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2007年12月 8日 (土)

伝わる? 受けとめられる?(演奏とは)

私たち人間は、「言葉」でものを理解しあいあいます。でも、「言葉」で伝えられないものもあります。「言葉」では強すぎるものもあります。「言葉」では偽りになってしまうものもあります。

「伝わる」ことはまた、一方通行でもあります。伝えたい「私」は、私の体でしか伝えられない。「受けとめる」相手の心を知った上でやることではない。ですから、基本的に、思いやりに欠けます。

受けとめる「私」も、私の体でしか受けとめられない。昨日の話題に即して言えば、受けとめるべきこと、相手が、私という「コップ」に収まるだけの大きさかどうか・・・それは、自分の内側からは見えない。あるいは、私は「高級ワイングラスだ」・「いや、ビール用のコップだよ」・「形はコップだけどワンカップ日本酒の空き瓶さ」・・・そう、決めつけている自意識が、どこかにある。



私が音楽好きになった理由は、本当はいろいろあります。
まあ、いちいち綴ったら自伝になって「偉人」になってしまいますから、よします。
ただ、ひとつだけ、どちらかというと言葉のない音楽(というと特別なロックを除けば、ジャズかクラシックしか選択肢がないのですが)が好きになった理由は、
「言葉が付かない方が感情表現に不自由しないから」
です。
就職して少しのあいだ営業を経験してからは、表向きたいそう「口が達者」で「口ばっかり」になりましたけれど、ホンネを上手に伝えることには今でもたいへん苦手意識があります。窮地に追い込まれないと、言えません。言ってしまうと、相手を傷つける気がします。悲しくなります。
言葉のない音楽なら、そんな思いをしないですむだろう、という甘い観測から、つい楽器に手を出した、というのが、真相でしょう。


ですが、続けてきてみると・・・ここから話は音楽に絞って行きます・・・、私が「好きになった理由」では音楽にはとても太刀打ちできないことが、徐々に分かってきました。

コミュニケーションというものについて、クラシックの、器楽の演奏を素材にして見て行くことで、なぜ「太刀打ちできないか」を浮き彫りにしてみたいと考えているのですが、さて、どこまで出来ますことか。。。

演奏でコミュニケーションが成り立つには、演奏者と聴衆(一人以上の他人格)が演奏を通じて相互関係を築けることが必要です。そのためには最低、奏者は3つの、聴衆は2つの過程を乗り越えなければなりません。

 ※まず、奏でること(奏者)。
 ※ついで、音楽を「読む」こと(奏者・聴衆)。
 ※最後に、評価すること(奏者・聴衆)。
 
・・・こうしてあげてみれば、企業がもう数十年掲げているPlan-Do-Seeと、どこにも違いがないことが分かります。つまり、音楽だけに特別なことは何もない。
ところが、Planの部分には基本的に「奏者」しか関与できないところに、音楽を往々にして「特別なもの」と感じさせてしまう最大の原因があります。
このことについては、いろいろな側面から考えなければならないのですが、今日はあまり思考の迷路に陥るのは避けることとして、奏でずしてもPlanの部分を把握することができるのか、というところに着目するに留めようと思います。

奏でずしてPlanに参画するには、「奏でる」とはどういういことか、を知らなければならない、という制限があります。スポーツ観戦もルールを知らなければ試合のPlanが見えず、それゆえに面白くも何ともないのと、何の違いもありはしません。
ただ、スポーツのようには一般人用のルールブックのようなガイドがないし、それらしい本でも当てになるものは滅多に存在しませんから、入り込むには少しハードルが高いのは避けられません。

今回は、3つあるプロセスのうちの最初の部分に立ち入ることの出来るサンプルをあげてみます。
私はヘタクソなヴァイオリンをひきますので、私自身がかつて悩まされた素材を用いて、簡単な例を「耳にして」頂きながら、少しでも「クラシックの器楽」のポイントをお伝えできれば、と思います。ただし、あげる例は、私が「評価」を述べるのは本来おこがましい、私よりは「腕きき」のものばかりですから、そこは「批評のため」のサンプルではないことは、あらかじめご了承下さい。

同じ曲の演奏を3例あげます。曲はバッハのヴァイオリン協奏曲第1番の第1楽章です。
・・・じつは大学3年の最後の時期に、はじめて真面目に「ヴァイオリンってこういう音がするのか!」と衝撃を受けた(オイストラフの演奏でした)思い出深い曲なのですが、思い出話はまたにします。(オイストラフ、という名前は、是非ご記憶下さい)。






演奏を聴いただけで、それぞれの人がどういう弾き方をしているか、イメージできますか?
「できます」
というのが、正解です。
もし他にお好きなジャンルの音楽や楽器があれば、同じ曲を別の演奏者がやったときの違い、というのは、映像を見るまでもなく想像できるはずです。。。が、残念ながら、ジャズは同じ曲でも違う展開になりますし、ポップス系は基本は同じ曲を別人が演奏したものは存在しませんから、比較のチャンスがありません。
クラシックが、この点ではいちばん分かりやすい。
実際の映像を見てはいませんが、私のイメージできることを述べてみましょう。

たまたまですが、3例とも女性です。で、最初の2例は日本人で、弾いている楽器もストラディバリ(製作年も3年しか違いません)、第3例のみアメリカのかたで、楽器はヴィヨームです。

・最初の2例が、おなじストラディバリという楽器の音だと思えますか?
 思えないとすれば、何故でしょう?

答え。

の奏者は、まず左手は指の「筋力」で弾いているはずです。指の力が追いつかないと、右手に力を入れて補おうとしています。その結果、演奏のフォームが、全般にアンバランスです(音が所々かすれるのは、右手が左手をどうかばったらいいのかを決められずにいるため、弓が弦にあたる角度が一定していないためです。このかたは、弓の一番先端で弾かなければならない時、右手首が逆への字に曲がっているはずです。(皮肉を言えば、ストラディヴァリで30万円分の値段の音しか引き出せないなら、是非、もっとヴァイオリンお弾き方をちゃんと知っている<アマチュア>に30万円で譲って差し上げるのが、このかたの<社会に対する良心>というものでしょう。このかたがそんな天使のような<良心>を持っているかどうかは存じ上げませんが。・・・アマチュアには、残念ながら私のように筋が悪くてはダメですが、隠れ名人が意外にいらっしゃるものです。ただし、既にそこそこお気に入りの銘器はお手に出来るだけの財力もあり、暮らしにゆとりがあるから、精神のゆとりもあるのでして・・・こればかりは仕方ないんだなあ。。。)

ヴァイオリンは、左手に自分の体重が上手く乗っかり、右手は弓が基本的には一定の角度を保っていることで、初めて弦が最大限の振動をします。したがって、大きい音を出すためには、逆説的ですが、左手・右手とも、力が必要十分なだけ抜けていることが必要です。
のかたは、左手にまだクリアしなければならない課題があることを、おそらくご自身では良く承知をなさっています。それをあえて右手でかばうことをしていません。そのため、右手とのバランスが崩れることがありませんから、全般に音に歪みがありません(ほんとは少しだけありますけれど、問題視すべきものではありません)。姿勢も、基本は体を揺すらず、まっすぐに、けれどごく自然に(りきむことなく)立った姿から、左手は、そのまま何も持たずに運べば、掌がご自分の顔に当たる位置にある(はず)。

第1例と第2例には「この曲を<どう読むべきか>」に対する姿勢の違いも反映されていますが、それについては触れません。次回、別の例で触れます。

が、ヴァイオリンの出すことの出来る最高の音の、一つの典型です。

第2例を「美しい」とお思いの方には、第3例は「冷徹」と思われるかもしれません。ですが、ヴァイオリンという楽器は、その音が柔らかいことが身上ではありません。歴史的に、ヴィオールの音では軟弱で「張りが欲しい」が故に生まれた楽器であることを・・・お詳しい方には・・・ご想起頂きたいと存じます。
オイストラフの音は、第3例にいちばん近いものでした。
また、第3例は、曲が始まった瞬間から、音楽を最後に至るまでの全体として一気果敢に演奏している点でも、最も優れた演奏であるということになります。
表現云々、からではなく、音の質を聞き通すことで、この点をご確認下さい。
終始一貫して音質に変化が無く(音色には当然工夫を凝らしています。音色と音質は同じことを表した言葉ではありません)、左手にはどの指にもムラなく体重が乗っていて音程によるゆるみがありませんし、右手がかなり正確な「等速運動」をしています。そのため、弓の「バネ」が最大限に活かされ、張りと弾みのある音作りが実現されています。姿勢は、第2例よりは、ややバレリーナに近い緊張が体を貫いているように想像されます。

・・・表現がヘタですみませんが、どうでしょう、演奏している姿が、音からだけでも、少しは見えましたか?

第1例、第2例の演奏者が誰かは当ててみて下さい。
第3例は、ヒラリー・ハーンです。今年27歳かな? 4年前の演奏ですが、妬ましいほど、年齢相応以上に完成しています。

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