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2007年10月20日 (土)

忘れ得ぬ音楽家:5)アンドレ・クリュイタンス

先週、上岡敏之/ブッターパール交響楽団の演奏会の余韻に浸りながら、お誘いを受けて数人の方と会食を楽しむことが出来ました(暮らしも変わり、持病の「うつ」には出口が見えず、自分たち演奏会の打ち上げも半分しか参加できませんでしたから、家内の死後初めての、ありがたい、幸せな会でした)。

その席上、「でも、音楽会の感動が、そのまま録音にすっかり残せるものだろうか」という話題になりました。
私はその際、
「アンドレ・クリュイタンスが1964年に来日したときの、東京文化会館での<幻想交響曲>のライヴはいいですよ」
という旨の発言をしました。

この年は私は地方育ちの幼児で、当然、演奏会そのものを聴いてはいません。ですが、<幻想>のライヴは、初めて聴いたとき、次の3点で、私の心をとらえました。
・当時の日本では最先端技術だったステレオ録音だが、ディテールまで捉えた優秀なものである
・たとえばヴァイオリンがミュートをはずすカリカリ、という音まで暢気に入っていて、ふくよかな臨場感がある
・なによりも、60〜70年代のオーケストラはこういう音だった」ということがはっきり記録されている
最後の点については、次のような試みをして頂けると、よくわかります。

67年にはクリュイタンスは亡くなってしまい(従って、残念ながら私は彼の指揮を生で目に出来ることはついにありませんでした)、率いていたコンセルヴァトワールのオーケストラはパリ管へと発展解消してしまいました。ですから、70年代にパリ管がセルジュ・ボドと録音したフォーレやメシアンには、クリュイタンスと蓄えてきた彼らのノウハウがしっかり残っていることが分かります。ですが、80年代に入ると、パリ管の響きは変わってしまっています。

実は、クリュイタンスとコンセルヴァトワールのペアが残した最も素晴らしい録音は、モノラルになりますが、同じ64年来日時のラヴェルシリーズ(私が初めて入手した当時はその一部を1枚ものとして聴くことしか出来ませんでしたが、現在ではAltusから2枚組で発売され、全貌を聴くことが出来ます)だと思っています。
これは実際に聴いた人が、
「ダフニスが始まったとたん、会場全体がふうわりと、音の渦の中に巻き込まれてしまっていた」
と感激の弁を述べていらしたのを伺っています。実際、このときの「ダフニス」は、同じペアがスタジオ録音で残した演奏よりも遥かに優秀で、かの感動の弁の通り、冒頭部の音の広がりには胸を強く打たれます。とりわけスタジオ録音に比べて優れているのは、木管群が模倣する、朝焼けの中を飛翔する鳥のさえずりで、これがこの世の楽器で演奏されたものだとは、とても信じられません。

そもそも私がクリュイタンスという指揮者の素晴らしさを思い知らされたのは、中1の頃EMIが<セラフィム>というレーベルで発売した1,000円盤LPの中に含まれていた、彼の指揮したものを2枚ほど聴いた時でした。
オーケストラは、ベルリンフィル。曲目は、なんと、ベートーヴェンの第4、第7、第8でした。
この3曲ばかりは、いまだに、この演奏を超える美しさを持つものを(生を含め)聴いたことがありません。
残念ながら彼がベルリンフィルと録音したベートーヴェンの交響曲は、現在では全集でしか入手できませんし、この3曲以外は特別な出来というわけではありません。
ですが、この全集、おどろくべきことに、ベルリンフィルにとっては初の「ベートーヴェン交響曲全集」でした。
しかも当時は、ベルリンフィルと言えばカラヤンかベーム、と相場が決まっていました。
そんな中、しかし、ベルリンフィルが
「ベートーヴェンの全集を残すならこの人と!」
と指名した指揮者がクリュイタンスだった、という事実は、注目すべきです。

ベルギー生まれで、フランス音楽のエキスパートと思われがちなクリュイタンスですが、1955年にはバイロイトでワーグナーの堂々たる演奏もしています。

映像も数種入手可能ですが、「ライヴ・イン・モスクワ」だけは、ジャケットにごまかされて買ってしまったものの、正面からの彼の姿は全く映っていませんでしたから、おすすめしません。

上記で触れた以外のディスコグラフィーは、下記リンクの通りです。

80年代には失われてしまったオーケストラの響きを、是非、彼の演奏を通じて、存分に味わって頂ければと思います。それはじつに暖かくて、品位があって、しかも、聞く人誰もが心の中に持っているはずの「もう一つの太陽」を呼び出し、抱擁してくれます。

こうしたオーケストラの音が是非戻って来てほしいと願っております。

HMV
TowerRecords

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コメント

こんにちは。

上岡さんのコンサートとても良いお話です。

私もアマチュアですが国内トップlevelの楽団で演奏してますが、まさに日頃の合奏練習は全ての音符の意味づけ、音質と色の種類、和声の透明感、バランス…など効率よくプレ―ヤがなすべき合わせる事を団員全員でpm23:00近くまで楽しくやってます。

海外の名前だけ一流の団体も基礎合奏から普段やられた方が良いと思いますが☆


クリュイタンス…素晴らしいプロの棒でした。
バッカスとアリア―ヌ参考になりましたが、フランス人が誇りを捨てメ―ソドを変えてしまったのは謎です。

投稿: マイスターフォーク | 2011年3月27日 (日) 16時33分

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