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2008年1月18日 (金)

曲解音楽史24:西ヨーロッパ中世(世界観は完成と同時に崩れ始める)

前の回:1)音という手段  2)リズムの成立 3)音程から音階へ
    4)言葉と音楽   5)トランス   6)古代メソポタミア
    7)古代エジプト 8)古代インド   9)古代中国 10)古代ギリシア
    11)古代ローマ  12)初期キリスト教の聖歌について
    13)ササン朝ペルシャ    14)西暦5,6世紀ユーラシア音楽横断
    15)中世前半の西ユーラシア   16)唐朝と朝鮮・日本 17)「声明」の伝来
     18)モンゴルと中央アジア北方 19)「十字軍時代」の西ユーラシア
     20)日本固有(?)の古歌   21)諸聖歌の背景(1)グレゴリオ聖歌
     22)平曲と能楽:付)発声法について   23)諸聖歌の背景(2)アンブロジアン聖歌・ローマ聖歌



血の繋がった者同士でも、価値観は異なるのが普通でしょう。
親と子でも違います。それは、育った時期の環境の違いにもよるかも知れない。
けれど、兄弟姉妹でも違います。同じ時期に育ったのに。この理由は、単純にはまとめられません。親とどう接してきたか、好物はそれぞれなんであるか、学校で親しかった友達はどんな人たちか、どんな仕事についたか・・・いろんな要因が絡んで、「同世代」ではあっても、異なった「価値観」を築き上げて今日に至るのでしょう。
まして、他人同士なら、「価値観」の隔たりは、血縁者同士よりも大きい、と考えるのが、常識というものでしょう。

ですが、個々の差が表面上は如何に大きく見えても、「価値観」がお互いに似ている、だから話が通じ合い、心が通じ合う、という場面も、少なからずあります。
元来は他人同士でありながら、そして、場合によっては趣味も好みもまるきり違っていながら、(理想的な?)夫婦は、「自分たちの関係や家族をどう守るか」について、絶対的にお互いを信頼している・・・それは、もしかしたら稀で「うらやましい」ことなのかもしれませんが、この場合は、血縁よりも濃く、自分たちの家族という城に対する「価値観」を<同じく>する(共有する)ことになります。
あるいは、営利・非営利を問わず、目的を同じくする団体。こちらの場合は、「信頼しあっている夫婦」ほど強い紐帯は無いかもしれませんが、「価値観」を、そのごく一部でも共有していなければ、団体の構成員にはなれない。・・・ただ、共有される「価値観」は、相互に多少・大小のズレがあることは許容されます。たとえば企業なら「これくらいの賃金・労働時間ならなら折り合いをつけよう」というだけでも、その企業の構成員であることはできます。

いずれのケースにせよ、「価値観」が、もはやお互いにとって我慢ならないほど共有しえなくなったら、夫婦であることや、団体の構成員であることをやめるしかありません。



ところが、歴史の中の時間、という大きな枠組みで眺めると、個々の「価値観」を超えて、その大括りの時代の中では殆どの人が逃れえていない常識のようなものが、一律に世の中の「価値観」を支配しているようにみえる場合があります。これを・・・国語辞典的な意味よりも限定されるのかもしれませんが・・・「世界観」と名づけておきましょう。

中世西ヨーロッパは、西ローマ帝国の崩壊から長い時間をかけて、ある種の限定的な「世界観」に支配されていったように見えます。
それは、キリスト教(カトリック)の教義を象徴化し、社会をその象徴に当てはめて評価するモノの見方を徹底していく、というかたちで実現されます。
一例として、方位についての「世界観」を挙げますと、<東は聖なる世界・・・何故なら、キリストはそこに生まれ、それを育んだ聖書の世界も東方で営まれた。対する西は、悪の世界である>というものです。
この方位に対する見方は、パリのノートルダム寺院という建造物の設計に当たっても生かされています(西が入り口、東が祭壇)、そのまま、パリという都市全体の設計にまで延長されています。
都市全体が同様の方位観で作られている例を、「中世ヨーロッパの都市の生活」(講談社学術文庫)記載の都市トロワの地図にも読み取ることが出来ます。

建造物や都市の構造に影響した方位観の他に、たとえば人体の各部、モノ作りの際の数(たとえば18は三位一体の3に創世記の「神による世界の創造の期間であった6日間」の6を掛けた数、12は使徒の数、等々で聖なる数と見なされるようになる)等々、様々な事柄が、カトリックの象徴として捉えられ、世間全体の常識として浸透し、「もはや中世は終わった」と後世の人に見なされているルネサンス期を超えて、「数秘術」や「占星術」などの占術を通じ、あるいは暗黙のうちに、近代にまで影響を及ぼしている。
それだけ強烈な、カトリック的「世界観」が、13世紀初頭までには、西ヨーロッパ世界に浸透し、西ヨーロッパ世界を支配します。

この「世界観」の完成期に、「世界観」の結晶であるパリのノートルダム寺院を拠点として活躍した音楽家たちは、<ノートルダム楽派>と呼ばれています。

<ノートルダム楽派>を最初に代表することになった作曲家(ここで初めて、「作曲家」という存在が注目されることになったと思ってよいのでしょうね)は、レオニヌス(レオナン)でしたが、<ノートルダム楽派>の音楽を完成に至らしめたのはペロティヌス(ペロタン)でしょう。
レオナンが原型を作った、グレゴリオ聖歌を長く引き伸ばした上に唐草模様のような歌を繰り広げる音楽は、ペロタンに依っていっそう多声化され、整形され、充実します。

ここにおいて、<ノートルダム楽派>の音楽は、中世の音楽的「世界観」をも、他分野に劣らず完成させた、と言ってよいのでしょう。

・ペロタンの作例:
  デラー・コンソート・ロンドン(1960) deutsche harmonia mundi BVCD38003

【CD】パリ・ノートルダム楽派の音楽とランス大聖堂の音楽/コンソート(デラー)

ペロタン(レオナンのほうがもっと、なのですが)の例が、聖歌の諸相を観察した際のローマ聖歌に響きが非常に似ている点は・・・このような復元でよいかどうかの是非は確定してはいないのですが・・・、注目しておいて良いでしょう。ただし、その低音を作り上げているのはグレゴリオ聖歌なのだ、という事実が、複声部でうたわれる歌の低音部にまで「カトリック的象徴」が浸透していることを示しているのは、忘れてはいけないと思います。

<ノートルダム楽派>がペロタンにより完成した13世紀は、西ヨーロッパ各地に「都市」がほぼ確立した時期でもあります。都市は富裕な自由民が支配する領域となってました。一方で都市の無いところ、主に農民が生活を営んだ場所は、諸伯・諸侯の支配下におかれ、諸侯の城館が支配の拠点として、カトリックの象徴とはまったく異なる「世界観」のもとに建築されていきます。

西ヨーロッパの中世は、13世紀を頂点として、カトリック的象徴に基づく「世界観」が完成されるとともに、同時に築き上げられた都市や城館が、いったん完成したこの「世界観」を、それぞれの立場にそぐうように変容させていき始めることで、完成と同時に、早くも崩れ去っていく兆候を示したのです。

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