« 曲解音楽史補遺:「大唐西域記」〜盛唐期と同時代のインド音楽 | トップページ | ある失望:「指揮したい」? »

2007年9月 4日 (火)

曲解音楽史18:モンゴルと中央アジア北方

(今回は節分けしませんネ。)

専門家の入門書によると、モンゴル族と他の中央アジア諸族とは分けて考えなければならない、とのことだそうです。では具体的にどう区分したらいいのか、となると、あまりにたくさんの民族があって、わからない。なおかつ、12〜13世紀にユーラシアを席捲したモンゴルの後裔の陰に隠れ、イスラムの隆盛にも紛れて、中央アジア南方の、いわゆる「西域」方面(ホータンやローランのあたり)については、歴史の輪郭がはっきりしません。
かつ、「西域」も含めて、中央アジアは、東は中国圏、南はインド圏とアラブ圏、西はスラブ圏に囲まれ、欧米からも日本からも意外に「遠い」世界です。

中央アジア北方については、少なくとも現在の地理上はアルタイ山脈を挟んで南西側(カザフ系)と北側(モンゴル系)には、音楽上は明確な差異があります。

という次第で、同時期に大躍進を遂げたイスラム勢力や、それと対峙することで世界像が現在に近づいたヨーロッパを眺める前に、これら中央アジア北方の音楽に、ちょっと耳を傾けてみましょう。


11〜13世紀は、20世紀の2つの世界大戦以前においては、未曾有の戦乱期ではなかったかと思います。
西は「十字軍」の呼称に集約されるイスラム勢力とヨーロッパの度重なる衝突があり、東は唐の衰退により西域から東南アジア方面までが混迷に追い込まれました。
とどめが、チンギス・ハン(ハーン、カハン)とその後継者を頂いたモンゴルによる、ユーラシアほぼ全域への侵攻です。(西ローマ帝国が滅びた時のゲルマン勢は元々西ローマ帝国に内包されていた人々が中心でしたし、その後のフン族の東ヨーロッパ侵攻も首領アッティラの死とともに終息したため、モンゴルほどの長期間の脅威ではありませんでした。)

この時代、どれだけの古いものが失われ、どれだけの新しいものが生み出されたかについては、たぶん調べても調べてもきりがないし、その割に分かることも少ないでしょう。歴史好きの人にとっては垂涎の時代ではありますが、人々の生活は翻弄されまくったに違いありません。それでも民衆が逞しく生き抜いてきた期間ではあったのでしょう。

直接「この時代のもの」と特定できる音楽はないのですが、伝統が守られている、という前提で、カザフ系とモンゴル系の違いが分かり、かつ面白めのものを選曲してみましたので、お聴き下さい。(めずらしく、異系統の音楽が1枚のCDに収まっていましたので、そこから選びました。)

・カザフ系:
・モンゴル系(アルタイ族):

"Mongolie : Chants Kazakh et tradition epique de l'Ouest" Radio France OCORA C58 0051から

お聴きのとおり、カザフ系はヨーロッパのテノールの唱法に近く、モンゴル系は地声を元にしています(大人の声は「喉歌」とよばれる特殊な唱法で、ホーミーで使われる歌い方です)。
共通するのは撥弦楽器(ギターの仲間)を手にしての弾き語りである点で、これは、撥弦楽器であるならば、遊牧民族である彼らがいつでも手軽に取り出すには便利だからでしょう。

チンギス・ハンの一代記とも言える「元朝秘史」(岩波文庫に2分冊で収録)には、本格的な奏楽の場面は2箇所にしか記述されていません。一つ目はチンギスの父が招待された祝賀の場面(このとき、チンギスの父は毒殺されることになります)であり、二つ目はチンギスのライヴァルが敵の首領の首実検をする儀式の場面です。これらの描写には、1つ目のものには擦弦楽器(弓で弦を弾く楽器、すなわちヴァイオリンのご先祖様。もしかしたら馬頭琴そのものか、その先祖だったかもしれません)も登場し、2つ目には打楽器なども現れます。多彩な楽器を用いての奏楽の場面描写が少ないのは、そうした奏楽は、遊牧民族には珍しい、場所をきちんと定めての、あらたまった機会(儀式)にしか行なわれなかったことをうかがわせます。
一方で、「元朝秘史」は叙事詩ではないにもかかわらず、豊富な韻文が登場します(残念ながら訳文からはそれがどれほど「音として」美しいのかは想像出来ませんが、注釈によって、原文が見事に頭韻・脚韻を踏んでいることを教えてもらえます)。「喉歌」の弾き語りの重要なジャンルに<英雄叙事詩>がありますから、豊富な韻文は、そうした弾き語りは「元朝秘史」成立時には常識化していたであろうことを物語っているのかもしれません。

モンゴルの典型的な音楽とされるホーミーや馬頭琴の音楽は豊富にCDが出ており、または「ワールドミュージック」なる類のCDには他国の音楽と併せて優秀な演奏が収録されていますから、お好きなものを選んでお聴きになっても「ハズレ」は無いと思います。
また、トゥバ族(北シベリア管区の「トゥバ共和国」の主要民族)のCDで、ヒーリングとしても聴ける面白いCDがあります。これには喉歌の他、泣くような調べで歌われる歌、口琴(アイヌのムックリの仲間)演奏などの興味深い例が、草原を走る馬の足音や犬、鳥の鳴き声とともに収録されていて・・・素晴らしいのですが例を採りづらいため、ここへのリンクはあきらめました。収録してある喉歌は更にヴァリエーションに富んでいて、相当な名人が歌っているものと思われますから、御興味があったら探してみて下さい。(昨2006年以前に入手したものなので、今もあるかなあ・・・)

CD:"TUVA , Among the Spirits : SOUND, MUSIC, AND NATURE IN SAKHA AND TUVA"
Smithoniaqn Folkways SFW 40452


なお、喉歌に関しては、
「周アルタイ山脈型喉歌」 トゥバ民謡演奏家、ホーメイ奏者 等々力政彦さん(有名な方)
http://members.aol.com/khoomij/kh_src/khm_11.htm
の頁に概要が分かりやすくまとめられています。ただ、この頁の最初の方には、カザフ系(およびキルギス系にも喉歌がることを示唆する文があります。本文そのものにはこの件は記載されていないため、私は検証をしておりません。もし良い本やサイトがありましたら、是非ご紹介下さい。

|

« 曲解音楽史補遺:「大唐西域記」〜盛唐期と同時代のインド音楽 | トップページ | ある失望:「指揮したい」? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/95716/7805715

この記事へのトラックバック一覧です: 曲解音楽史18:モンゴルと中央アジア北方:

» idaho accommodation [idaho accommodation]
idaho accommodation [続きを読む]

受信: 2007年9月 6日 (木) 18時07分

» モンゴル岩塩ブーム? [気になること\(^▽^)/カモン!]
朝青龍は「一般人としてみたら、もう元気。」らしいです。まぁなんともビミョーな表現だがヾ(~∇~;)とにかく「蒙医学」なるものによると、モンゴル岩塩を薬用に使うと良いらしいのです。... [続きを読む]

受信: 2007年9月30日 (日) 19時45分

« 曲解音楽史補遺:「大唐西域記」〜盛唐期と同時代のインド音楽 | トップページ | ある失望:「指揮したい」? »