定家:後鳥羽との邂逅(2)
まず、後鳥羽上皇の作歌から、印象的なものをいくつか拾ってみました。
本来ならば、これらと類似した主題を扱った他の人の歌を併記すると後鳥羽の個性がより明確になるかと思うのですが、私の狭い視野ではそれをやりきることが出来ません。
で、2つだけ、『六百番歌合』中にある同主題のものと併記してみます。「違い」に着目下さい。
後鳥羽:梅が枝はまだ春立たず雪の内に匂ひばかりは風に知られて(4)
六百番:(春上 十二番)
左 勝 (九条良経)
空はなほ霞みもやらず風冴えて雪気に曇る春の夜の月
右 (寂蓮)
梅が枝のにほひばかりやはるならんなほ雪深し窓の曙
後鳥羽:さらにまたうすき衣に月さえて冬をや恋ふる小野の炭焼(61)
六百番:(顕昭)
残りゐて霜をいただく翁草冬の野守となりやしぬらん
・・・どうでしょうか?
六条・御子左・権門、どの代表的作者にくらべても、後鳥羽の歌には、より遠くにまで及んでいる「まなざし」を、私は感じるのですけれど。他の歌もあげてみましょう。
2. 春きてもなをおほ空は風さえてふる巣恋しき鶯の声
10. 花か雪かとへど白玉岩根ふみ夕ゐる雲に帰る山人
14. 春のあした花散る里を来てみれば風に波よる庭のあは雪
22. 来るかたへ春の帰らばこの此やあづまに花のさかりなるらん
30. 五月雨に伏見の里は水越えて軒に蛙の声聞こゆなり
32. むら雲はなをなるかみの声ながら夕日にまがふささがにの露
50. あけぐれの空もたどらぬ(=まよわずにいく)初雁は春の雲路や忘れざらなん
54. 佐保姫の染めしみどりやふかからん常磐の森は猶紅葉せで
73. 思ひわびねられぬ物をなにとまた松吹く風のおどろかすらん
77. 身をつめば厭ひし人ぞあはれなる生駒の山の雲を見るにも
77番に「伊勢物語」の影を感じたりはしませんか? その他も物語絵から切り出したような、余計な「含み」のない鮮やかさです。このあたりが、後鳥羽を定家に近づける要因になった気がします。
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