」だそうです。ツィーラーは、19世紀後半にウィーン宮廷舞踏会の音楽監督を務めたことのある人物です。

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