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2007年8月26日 (日)

<響き>の基本に還りませんか?〜DVD:「パイプオルガン誕生」

21yprnxzwwlこのDVDについては昨日中にレヴューしたかったのですが、考えさせられたことが多く、整理がつかず、1日繰り延べとなってしまいました。

考えさせられたこと・・・それは、どんな「楽器」にも通じる<良い響き>はどうやってもたらされるか、という問題です。あるいは、<良い響き>のためには、人が主観で「音楽、かくあるべし」と思い込んでしまうのはいかに宇宙に対して尊大であるか、ということでもあります。
「パイプオルガン誕生」を見て、前日、娘がトロンボーンの先生に言われた内容(娘にバレるといけないんで、陰でこっそり訊いていました)を、自分の中で何度も反芻していました。

「<楽器>を吹いているんだ、と思うのをやめなさい。素直に息を吹き込めば、管が、管そのものの持つ音を自然に鳴らしてくれるのだから。」

・・・これは実にいい言葉でした! 取り扱うものが「家族」であっても「ペット」であっても「職場の同僚」であっても、置き換えが効く。。。が、そういう脱線は、とりあえずやめましょう!

「管」を「弦」に置き換えても、先生の仰った言葉はそのまま当てはまるものでして、弦が自然に鳴る状態に、必要な位置にきちんと体重がかかって(力づくで押さえるのではダメでして、物理的に自然な振動を生み出すための支点が作られなければいけませんから、体重を「やんわりと」乗せるんです)、
その結果、糸が伸び伸びと、自分が「持って生まれた」そのままの性質で振動する。そうすると、波形が乱れませんから、聞こえてくる<響き>は、非常に透き通った、素直なものになる。・・・木管楽器は、この点では弦楽器との共通点の方が大きいかもしれませんね。(実は、DVDを見終わって、しばし考えたあとで、家にあるトランペットとクラリネットで試してみました。トランペットについては娘の先生伝授の方法を試して、驚くべき成果も上がりましたので、後述します。)


前置きが長くなりました。
ですけれども、以下のDVDの内容上での注目点も、<響き>を中心に記述して行きます。
相当長いレヴューになりますので、あらかじめご容赦下さい。

ドキュメントは、東京カテドラルのオランダ製パイプオルガンが老朽化したこと、かつ40年前の流行で作られたそのオルガンは電磁石を利用して発音していたのですが、もう部品を製造していないため、修理するとかえって高くつくことから、新品を調達するしかなくなった、ということから始まります。たった40年の老朽化、しかも「電磁石式」で部品がもうない、という当たりは、<電気機械文明>のもろさを象徴しています。・・・パソコンの類いは、この電磁石式オルガンの世界をそのまま縮図的に今日まで持っているのですね。私はその結果、デスクトップについては4代目の交代を余儀なくされました(3代目は、奇跡的に安価に復旧しましたが)。

新たに作られることになったのは、伝統的なイタリア式のパイプオルガンです。

ご存知の通り、パイプオルガンこっちの説明の方が分かりやすいかな?)は送風機から送られてくる風を頼りにパイプをならすことによって発音しますが、これだけは人力では大変なので、機械を使うしかありません。その他、音色を変える「ストップ(これにより、演奏者はどの位置の、どの音色のパイプを鳴らすかを決める)」についても、コンピュータ技術の応援を借りないと、たとえば現代のペルトの作品のように、一度に40ものストップを入れたり外したりする曲を演奏するのは困難です。ですから、この2つについてだけは、どうしても電気・プログラムといった現代技術に頼らざるを得ません。
それでも、伝統的なパイプオルガンは、他のすべてが「手作り」です。
送風機からの風をパイプに送る「風箱」は、節の少ない木を厳選して製材した板を用いて作ります。パイプの合金の調合も、天秤を使い、目視で行います。その合金を液状に熱し、一気に型に流して板にするのも手作業です。その板を均一な厚さに研磨するのも、パイプそのものを丸めるのも、すべてが手によって行われます。DVDの前半は、こうした一連の手作業の見事さを的確に捉えて、私たちの目を離させません。パイプの数だけで三千本強、部品は数万個。
「人の手だけで、これだけのものを体系的に作り、組み上げることまで出来るんだ!」
驚異、ですか?
・・・じつは、私は「住宅」を売っていたことがあります。日本の戸建住宅にパイプ(煙突)があることは稀ですし、あっても三千本などということはありませんが、部品数はパイプオルガンと同程度です。プレハブが増えた、と言っても、住宅作りを仕事にする人は、それを手作業で組み立てている。
そういった、身近な「手仕事」があることを、このオルガンの映像を見ながら思い浮かべ直して頂くのも、なかなかにいいことなのではないかな、と思います。

脱線しました。

さて、ここからが、<響き>を考える注目点です。
金管楽器をやる人向けの用語が出てくるので、金管楽器をやるかた以外に分かりにくくなってしまわないよう、気をつけながら綴るよう努力しますが、なお不明な点は類推でお読み頂ければと存じます。

パイプオルガンのパイプは、笛になっています。
基本は、おもちゃの笛や、小学校・中学校で使う「たてぶえ(リコーダー)」と作りが変わりません。長いパイプの、笛で言えば口をつけて息を吹き込む当たりに、細長い四角の穴があいています。
オルガンのパイプと笛の違いは(パンフルートはオルガンと同じですが)、オルガンのパイプはこの他に途中に穴があいていないことです。すなわち、一つのパイプは、一つの高さと音色だけを受け持つわけです。これが、パイプオルガンに膨大な数のパイプが必要になる理由です。

一つのパイプが一つの「音のすべて」を受け持つわけですから、オルガンの音の調整は、楽器の仕上がり具合を決める最大の、かつ最も困難な仕事でして、下製作中の準備ももちろんですが、映像の後半の山場は、この「調整」を取り扱った場面となります。
これはまだ前半に出てくるのですが、パイプにあいた四角の穴の幅が音色を決める話は、とくに金管奏者にとっては非常に分かりやすく、参考にすべきことです。すなわち、穴(アパチュア)の幅が狭ければ音色はキツめで暗くなり、広ければ音色は柔らかで明るくなります。
金管楽器を吹く場合

・アパチュアの幅のみを変化させて倍音を上下する方法(狭い〜高い、広い〜低い)

・共鳴体である口腔内を広げたり狭めたりして倍音を上下させる方法(広げる〜低い、狭める〜高い)

がありますが、後者はパイプオルガンではここのパイプの太さや音質に委ねられています。で、ここまでは工場である程度仕上げが決まってしまいます。〜実際に、口腔内を広げたり狭めたりすることにより倍音を上下させる方法は、私のような全くの初心者にとっても、最低音の(記譜上のヘ音記号の)「ド=C」音からト音記号の最上線に乗っかった「ソ=G」音まで出してしまえ、音色も一定に保ちやすいメリットがあります。ですが、パイプのように「同じ音程で別の音色の管を用意する」わけにはいきませんので、自分の口腔のつくりに制限されて、音色のヴァリエーションは作りにくい、という制約もあります。
オルガンの場合は一度「音色の仕上がり」を決めてしまうと、それがオルガンの出来不出来を何十年、何百年にもわたって評価する尺度とされてしまいますので、穴(アパチュア)の幅を決める作業は金管奏者のように「日々訓練・改善」などという甘えが赦されません。
東京カテドラルの新オルガンは、ではいったいどうなったか・・・
音作り担当のかたと、それを監修するオルガニスト、ギエルミ氏のやり取り・・・その結果、調性の前後で音色がどのように変わったか・・・この大事な2点が、DVD中にしっかりと収録されています。
結果として、オルガンは明るく華やかな、しかしヨーロッパの伝統をしっかりと日本に伝えてくれる威厳のある音色に仕上がりました。
このあたりの経緯を、是非、DVDそのものを手にとってご覧頂ければと存じます。


最初の方の繰り返しになりますが、

「<楽器>を吹いているんだ、と思うのをやめなさい。素直に息を吹き込めば、管が、管そのものの持つ音を自然に鳴らしてくれるのだから。」

DVD中の言葉ではないものの、楽器を演奏なさる方はこの言葉を念頭に置いて、音楽をお聴きになる方は「素直さが出ているかどうか」に耳を傾けて頂いて、なおかつ音楽に縁のない方でも、
「私が私の心を支配するわけではない、私の肉体、というあるがままのものが私を動かしている。そのことを<素直に>見つめ直そう」
そんな思いを抱きつつ、このドキュメントをご覧頂ければ、ご紹介出来たことが幸いだった、と私にも言えるのではないか、と思っております。

お目通し頂きありがとうございました。




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販売元:NHKエンタープライズ

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コメント

Kenさんこんにちは。

オルガンのDVD、面白そうですね。

ところで、トロンボーンの先生の言葉、

>「<楽器>を吹いているんだ、と思うのをやめなさい。素直に息を吹き込めば、管が、管そのものの持つ音を自然に鳴らしてくれるのだから。」

は、全てに通じる「極意」のようですね。

岩城さんはカラヤンに一度だけ指揮のレッスンを受けたとき、

>「君はものすごく表現しているが、君が振っているとオーケストラからときどき汚い音が出る。力を抜きなさい。」
>「オーケストラを『ドライブ』するのではない。『キャリー』するのだ」

と言われた話は御存知かと思います。

カラヤンは飛行機の操縦をしましたが、初めての練習の時にフライトの教官は、

>「あなたにとって一番大切なことは、飛行機が飛ぼうとするのを邪魔しないことだ。」

と、言われ、ああ指揮と同じだ、と思ったそうです。この話を聴いた安永徹さんが、

>「それは、極意ですね。核心をついていますね」

と仰っていたのを思い出しました。

投稿: JIRO | 2007年8月26日 (日) 20時26分

すごく深い、興味深いテーマですねぇ!
akiraのような音楽についての知識が無い人間でも、
>「<楽器>を吹いているんだ、と思うのをやめなさい。素直に息を吹き込めば、管が、管そのものの持つ音を自然に鳴らしてくれるのだから。」
というお言葉が、全てに通じる極意だなって、感じます!
よく作家さんが、登場人物が勝手に動き出す…とおっしゃいますが、これも同じですよね、きっと!
私は多くの人間で一つの物を作る仕事に携わっていますが、その作品が素直にどこに向かおうとしているのか…まだ見極めることが出来ていないことに気付かされ、身が引き締まる思いがしました!頑張ろうっ!(^-^*b

投稿: akira | 2007年8月26日 (日) 23時41分

「もの」を素直に、その性質によって使いやすいようなものに仕立て上げるとか、そうやって出来上がった「もの」を、本来の性質に沿って素直に使うとか、いずれにしても大変難しいことですよね。まず「自分」というものが、思うようにいきませんものね。
・・・それを考えると、「大それた記事を綴っちまった」気がしないでもありませんが、「大それたことを思わせてくれる」ドキュメントとの出会いは、やっぱり嬉しいものだなあ、と、コメントを頂いてつくづくおもてとります。
JIROさん、akiraさん、ありがとうございました!

投稿: ken | 2007年8月27日 (月) 00時09分

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