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2007年6月12日 (火)

通称「月光」の自筆譜

私の所属する東京ムジークフローの定期演奏会(6月16日、杉並公会堂)について掲載しました。リンクご参照の上、是非おいで下さい。


5月24日急逝した当団名オーボエ奏者Hさんの昨年の名演を、こちらでお聴きになって下さい。

イワンさんのブログの記事に、今日この曲が採り上げられていて、興味深く拝読しました。
当時のフォルテピアノ(或いはピアノフォルテ、ですか)でのベートーヴェンは残念ながらほとんど聴いたことがないので、演奏の方についてお話し出来ることが何もある訳ではありません。

ただ、この曲の自筆譜が、なんと初版印刷譜・スケッチとともに、武蔵野音楽大学とベートーヴェン・ハウス・ボンが協力して、春秋社を通じ、とても良心的な値段で発行していました(2003年)ので、私はたまたま入手をしておりました。私の購入時で定価税別7,000円。ISBN4-393-91190-3
この楽譜の、まずはスケッチと浄書譜(といっても荒っぽい! ただし、ベートーヴェンにしては読みやすい)での筆勢、浄書譜解読に適切だと思われる初版譜を、併せてご覧頂けたら、イワンさんの記事の面白さも増すのではないかと思い、差し出たマネをしよう、と企てた次第です。
第3楽章の冒頭部でご覧頂きます。
画像は、それぞれクリックすれば拡大します。

いくつか残っているスケッチのうち、モデナのエステ図書館蔵のもの
Btop272sk_1
もう、気違いのようになって書いた様子が目に浮かぶようでしょう?
でも、まともな方です。
そんなに数を見た訳ではないので、偉そうなことはいえませんが、これが「エリーゼのために」の自筆譜となると、私には全く読めません! まして、複数の作品がランダムに入り乱れて着想されているスケッチ用ノートなんか・・・ミサ・ソレムニス関連で出たものだけ、安価なので購入したものの、見ただけでこっちが発狂してしまうかもしれない代物でした・・・あ、私はもう発狂していますけど。そんな私の症状がさらに悪化するんじゃないか、と思っちゃうくらい、大変です。。。こういうのを研究するかたは、本当に我慢強いんだろうなあ。

続いて、浄書譜。スケッチよりは丁寧、なんですかね・・・
Btop272auto
薄くて見づらいのですが、スケッチとは違い、ベートーヴェンが何か注記しているのが分かります。
何を書いたのかは、次の初版譜で分かります。

初版譜
Btop2721pr
自筆譜に注記していたのが"con sordino"(およびsenza sordino)なのだ、ということが判明しますね。
他の楽器だと単純に「弱音器を付けて」という意味ですが、ピアノ弾きの方はご存知の通り、ピアノの場合は、ウナ・コルダと同義で、この当時だと一音につき2つあった弦のうち1本だけにハンマーが当たるようにするペダル操作(ただし、この曲の作曲当時はまだ足で踏むペダルではなかったのでは? 膝を使ったんですよね? ご存知のかたお教え下さい)なので、弱音になるのももちろんですが、当時としては他の楽器よりも「音色を変化させる」ことにウェイトを置いた指示だったのではなかったかと思います。
(最近はどんな楽器でも”con sordino"は音色効果を狙う方が多くなりましたけれど。)

作曲は1801年。第3楽章が(視覚的に、だけでも)こんなに激しい音楽なのに、使用されている最高音はe3で、演奏に用いられたのがまだ当時ごく一般的に(お金持ちの間に)普及していたタイプの楽器だったことが分かります。もうひとつ、よくよく全曲を観察して驚くのは、あの神秘的な第1楽章の最高音も・・・聴いただけだと第1楽章よりずっと低いところにあるのではないか、と感じがちなのですが・・・第3楽章の最高音よりたった一音低いd#3なのです!

特にスケッチからは、音符が読めなくても、音楽が伝わってくる気がしませんか?
浄書譜にも、もちろん充分、「音楽の勢い」が現れています。
印刷されたとたん、それが消えているのもまた、不思議で興味深いとは思いませんか?
・・・思いませんか。。。

まあ、今回は野次馬根性も手伝って、活版化が当たり前になってしまった現在「自筆」が見せてくれる作者の精神、というのも少しは顧みられていいのではないかな、と、こんなものを載っけてみた次第です。

イワンさん、ごめんなさい! だって、なんだか面白くなってしまったんですもの。

付)冷やかしたい方のみ向け第2回目
与えられたレッスンは、発掘した破片から土器を復元しなさい、だったのですが、勝手にすり替えて、そば粉とつなぎの割合の研究に没頭してしまいました。
<ミューズたちの「終演」>   <--18歳未満は・・・ちと、あやういところも。イメージよくないかもな。sift-jisです。

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コメント

kenさん、関連記事をありがとうございます。
スケッチはすごいですね。
なんだかベートーベンのこの時期の作品を
聴くと、彼の「魂」というか、心情は
どのようなものだったのだろうと私は
知りたくなってしまいます。
スケッチからも彼の心情が忖度されるようですね。

作品と作曲者の人生は別といえば別ですが、
やはり両者には密接な関係もあるといった
ところでしょう。

それでは!

投稿: イワン | 2007年6月12日 (火) 22時07分

連続コメントです。
<ミューズたちの「終演」>  を読みました。
kenさん、モーツァルト化したの?(笑)
といってもスカトロジーじゃないけど、
言葉遊びというか、日頃私たちを規定している
言葉を逆に遊びものにしてしまうということは、
精神衛生上の何らかの利点があるのかもしれませんね!
私はこんな言葉遊び好きです。

投稿: イワン | 2007年6月12日 (火) 22時27分

いまさら天才にはなれませんから、どうせ頭がヘンになっているならヘンに徹しようかと(^^;
内側、外側を見る視点を変えてみよう、というテキスト(?)は世の中には結構あるんですが、今回は「あ、これなら自分も分かる」というのに巡り会ったので・・・といっておきながら、どんなものかを明かすと恥ずかしいので、ちょっとのあいだナイショです。それに、無手勝流でやってますから。。。
お恥ずかしい。

投稿: ken | 2007年6月13日 (水) 06時46分

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