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2007年10月 1日 (月)

曲解音楽史21:諸聖歌の背景(1)グレゴリオ聖歌

前の回:1)音という手段  2)リズムの成立 3)音程から音階へ
    4)言葉と音楽   5)トランス   6)古代メソポタミア
    7)古代エジプト 8)古代インド   9)古代中国 10)古代ギリシア
    11)古代ローマ  12)初期キリスト教の聖歌について
    13)ササン朝ペルシャ    14)西暦5,6世紀ユーラシア音楽横断
    15)中世前半の西ユーラシア   16)唐朝と朝鮮・日本 17)「声明」の伝来
     18)モンゴルと中央アジア北方 19)「十字軍時代」の西ユーラシア
     20)日本固有(?)の古歌



西ユーラシアについては。これまでまとめてみてきましたので、ここで地域をヨーロッパに絞っておきましょう。
とくに大事な「グレゴリオ聖歌」に触れておかなければならないでしょうから。

「グレゴリオ聖歌」を瞥見しただけでは、ヨーロッパ圏のキリスト教普及の一断面しか見えないのですが、一方で、その後20世紀にいたって世界を席巻することになるヨーッロッパ音楽の「仕組み」が如何に確立されたのか、という、極めて大切なことを考える上では絶対に単純に通り過ぎていい音楽ではありません。

音楽理論は、先に古代中国・インド・ペルシアで非常に細やかに体系づけられましたし、これらの国々、およびその文化圏は、いまでもそれに沿った伝統音楽が活き活きといのちを保っています。

ヨーロッパについては、古代ギリシャでいったん確立された音楽理論は、実質上、西ローマ帝国崩壊までにはその伝統が絶たれてしまいました。

中世ヨーロッパ人は、文献を通じ、それをあらためて体系づけていくことになり、さらにはその理論は音階音響論の垣根を超え、対位法理論や和声理論へ、と、他世界では考えられもしなかった方向へと発展を遂げていきました。

とはいえ、中世ヨーロッパ人が「復興」を試みたギリシャの音楽理論は、本来のものとは全く異なっていることが、今日では分かっています。
しかしながら、結果的にはその間違いが、ヨーロッパ音楽を多様な世界に導く結果をもたらしたと言っていいでしょう。

復興の柱として、まずヨーロッパ世界に普及していた音楽は、極めて単純だったものだったのではないか、という印象が、私にはあります。
それは、「グレゴリオ聖歌」が系統立てた「歌唱のための、あるいは記譜のための約束事」が、極めて分かりやすいことからの類推です。

「グレゴリオ聖歌」そのものについては、日本語で読める、分かりやすい文献も増えました。
ですが、それらの書籍は決して安価ではありませんから、現実には、CDで聞かれる以外には、まだまだ「より突っ込んで」グレゴリオ聖歌を知ってみよう、という人口は少ないのではないかと思います。

私自身、聖歌の変遷史を追いかけることができるほど知識があるわけでもありません。いや、基礎の基礎もろくろく知りません。

そこで、「聖歌」が歌い継がれる中で確立されていった「ミサ」の式次第については前に記した別の記事に譲り、ここでは「グレゴリオ聖歌」を歌う上での約束事である「調」と「楽譜・音符・譜面」をご紹介し、読んで下さる方の今後のご理解に資することをのみ願って綴ることと致します。

前提として、「グレゴリオ聖歌」に使われている4線譜の読み方については、こちらにリンクした記事をお読み下さい。

なお、調・音符の図版は「現代聖歌学に基づくグレゴリオ聖歌の歌唱法」(カルディーヌ著、水谷訳)、譜面の図版は日本におけるグレゴリオ聖歌指導書(?)の嚆矢、水嶋良雄著「グレゴリオ聖歌」によります。


1)調

「調」と呼ぶよりは「旋法」と呼ぶのが正しいでしょう。それは、「聖歌」は固定した音の高さではなく、集まった歌い手が歌いやすい音域に自由に高さを移動して歌ったからで、「調」と呼んでしまっては、後年の長調・短調との混同も懸念されますし、東洋的な「調」絶対音高を前提としていますから、それとの違いも不明確になってしまうからです。
こんにち「教会調」と呼ばれる8旋法が「ドリア・フリギア・リディア・ミクソリディア(以上、正格)、ヒポドリア・ヒポフリギア・ヒポリディア・ヒポミクソドリア(以上、変格)」と呼ばれるようになったのはのちのこと(ただしくいつからか、は私には確認しきれませんでしたが、9〜10世紀ごろのことだそうです(詳しいことをご存知の方のご教示をお待ちしております)。
しかし、本来は下の引用図の通り4旋法であり、正格・変格に区分するよりも、この4区分のままで捉える方が良いと思われる、と、カルディーヌ神父は述べています。
Senpou1_2
Seupou2



2)音符

引用図は「単純ネウマ」と呼ばれるものに限りましたが、これだけで、あとは楽譜の読み方のルールが分かりさえすれば、4線譜は、むしろ今の学校で習う五線譜より読みやすいと思います。また、図版は「音高」を記すことになる以前のネウマがどのようなものであったかも併記してあり、貴重です。
音の高さの読み方については次項を参照して下さい。
Neuma1



3)楽譜(譜面)

読む上での簡単な約束事はここにリンクした記事をご覧下さい。
次にあげるのは、具体的な曲の例です。
各行の末尾に小さな音符が描かれているのにお気づきかと思いますが、これは、次の行がどの音程から歌い始められるかを表す記号で、「ギドン」と呼ばれます。
Quique_2
この楽譜の歌唱例をお聴き下さい。


〜"CANTO GREGORIANO" CD7 ( Documents 222688

話はそれますけれど、この10枚組のCD、かなりのマニアの方には「変な歌い方のものも混じっている」と不評なのですが、この歌唱についてはそうした懸念は不要ですし、かつ、日本の私たちが世界中の「グレゴリオ聖歌の歌い方」を知悉できるわけではありませんから、そうしたマニアックな評価をしてしまっていいのか・・・同じことは、実は日本の民謡のCDにも言えるのです・・・私は疑問に思っております。

・・・というわけで、今回は例示に留めました。

現代聖歌学に基づくグレゴリオ聖歌の歌唱法Book現代聖歌学に基づくグレゴリオ聖歌の歌唱法


著者:ユージェーヌ カルディーヌ

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Bookグレゴリオ聖歌


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