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2007年11月18日 (日)

波と光と色と音と

すみません、今日も以前メーリングリスト時代に綴ったものの再掲です。



突飛ですが、
「波といえば、光も音も波だよな・・・
 で、光は、プリズムを使うといろんな色に分かれるんだっけな」
高校の物理の授業を思い出してしまいました。

一方は電磁波、一方は物質の振動・・・だから、科学がご専門の方には同一視は出来ないものなのかもしれませんが、まあ、「波」とつくからには共通点があるのだろう、そんな単純な発想です。

で、光=それによってもたらされる色、と、音の間に何か関係があるのかどうか野次馬をしてみようと思い立ちました。

かのスクリャービンは「音を聴くと色が見えた」ので有名ですね。いわゆる「音色」ではありません。ある音程と色が結びついて感じられる現象。リムスキーも、メシアンも、同じような感覚の持ち主だったようです。他にも有名人がいたはずだな。。。

音に色を感じる、などという現象は科学用語(心理学なのか生理学なのか分かりませんが)では「共感覚」と呼ばれるものの一種で、人間には原始から備わっていたものだという話です。しかし、「共感覚」が人によって一致するのかしないのか、そもそもどんな原因で起こるのか、は、関連した資料を読んでも、あまり研究が進展していないようです。音の場合、音に色を感じることを「色聴」といいます。

世間の「色聴」実験・研究例がどれほどあるのか知りませんが、複合音については、一つの、どちらかというと心理学的手法による実験例を見つけました。
学生の被険者(18歳から22歳くらいでしょう)27人に、6つの基音(音高はオクターブ上げたものも使用)で長調の主和音、短調の主和音を聞かせ、それによって感じた色を色見本から選ばせるものです(実験1)。この場合、オクターヴ上がると色彩は一様に黄色がかった明色系となる結果が出ました。

さらに、「この音を何色に感じるか」を投票してもらうサイトがあり、単音に関して投票者が随意に感じる色を選ぶようになっています(実験2)。やっている方は意識していないかもしれませんが、これも心理学のひとつの手法ではあります。

いずれもWeb上のどこに掲載されているかは、「付録」に記します。

今、音程の波長の比、色の波長の比について、比べて見たいと思います。色は、可視光線の波長が(正確には違いますが)3500オングストロームから大体7000オングストロームですので、ちょうどオクターヴに当てはまる比に分割できるので、仮にその手段によって比を表します。(色は西欧音楽の「絶対音高ないし音程」にあたる「絶対色」というのはありませんので、大雑把な比較になります。)

同時に、上記実験1、実験2の結果で普通人が感じた色を併記します。併せて、スクリャービンとリムスキー=コルサコフが各単音に「感じた」とされる色も横並びにしてみます。
結果は、次の表のとおりです(Scr.がスクリャービン、Rims.がリムスキー)。

(音は長調はCを1・短調はAを1と見た場合。色彩は赤を1と見た場合の周波数比)
なお、比較を簡単にするために、音の数比は平均率をもととし、なるべくきりのいい数字になるよう修正を加えました。(複合音を考える場合にもこんなことをしていいのかどうかは考慮していません。)


                         ( 長  音  階 )
 長調 短調 数比 対応色 実験1(長) (短)  実験2 Scr.  Rims.
---------------------------------------------------------------------------
 C  A  1.00  赤      茶(青)黒(青) 赤  赤   白
 C# B  0.95  朱                 (紫)
 D  H  0.90  橙               黄  黄   黄
 D# C  0.85  黄橙                (肌色)
 E  C# 0.80  黄      青(橙)紫(青) 橙  白   青
 F  D  0.75  黄緑              緑  赤黒  緑
 F# D# 0.70  緑                 (青菫)
 G  E  0.67  青緑              青  赤紫  茶緑
 G# F  0.63  青                 (菫)
 a  F# 0.60  藍      緑(橙)青(灰) 紫  緑   バラ色
 b  G  0.56  濃紫                (灰色)
 h  G# 0.53  紫               白  白青  暗青
 c  a  0.50  赤紫
*実験1の( )内の色はオクターヴ上の和音により被険者が感じたもの(優位度の高いもの)
*実験2は、選択した人数が最も多い色

この結果を見て、どうお思いになりますか?
「色聴」があると称していた音楽家の例が一見バラバラなのに対し、一般の人たちの投票(実験2)はD・Eの音色感が逆転している以外は自然光のスペクトルとほぼ一致、かつhに至ると白、すなわち独自の色彩は感じていないらしい点に注目されますね。
また、実験1は複合音(3の調の主和音)を元にしており、単音の場合と違う流れになっているものの、ある程度「基音の波長」と「感じる色の波長」の相関関係がありそうに見受けられます。しかも、和音を使ったことで、感じる色波長の間隔が、単音のオクターヴに比べ拡がっているようです。かつ、和音の音高から感じ取る「色」は単音で感じるものと逆さまの関係になっているとの印象も受けます。さらに、長調・短調では短調のほうが暗い色からスタートし、暖色系が無いのも注目されます。

色には「色相」・「明度」・「彩度」の要素があり、ここまでの実験はそのうち「色相」しか問題にしていませんから、実験1の長調・短調が「明度」をあらわすものだと受け止めれば、まとめ方はもっと違ったかもしれません。その点、不満が残りますけれど、ここまでの実験例は他には皆無ですから、貴重な例ではあります。

さて、一見バラバラ、デタラメに見える音楽家達の「色聴」ですが、一般の人より狭い音域に限って観察すると、自然光のスペクトル色の順番との相関関係が皆無ではないと思われます。しかも、スクリャービンは「長調」を、リムスキーは「短調」を基本にした「色聴」をしていた可能性があり、専門家としての音楽家の「色聴」には、単音ではない、複合的な要素が絡んでいるものという推測も可能です。作風との兼ね合いを考える参考にもなりそうです。(リムスキーの「色聴」がいつの時点のものか分かりませんけれど、彼の若い時代の作品は後年のものとは違って暗色系です。)

ともあれ、「実験1」・「実験2」とも、「色聴」は特別なことではなく、自然の摂理にも適っていることを感じさせてくれます。また、この先どういう実験を進めればよいか、結構いいヒントも与えてくれます。
・単音の強度と「色聴」の関係
・単音の遠近と「色聴」の関係
・複合音(とりあえず和声)と「色聴」の関係のより詳細な実験
これくらいまでは、すぐにでも方法を考えて実施できそうです。
・・・どなたか、やってみませんか?(付録の2)参照)

で、作曲家スクリャービンの音楽に、果たしてスクリャービンが見たのと同じ色を、聴衆は感じることが出来るのでしょうか?
楽譜は見ていませんが、「プロメテウス」には「色彩(色光)ピアノ」という、鍵盤を押すと色のついた光を発するピアノを指定しているそうですね。
ロックだったらそういう映像もありそうだけれど、残念ながらクラシックのDVDで「プロメテウス」の実演を映像化したものは見当たらず、視覚的な確認は出来ません。
かつ、僕自身は「プロメテウス」に特定の色を感じることが出来ない、という点を、正直に告白しておきます。「法悦の詩」にしても、官能性を過剰期待すると、あまり面白くありません。管弦楽そのものにけっこう余分なほど「音色付け」をしている感じがします。このあたりが、長調的人間性を示しているんじゃないかな、と思うことは可能でしょうが、まあ、主観の域は出ませんね。

むしろ、スクリャービンの作品では一連のピアノソナタの方が「色彩的」だと思います。
5番以降、全て単一楽章になるのがミソで、後半ものほどお勧めです。
でも、やっぱり、僕には上の実験のような意味での「色聴」は、ないようです。
今年グリークの協奏曲でご一緒したノルウェーのピアニスト、ブローテンさんも、前回(サン=サーンスの協奏曲で共演した際)
「僕は、感じないな」
とおっしゃっていました。
その辺、皆さんはいかがですか?

スクリャービンはアシュケナージが管弦楽曲/ピアノソナタとも精力的に録音しており、いずれも輸入版・日本版で複数種類出ている模様です。最安値のものを買っても最高値のものを買っても、演奏時期に差があってもまあ、解釈に大きな違いはありませんから、見つけて手が出たら「運命だ」と思って、それをお聴き下さい。英語版のほうが、解説が適切で締まりがある気がします(僕のダラダラ綴りとは大違いなわけです)。

・Complete Symphonies,Piano Concerto,Prometheus,Le Poeme de l'extase
Ashkenazy/Deutsches Symphonie Orchester Berlin DECCA 473 971-2

・The Piano Sonatas Ashkenazy DECCA 452 961-2

管弦楽曲・交響曲はスヴェトラーノフ最晩年の全集も出ています(若干高価です)。

はじめてスクリャービンをお聴きになるなら、管弦楽曲よりは、特に単一楽章化してからのピアノソナタ(第5番以降)をお奨めします。

「色聴」を持っていない、と思っている人にも「色聴」を感じさせやすい音楽作品が、いくつも存在するのは間違いありません。
すぐ思いつくのは
・ラヴェル「ダフニスとクロエ」第二組曲の第1曲
で、冒頭の低音が夜明けの水平線の深い赤色、鳥の声とともにすぐ上昇していく音列が、晴天の、より上空の青色を見事に感じさせてくれる・・・そうは思いませんか?

今回はこんな話でした。これを参考に、ご自分の「色聴」傾向をテストなさってみてはいかがでしょうか? 案外面白いかも知れませんヨ。

==付録==

1)色聴に関する実験/情報のサイト例

  実験1:
  http://www.lit.osaka-cu.ac.jp/UCRC/data/pdf_0503fiction/05_sakai.pdf

  実験2:http://www.lacrime.net/item_238.html

  共感覚についての説明(「同意できるもの」ばかりではないですが・・・):
  http://www.isop.co.jp/main/sikicho.htm
  http://czx1.fc2web.com/color_sinri02.htm#

  スクリャービンについて(ちょっと激しい・・・):
  http://www.ictnet.ne.jp/~yoshijun/bomb/bombScriabin.html


2)実験データを見る上での注意および「音」そのものの入門書

実は、とりあえず楽器や声に固有のスペクトル(いわゆる「音色」)の問題は取り上げた実験例では触れられていません。ピアノの音色が前提だと思って下さい。
「音色」に突っ込むには、かなりの工夫が必要だと思います。
また、ある音高からは人間は独自の色彩ではなく「白色光」ないしは光の無い状態を感じる傾向があるようです(「実験1」のレポート本文参照)。これは人間の可聴域や可視光線の周波数範囲と何か関係していないかどうか・・・これも研究に値する項目だと思います。
あるいは、光の色の場合、その強弱によらず、赤い光は電子を通さず、紫の光は電子を透過させる、などという電磁波的実験の結果も出ていますから、科学者にとっては光と色だけでなく、音をも関連させた実験ネタは、案外豊富に残されているんじゃないでしょうか? (手法が心理学的で、そのくせ偏差や母数の問題が上の実験では不明確なのが難点です。考える余地がたくさんあります。)
このテーマがイメージ論で主観的に放置されていてはもったいない・・・

音そのものに興味を持つうえで、比較的安価な入門書は次の2冊です。

・「図解雑学 音のしくみ」中村健太郎 ナツメ社 1999 税抜1,300円
・「音のなんでも小事典」日本音響学会編 講談社ブルーバックス 1996
                           税抜1,100円
最初のものの方が分かりやすいですが、「・・・小事典」の方が話題が豊富です。
「図解」の著者は「・・・小事典」の執筆にも関与しています。

「音」の本ではありませんが、
・「光と電気のからくり」山田克哉 講談社ブルーバックス 1999 税抜860円
もお勧め。

音の本1冊と光の本1冊を読むだけで、イメージがいろいろ膨らみます。
・・・「音楽」って、なんて深い謎を持っているんだろう、って。

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