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2007年7月 7日 (土)

ウェーベルン:作品6第3曲(20世紀音楽は普及しうるか-2)

まずは、聴いてみて下さい。音声はここにリンクしました。

(ブーレーズが出したウェーベルン全集のCDのうち、最初に録音した方のものから。)
どんなご印象でしょうか?
ご自分なりの印象が「かたまったら」、以下をお読み頂けた方が良いのですが・・・どうしても目に入っちゃいますよね。私の綴ることを先入観にしてしまわないようにだけ、まずはお願いしておきます。



できるだけ「私見」が目に入るのが遅くなるように・・・じゃあ、次に、この作品のスコアを載っけときます。
2ページ見開きですが、これで全曲です。(クリックすると拡大します。)
Webern_6st_3_1

いちおう、予備知識。
ウェーベルンは、生前出版出来た、あるいは出版できる見込みがたった作品は全部で31曲だけ。しかも、その中で最長の曲は、複数楽章を通しで演奏しても、15分にもなりません。
 『ヴェーベルン 西洋音楽史のプリズム』(春秋社 2004年)の中で、著者の岡部真一郎氏は、彼の作品の短さについて「ミニアチュール志向」と表現なさっています(スコアの英文前書きなどを読むと、学会一般での表現であるようです)。
私は以前、メーリングリストでウェーベルンを取り上げたとき、彼の音楽世界は、むしろ俳句と似た「ミクロコスモス」である、と思う、と述べました。今回当たり直してみて、
「俳句というよりは短歌かな」
と、改めて感じています。

未だ十二音技法が成立する以前の1909年に出来ていますので、十二音技法によらない「無調音楽」です。
作曲のきっかけは3年前の母の死です。
初演はウィーンで、1913年3月31日、師シェーンベルクの指揮で行われました。
このときのオーケストラ編成は、4Fl.(3,4 auch Kl Fl.),2Ob,EH,3Kl(3 auch Es-Kl), Bass Kl,2Fg(2 auch Kontrafg.),6Hr,6Trmp,6Pos,Basstuba,2Harfen,Celesta,3Tim, Triangel,Glockenspiel,Rute,Becken,Tamtam,Kl.Trom,Gr.Trom,Tiefes Gioken.,Str.
3管の一部倍管編成。ウェーベルンの残した管弦楽作品の中で最大規模だそうです。
その後、ウェーベルン自身は、自分の採った大編成が、かえって音楽の色をくすませ、時空をせばめていると感じ出したようです。
1928年、彼は思い切って、管弦楽器の縮小を主体とする作品の改変を行ないました。
 2Fl.(2 auch piccolo),2Ob,2Kl,BassKl,2Fg.(2 auch Kontrafg.),4Hr,4Trmp,4Pos,Basstuba,Pauken,Triangel,Glockenspiel,Tamtam,Kl.Trom,Gr.Trom,Tiefes Gioken.,1Harfe,Celesta,Str.(2管の倍管を基礎に、ハープ1台、打楽器1つを省いた)。
今回掲載した 第3曲の改変箇所は8カ所で、図版に挙げたスコアには、私が改変箇所をチェックした箇所に鉛筆書きのメモがあります。
で、上で聴いて頂いた演奏は、改定前の版によるものです。

全6曲は次のようになっています。()内の言葉は、ウェーベルン自身による、各曲への注釈です。
・第1曲: Etwas bewegte Achtel 19小節、1分10秒(カタストロフの予感)
・第2曲: Bewegt 27小節、1分25秒(その成就)
・第3曲:Zart Bewegt 11小節、1分00秒(微妙なコントラスト)
・第4曲: Langsam 41小節、4分35秒(葬送行進曲)
・第5曲: Sehr Langsam 26小節、2分30秒(エピローグ 追憶と諦念)
・第6曲: Zart bewegt 26小節、1分30秒(同上)

ウェーベルンが「音色旋律」を確立した、記念碑的な作品群の中の一つでもある、と、高く評価されています。


で、この中から第3曲目を聴いて頂いた訳ですが、いかがでしたか? 取っ付きにくい印象は、ありますか? ・・・以前は敬して遠ざけていたウェーベルンですが、私はこの第3曲で、彼の世界にぐーっと引き込まれました。 私の印象を言ってしまえば、この第3曲、森に囲まれた寺院の軒端で雨上がりを過ごし、軒端に落ちる雫を眺めるような安らぎを覚えさせてくれる。

主観はさておいても、構成が非常に「短歌」に似ています。
スコアを参照して試しに拍を数えてみて下さい。
四分音符(相当分)を1拍で数えますと、なんと32拍。まさに1字だけ字余りの短歌です。
が、ウェーベルンの短歌は、「五七五七七」ではなくて、「八五五八六」なんですけどね。

演奏時間は1分にも満たないのですが、多分、非常に理詰めで、納得がいくまで相当な時間をかけて作ったのではないかと思われます。
証拠に、聴いているだけでは絶対それと気づかないはずですが、12音音階のすべての音が、曲中にちゃんと、すべて含まれています。

曲は明確にコーダ付きの3つの部分に分かれていて、それぞれの部分に
・この部分では使わない音
・この部分で最も大事にする音(=その部分の中での主音または終止音)
が存在します。

私のアタマでは追いつかないので、最初は「名曲解説全集」をたよりに読み解こうと企んだのですけれど、この曲を解説している諸井さんはそこまでご親切ではありませんでした (T_T)
ですので、ウェーベルンが各部分にどんな「旋法」を想定したのか、ということまでは、私には理解出来ておりません。

仕方なくがんばりまして、以下に述べるところまでは、なんとかたどり着きました。ただし、旋律部分に限っての話です。和声付けを考え出すとパニックになってしまうので・・・外れてないかな〜? コワい。
・第1部(短歌の最初の2句に当たる)=1〜4小節:終止音は「C」。G#、A、B不使用
   念頭にあるのは教会旋法のフリギアか?
・第2部(短歌の3句目に当たる)=5〜6小節:終止音は「C」。やはり教会旋法のフリギアか?
  (フルート、ホルン、グロッケンシュピールによる「雫」がメジルシ!)C、C#、D#、Fのみ使用
・第3部(短歌の4句目に当たる)=7〜9小節:終止音は「C」。旋法の音高は明らかに第2部までと変わる。
・コーダ(短歌の5句目に当たる)=10小節〜11小節:終止音は「A」。だが、やはり教会旋法のフリギアか?
第3部からコーダまではC、E、F不使用。

どうも、単なる「無調」ではなくて、フリギア旋法が常に念頭に置かれ、それを「どう捻れば色彩豊かになるか」に腐心して創作されているように思われてなりません。で、細かく検討するゆとりと能力がないのが悔しいのですけれど、ウェーベルンがこの作品で試みている「旋法」の捻りは、ショスタコーヴィチにも、バルトークにも、どこか共通するものがある感じさえ受けるのです。

「無調音楽」とは「長調・短調」と呼ばれている「調」とは無縁である、というだけのことであって、背後にはかならず何かしらの(多くの場合は伝統的な)旋法が芯となって存在しているのではなかろうか、と、この作品などを聴いても、私にはそう思われてなりません。

いかがでしょうか?


CDは、改変後の1928年版の録音が圧倒的に多いです。以下、もう2年前の情報ですが・・・
私の聴いたCDは
・ブーレーズによるウェーベルン音楽の旧全集(SONY SM3K 45 845 1978-再1991)
新全集は未出版作品も含む代わり、9千円近い値段がしますので、3千円で出ているこの旧盤を見つけたら、断然お買い得です。Op.6は最初の版を収録。
・ Herbert Kegel "Alban Berg/Anton Webern Orchestral Pieces" 改変版を収録。
Rundfunk-Sinfonie- Orchester Leipzig(1977. BERLIN Classics 0090202BC 1995)
ミニチュアスコアはフィルハーモニア版で、改変前・後いずれも発刊されています。
・最初の版: PHILHARMONIA PH 433 池袋のヤマハで税抜2,600円!
・改変版 : PHILHARMONIA PH 394 池袋のヤマハで税抜2,100円!
まあ、興味があったら覗くくらいでいいんじゃないですかネ。。。

ということで、今回は、20世紀音楽の、とりわけ「無調」とされているもののなかから、実例を一つご覧頂いた次第です。
ご意見(ご異見)頂ければ勉強になりますし、間違いもあるかと存じます。ご指導頂ければこの上なく幸いです。
(23:23)

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