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2007年7月20日 (金)

曲解音楽史15:中世前半の西ユーラシア

前の回:1)音という手段  2)リズムの成立 3)音程から音階へ
    4)言葉と音楽   5)トランス   6)古代メソポタミア
    7)古代エジプト 8)古代インド  9)古代中国
    10)古代ギリシア11)古代ローマ  12)初期キリスト教の聖歌について
    13)ササン朝ペルシャ    14)西暦5,6世紀ユーラシア音楽横断



「6,7世紀あたりまでのユーラシア横断をしてきたのだから、これで一気に中世ヨーロッパの音楽世界へ突入してもいいんじゃないか」
この時期以後、西アジアにはイスラム勢力が勃興し、東は唐、西はヨーロッパ世界とせめぎあい、あるいは協調しながら歴史が築かれて行く。しかし、中心に存在するイスラム圏は、習慣の問題から、時代に密着した音楽資料をあたってみるのが難しい。唐朝とヨーロッパに付いては、その点、幾分敷居は低いだろう。ではまず、ヨーロッパからいってみよう、というのが、当初の発想でした。
ところが、コトはそう簡単にはいかないことが分かりました。
「ヨーロッパ中世史」と題する類いの書物では、東欧圏およびスラヴ圏が含まれていないのです。其の延長線上にあるからでしょう、東ローマ帝国を中心とするバルカン方面についても、必要最小限にしか触れられていません。
実は、取り上げられているドイツ以西については、イスラム世界との「衝突」以前には、むしろノルマンの侵攻が大問題として一帯を覆っている。いっぽう、この時期は、イスラムとキリスト教世界は、まだ平和共存しているのです。
こうなると、話の順番は変えなければならない。
平和共存していた「西ヨーロッパ」・「ビザンチン」・「イスラム文化圏」を、まず横並びで見ておかなければならない。


地中海世界については、都合のいいことに、最近いいCDがNAXOSから出ました。

"From Byzantium to Andalusia" NAXOS 8.557637

おさめられた曲の史料は12〜13世紀中心と、既に「十字軍」時代、すなわちイスラムとキリスト教世界の衝突の時期に入ってからのものではありますし、演奏者がヨーロッパの団体なので、演奏スタイルは幾分欧化されており、編成も最大公約数的なものなのではないかと思われるのですが、宗教を異にするそれぞれの作品を対比してみると、これらがいかに平和的に共存していたかを知るには絶好の材料であると思われました。
共存を可能にしたのは、イスラム教成立以前のアラブにあります。
ササン朝ペルシャの勢い盛んな頃にもなお、アラブに林立していた諸王国は、ゾロアスター教ではなく、ユダヤ教かキリスト教を信奉していました。やがてそうした中から、モーセ的な律法を下地にした新たな宗教としてイスラムが生まれてきたのです。そして、イスラム教世界は、ユダヤ教・キリスト教に関しては寛容でした。
イスラム勢力はウマイヤ朝の成立後、破竹の勢いでアラブ・アナトリア・北アフリカ・イベリア半島を席巻しましたが、やがてアッバース朝が主導権を握るとウマイヤ朝の後継もそれに対抗することで手一杯だったのでしょうか、地中海の対岸であるビザンチンや、その奥のスラヴ圏には拡張しませんでした。
そして、そのアッバース朝の時代、西ヨーロッパを次々と傘下に収めていったノルマン勢力は、シチリア支配に乗り出すまでになって行くのです。ただし、ノルマンの力もそこまででした。
おおむねこうした事情が、「地中海世界での各宗教の平和的共存」に繋がったのではなかろうか、と思います。
各宗教の音楽から一例ずつ聴いてみましょう。

1.キリスト教:
2.ユダヤ教:
3.イスラム教:

なお、イスラム圏の韻律は前にペルシャの音楽を紹介した時のものに近いのが本来の姿かと考えますので、これは時代は分からない曲ですが、イラクで収録されたものも聴き比べてみておいて下さい。

4. (ウード伴奏による歌)



「十字軍」運動より前、(2)の「共存時代」のいつ頃を起源にするのかは分かりませんが、西ヨーロッパには、ノルマンの征服が一段落した頃から吟遊詩人が多数生まれ、活動をはじめました。
彼らは地域によってトロバドゥール(南欧)、トルヴェール(フランス方面)、ミンネゼンガー(ドイツ方面)と呼ばれました。彼らは「騎士階級に属した」とされています。
中世前半の西ヨーロッパ世界の「身分」は複雑で、<農民>はまだ土地に固定されているとは限りませんでしたし、王と諸候(貴族)の差も歴然としたものとは言い切れませんでした。王や貴族は、其の支配下に置いた者や土地およびその収穫物に対する課税の特権を持っていたわけですが、王は「諸候」にこの特権を駆使出来るのが本来の姿であろうかと考えられるにも関わらず、諸候が必ずしも王に服するとは限らず、特権階級間でも <特権>の有りようは常に流動的でした。
トロバドゥールらの「騎士」という身分は、そうした中で、最も曖昧なものだったかも知れません。彼らは<農民よりは自由で>・<詩の能力を持って賛美されるに値する>ところから「騎士」に叙せられたのでしょうが、「十字軍」の時代までは、騎士身分は名誉の他に何の特権も持ち合わせていたわけでもないようです。
それでも彼らの存在は構成に強烈な伝説的イメージを残し、19世紀にはワーグナーの「タンホイザー」、ヴェルディの「トロバドゥール」といった劇作品を生み出すことになります。

そんな吟遊詩人の歌から、トルヴェールのものをひとつ、聴いておいて頂きましょう。


Millearium RIC215

彼らは、「十字軍」時代の到来とともに、より広く活躍することになります。
ですが、その活躍を見る前に、次回ではまたもう一度、あるいは数度、東に目を転じなければならないでしょう。
同時期、戦乱やペストに悩むことになるヨーロッパとは対照的に、唐・宗と続く中国の王朝が華美を極めますし、その文化を受け継いだ日本の音楽も、最初の隆盛を見せることになるからです。(朝鮮に着いても同じことがいえるのですが、いい材料を未だ見つけていません。)

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