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2008年1月29日 (火)

忘れ得ぬ音楽家:7)ボロディン弦楽四重奏団

本当は先日ちょっと触れたコシュラーさんのお話をしたかったのですが、急遽取り寄せた映像の入手に1ヶ月かかるらしいので、あらためます。



就職後、最初は営業職、つづいては出張商売の日々で、コンサートに行く機会もめっきり減りました。
結婚後はすぐ子供も生まれましたし・・・今にして思えば家内の術策にハマった気がしないでもないのですが・・・、自分の所属する楽隊で(ちなみに、「楽隊」という言葉は、本職さんでもヤマカズさんの世代では好んで使われた表現でした)ヘタクソなヴァイオリンを弾くしか能がない日々が続き、数少ないチャンスに、数少ないコンサートを聴きに行けるだけでも嬉しかったのですけれど、家内も死んでしまったうえに、子供たちはちょうど進学期ですから、今は全く行けないも同然の日々になってしまいました。

ですが、音楽は、やっぱり「演奏する姿を実際に目にしながら」が、いちばんいい。何故か?・・・息遣いが、表情が、音楽をより広がりのあるものにしてくれるからです。
ポップのコンサートでは当たり前なこんなことが、
「え、クラシックもそうなの?」
と思われてしまうのは残念ですが、確かに、ドラマ「のだめ」でやっていたような、ポップ的盛り上がりはありません。そのかわり、じわあ、と、静かに胸に響き、ゆるゆるとしみ込んでくるものがある。
・・・とはいえ、私は寂しがりで、相棒無しで独りコンサートに足を向ける、なんてことは思いもよりません。
そういう自分を、まだ「コンサートに行く」ということを覚えたばかりの中学時代の自分自身に比べると、弱虫になってしまったかなあ、と思います。



となると、新入社員時代に仕事から夜中に帰って、自分一人で部屋にこもって、(当時はまだLPレコードに針を落として)涙しながら聴いた音楽の数々に、再び私の慰め役をしてもらうしかありません。

いくつかの曲と、これでなければならない、という演奏がありました。
大学時代にオーケストラに入団してからは(アマチュアオーケストラ活動自体は高校1年のときからしていましたが)クラシックオンリでないとやっていけない暮らしでしたから、ほとんどクラシックでした(僅かに、ビートルズ【アビイ・ロード】や、マイナーなパンクロック・・・名前は忘れてしまいました・・・が混じっていただけです)。

そのなかで、心変わりしないでずっと聴き続けていたのが、ボロディン弦楽四重奏団の演奏による、「ボロディンの弦楽四重奏曲第2番」です。作曲家の名前を冠した団体だけに、この曲については、彼らの演奏を超えるものはない、と、未だに信じています。



ちょっと余計な長話をします。
この曲、4つの楽章から成り、聴いて頂ければ がいちばん有名なのですが(モノラルですけど から、聴いてみて下さい[London 223E 1164] 。「あ、知ってる!」・・・でしょう?)、私の好きなのは、有名なその楽章ではなく、第1楽章、つまり、作品のいちばん最初の音楽でした。今でもそうです。
学生時代、腕のいい先輩たちがよく挑戦しては敗北(つまり、途中で引っかかる)しているのを脇で聴いていて、
「オレはいつか、ボロディン四重奏団みたいに弾いてみせるぞ!」
と意気込んでもいた、憧れの作品でもありましたし、何よりもボロディン弦楽四重奏団という四人組自体が、奇跡的な存在でした。
当時は、ロシアが「ソビエト連邦」で、「鉄のカーテン」などという言葉もまだ活き活きと使われていましたから、彼らの出す音は「鉄のカーテンのようだ」と、その演奏を聴くたびに思いました。

録音で、だけではなく、学生時代に、実際に2、3度、ステージ上の彼らを目の前にしました。
でも、コンサートでボロディンを弾くのを聴いたかどうかは、今、はっきり覚えていません。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番を弾いたのは、間違いなく聴きました。
この4人組、実際、やはりソビエトの超一流団体だったベートーヴェン弦楽四重奏団に次いで生前のショスタコーヴィチと縁の深い人たちだったのは、ショスタコーヴィチファンはご存知の通りです。ショスタコーヴィチの四重奏曲の全集を作曲者の生前に13番まで完成し、その後メンバーが入れ替わって15番までの全集をも完成しましたが、最初の13番までのものの方が断然いい演奏だと勝手に思っています・・・話ががそれました。

そんな名演奏家たちですが、街での演奏会ではなく、ちょっとハズレの、田んぼの中のホールでコンサートを開いたことがありました。じつは、その時のお話がしたかったんです。
車数台で出掛けたように記憶しています。



学生で図々しかったのもあり、その日はサイン会があるわけでもなんでもないのに、終演後、勝手に楽屋に押し掛けました。・・・田んぼの真ん中のホールだけあって、楽屋、といっても立派なものではなく、鏡もろくにない大部屋でした。が、そこはロシア人、大部屋でもまだ狭い、という感じ。窮屈そうに楽器の掃除と片付けにかかっているところでした。
「どんな楽器を使ったら、こんなに強靭な音がするんだ?」
興味津々で、通訳もいなかったし、言葉も通じないのをいいことに、片付けているメンバーに近寄って、ヴァイオリンやヴィオラを覗き込みました。
この頃には、アメリカ系のオーケストラはニスの上に艶出しを上塗りして弦楽器をステージのライトでビカビカに光らせるのが流行っていました。
ですが、ボロディン四重奏団の楽器は、そんな艶出しをしていませんでした。
たぶん、国家貸与の、クレモナあたりの銘器だったのでしょうけれど、見る目のない学生には、光っていない分、大変安っぽい、素朴な楽器に見えたのを覚えています。
・・・でも、たしかに、その方が音がいいのです。
・・・木材が余計なコーティング(お化粧)をされていない方が、ヴァイオリン族弦楽器は素直な音がする。本物の美人さんと同じです。ですから、見たとたん、
「ああ、きれいだなあ!」
と感激しました。
感激のあまり、こちらの面々は、よっぽど「餌を前にした狼」みたいに目をギラギラさせていたのでしょうか・・・彼らは慌てて楽器のケースの蓋を閉じました。

そのとき、閉じる蓋のどれもに、写真がはさんであるのに気づきました。
有名団体でしたから、世界各地を飛び回る生活が1年のうちの3分の2以上を占めたはずです。
写真は、そんな長い旅行期間中に、彼らが思いを馳せ、安否を気づかい続けているご家族のものだったのでしょう。
お待ちになっていた奥さんやお子さんも、同じく、彼らの安否をいつも気づかっていたことでしょう。

今ほど国際電話料金も安くなければ、インターネットはおろか、パソコン通信などというものもなかった頃でした。



話が変わって恐縮ですが、モーツァルトが妻コンスタンツェと旅行中に、子供が死んでしまっていた・・・夫妻はウィ−ンへ帰宅後初めてそれを知った、ということが、モーツァアルトの伝記には必ず出ています。ですが、その時の夫妻の思いについてまで触れているものは、全くありません。旅の間に子供を失ったことが、モーツァルト夫妻は悲しくなかったのでしょうか? もちろん、当時、乳幼児の死亡率は非常に高かったんですけれど。ボロディン四重奏団の写真のことを思い出すたびに、モーツァルト夫妻のこの件をも、つい思い浮かべてしまうのです。


学生時代、他に聴いたクァルテット団体は、巌本真理弦楽四重奏団(これは高校時代で、お客も高校生が中心で、これだけは「のだめ」見たいに盛り上がりました。巌本さんはすごーい美人でした)、バルトーク弦楽四重奏団、スメタナ弦楽四重奏団、アルバン=ベルク弦楽四重奏団。。。アルバン=ベルク四重奏団だけが今度解散、でしたかね。他もみんな、解散したり、メンバーが物故してしまいました。とくに、巌本さんが思いがけず早世なさったのは、寂しかったな。

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コメント

こんばんわっ!

そのボロディンSQのボロディン四重奏曲集いいですよね。わたしも
ボロディンの四重奏曲は、それしかもっていないのですが、「これは
これは!」と聴きました。

*****

弦楽四重奏団のコンサートに行こうとすると、いま活動中の団体だと
今ひとつ好みが違っていて、結構考えてしまいます。

昨年、王子ホールで聴いたジュリアードSQはなんといいますか、
きちっと音楽作りますという感じがして、その時はバルトークだけの
プログラムでしたが、別の時代の曲でも面白そうな気がしています。

投稿: sergejo | 2008年1月31日 (木) 02時41分

sergejoさん、ありがとうございます。
今の中堅どころでは、ハーゲンあたりは、どうでしょう?
ジュリアードは、円熟の域でしたか?お聴きになられたのが、うらやましいです!

投稿: Ken | 2008年1月31日 (木) 12時23分

じ、じつは、、、ハーゲンはずっと前に聴いてみて、ちょっと苦手かな〜と。でも、最近、また違うかもしれないですね。結構来日公演もあるし行ってみようと思います!

もうまったく好みのところなんですが、、、なぜか弦楽四重奏の場合だけ、ストライクゾーンが狭くて、現役だと解散するアルバン・ベルクも上手いのはCDでも実演でも百も承知なのですが、なんとなくなんだな〜と。

*****

ジュリアードはメンバーもすっかり変わって高齢化していて、おじいちゃん達のいい楽団。きちっとスコア読んでますよーという感じで、バランスも良くって、聴いてて全然迷子にならないで安心できるような良い演奏でした。

以前のジュリアードとはまた違う別物と思ってしまってもよいかもしれません。

投稿: sergejo | 2008年1月31日 (木) 15時23分

本音は、今、新しい四重奏団で気に入っているのは無いのです。アルバンベルクも、ズスケがいた当時のベルリンカルテットに比べると、意識過剰な演奏でしたね。
ハーゲンは、変わって来ているので、これからいい方に行ってくれれば嬉しいのですけど。どうでしょう?

投稿: Ken | 2008年1月31日 (木) 17時09分

あはは!やっぱり、そうでしたか!というコメントありがとうございます!!ハーゲンは今度来たら行ってみますっ。

ベルリンSQいいですね。当たり前の演奏も実現するのがすごくむずかしいし、それだけでいいんだって教えてくれた演奏家の一つです。

結構、弦楽四重奏ってセールス的にも難しい地位にあるのか、つい最近ブダペストSQのべートーヴェンの全集がおよそ10年ぶりにやっと再販になったり、、、ラ・サールなんて軒並み廃盤で残念です。。。(←信じられないです)

のだめにそういうところも喚起して欲しいです。。。

投稿: sergejo | 2008年1月31日 (木) 17時50分

ラ・サールが聴けないのは、悲しいですね・・・
ドビュッシーとラヴェルは、彼らを超える演奏をしている人たちはいないと思いますから。

弦楽四重奏をやるのに、他の経験を経ないでいきなりそのレッスンだけする人が増えているのではないかと思います。ですので、「独奏」や「オーケストラ」の中での弾き方と四重奏(三重奏にしても五重奏以上にしても)の弾き方の違いを理解していない。・・・楽器を手に持つ前に、メンバーで声を出して歌い合ってみれば、ほんとうは「弾いてしまったときの響き」がどの程度自然なのか、理解できるはずなんですけれどね。
楽器を弾く人は、本来みんな気をつけなくちゃならんと思うのです。
・・・自戒の意味も込めて。

「のだめ」は、ちょっと、路線が違うからなあ。
演奏の中身、ということに関して触れてしまうと、まず「マンガ」として成り立たなくなるでしょう。・・・それは、普通の方には、とてもつまらん世界になるはずです。・・・ドラマでも、役者さんたちには感激しましたが、正直言って、演奏そのものには「もっとマンガに合わせられる工夫ができるのになあ・・・」って、不満だったんですよ。・・・ここだけの話にしといて下さいね!

それにしても、いいご趣味と耳を持っていらして、うらやましいです。

投稿: ken | 2008年1月31日 (木) 19時34分

ラ・サールのドビュッシーとラヴェル、、、買いそびれていたら、絶版でもう何年経ちますからしら、、、すごく羨ましいです。

弦楽四重奏含め室内楽ってやっぱり違うんですね。。。勉強になります。ありがとうございます。

ブダペストやラ・サールのマスタークラスや練習映像があればぜひ一般発売して欲しいと思ってしまいます。

>ここだけの話にしといて下さいね!
はいっ!って、ここ既に公開ブログですっ

>いいご趣味と耳を…
そんなことはないです!←きっぱり。今回のように教えていただいているだけです。

投稿: sergejo | 2008年1月31日 (木) 22時10分

>>ここだけの話にしといて下さいね!
はいっ!って、ここ既に公開ブログですっ

いや、コメントまで読む人はあんまりいないから。。。
って、甘いか!

ご趣味とお耳の件は、本当にそう思っています。
お綴りになっている内容で、感じます。

ありがとうございます!

投稿: ken | 2008年1月31日 (木) 22時19分

こんばんわ!

昨晩、BS hiだったかで、ハーゲンSQのモーツァルトの四重奏曲をやってまして、すっかり見てしまいました。良かったです。

せーのどんとタイミングだけ合わすのでなく、ちゃんと響きを聴きあって、調整しているような印象でした。普通に弾いていて楽しいものでした。

前にもった印象とかなり違うのですが、わたしが以前聴いた時は、相当ねぼけていたのかも・・・と思ってしまいました。

投稿: sergejo | 2008年2月10日 (日) 21時04分

ハーゲン、そうですか、お耳にかなうようになっていましたか!

彼らの精進の賜物です。

はっきりと変化していたはずです。

なんだか嬉しいな。
(自分はちっとも進歩が無いんで、変な感想ではあるのですが・・・)

投稿: ken | 2008年2月10日 (日) 23時22分

彼ら自身変わっているんですよね!?(←そうでないと、わたくし自身が相当なボケで・・・)

昨日の放送はちょっとびっくりしちゃいました。いずれ彼らの昔の録音確かめてみようかとも思ってます。

しかし、こういうことって第一印象で切って捨てるのはいけないっていい例です。かなり反省しています。

*****

そんなそんな人前で弾かれて、コンサートマスターしてらっしゃるのだからすごいです。わたくしのなんちゃってピアノは、いまバッハのインベンションの2番に突入です!

投稿: sergejo | 2008年2月11日 (月) 03時38分

>彼ら自身変わっているんですよね!?

そうです。

>コンサートマスター

すごくないです。ソロ苦手だし。ソロのある選曲は「やめてくれ」って逃げますから。こないだは欠席裁判で決まったドボ8で、スケジュールの都合上練習できなくって、一夜漬けで本番に臨む羽目になり・・・惨めな思いをしました。
身内での録音とはいえ、自分の弾いた「シェラザード」のテープを頂いた時には・・・ちょっと聴いて、すぐやめました。ひでーもんだった!

投稿: | 2008年2月11日 (月) 17時05分

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