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2007年6月 4日 (月)

DVD:アーノンクール指揮の秘密

私の所属する東京ムジークフローの定期演奏会(6月16日、杉並公会堂)について掲載しました。リンクご参照の上、是非おいで下さい。


私たちの大切な友、Hさんの死を通じて考えたことは、こちらに綴りました。
昨年のHさんの名演を、こちらでお聴きになって下さい。
また、追悼のために、バッハのカンタータ「神の時はいとよき時かな」をもお聴き頂ければ幸いです。

360お借りしたままなかなか見られませんでしたが、子供らのおかげで今晩はゆとりができ・・・実は、次の作業に取りかかれない状況に陥れられているのですけど (T_T) ・・・そう長くもないので、ようやく見ました。高い価値を感じるドキュメントでした。

最近接するようになった人にはそこまでのイメージはつきまとっていないのかもしれませんが、昔から彼の名前を知っている人は、その名前に「古楽」をかなり強く結びつけてしまうのではないか、と思います。
私自身、「マタイ受難曲」を彼とウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの最初の録音で聴いたのが、アーノンクールという名前との本格的な出会いでした。そして、その「マタイ」は、大変に美しいものでした。バッハがわざわざ赤インクで書いたというイエスの声部は、本当に光の輪が目の前に現れるようでした。

そうしたイメージにも関わらず、彼は別に「古楽」限定の人物ではありません。
最近になってブルックナーや「わが祖国」まで録音を出し、それに違和感を感じる向きもないことはないのですが、彼にとって、取り上げるべき音楽には、元来、時代的な限定はありませんでした。ただ、研究熱心さから「古楽」を突き詰めていた、その姿勢の方がマスメディアに取り上げられてしまい、ながいこと「古楽」でばかり商売せざるを得なくなっていただけだと思います。
彼が「古楽限定演奏家」ではない典型例を、私は彼のモーツァルト演奏に強く感じます。
近年ようやく録音した初期交響曲集にしたって、なんて挑発的な演奏なんでしょう! そこには「柔和な」「(妙な表現ですが)秀才的な天才の」少年モーツァルトは全く現れません。私はどうしても違和感しか覚えません。晩年の交響曲の演奏にしても同様です。まるでモーツァルトが「ロマン派の駄作器楽作曲家」だったように聞こえて仕方ありません。
ところが、オペラとなると、違うのです。彼のモーツァルトのオペラ演奏は、映像付きでなくても、実に生き生きと舞台の情景を目に浮かばせてくれます。ですので、彼の録音したモーツァルトのオペラの方は、ほかの誰の録音よりも大好きです。
独りの作曲家の作品に対し、こんな両極端な印象を与える演奏家を、私はほかに知りません。
不思議な人だなあ、と思っていました。

お借りしたこのDVD「アーノンクール指揮の秘密」に、そのあたりの謎を解くヒントになるような、彼自身の言葉が出てきます。
そのとおりではありませんが

「金は、純金のままで美しいのではないのです。金と泥が混じって、初めて美しい。」

練習風景を収録したこの「こうもり」の全曲が録音されているのかどうか知りませんが、非常に興味深いのは、彼が随所でコメントする、シュトラウスから第1次大戦に至る、シュトラウス作品解釈の歴史的背景。
「この人は本当に歴史をよく学び、よく体現しようと努力している」
ことが強く伝わってくると同時に、語っている時の穏やかな表情に・・・ほかの画像では(プライベートな写真を除いて)決して見られない、本当はバランスのいい人格者であるアーノンクールという人物を発見出来る、嬉しい映像です。

「ここ50年の間に、このオペラに付けられた垢をすっかり洗い落としましょう!」

序曲のリハーサル映像はカルロス・クライバーのものも残されていて、これはよくも悪くもアーノンクールの言う「垢」のついたままの演奏ではありますから、クライバーのリハーサルとアーノンクールのリハーサルを見比べるのも非常に有意義ではないかと思います(残念ながら新品では今は入手出来ないようです。全曲盤はDVD、CDともあります)。
見比べると、二人とも優れた音楽家なのだなあ、と思わせてくれる共通点も、多々見いだせます。
二人とも、ディナミークをデリケートに重視し、リズムのウェイトがずれることにはきつく注意を促す。それでいて、楽員さんに対しては、実に優しい。・・・優しさでは、アーノンク−ルのほうが上手ではありますが、それは彼自身がオケマンだったことと深い関係があることも、今回のDVDから理解することが出来ます。

表題の「秘密」という言葉に惑わされず、映像の中で、練習しながら、あるいはインタヴューに答えながら語るアーノンクールの、素直な音楽観に素直に浸ってみる時間を、ぜひ作ってみてはいかがでしょうか?
1時間半あればいいんですけど。。。



DVD

アーノンクール指揮の秘密~<こうもり>を振る~


販売元:キングレコード

発売日:2006/08/23

Amazon.co.jpで詳細を確認する

(23:45Up!)

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コメント

70年録音のマタイ 是非聴いてみたいですね。子羊のジャケットでお馴染みの3回目の録音CDも大変美しくGOODだと思っていますが。昔、合唱をやってたもんで、思うんですがアーノは、歌が入ると冴えるんでしょうか。どうなんでしょう。モーツァルトのシンフォニーに関してはご指摘の通りと思ってます。鳴らしすぎところがちょっと私には・・・。「どんだけぇ~」と言いたくなったりします。とにかくモーツァルトのもつ悲しみは絶対に溢れ出してはいけない、「こぼれる・しみこむ」古典風にいうと「落つる」はずだと決めているからです。でも協奏曲は意外に良かったりで。たぶん好き嫌いがはっきり分かれるか、聴き手がどういう気分で聴くかによる指揮者かもしれませんね。

投稿: ランスロット | 2007年6月 5日 (火) 23時52分

>70年録音のマタイ
残念ながら、CD化されたのかどうか私は知りませんし、もしかして、と思って中古も探したのですが、発見出来ませんでした。
見つけたら是非入手したいと思っています。
3回目のものも大好きですが、70年盤は初々しさがありますし。

オペラは、アーノンクールは私はモーツァルトでもお薦め出来ると思っています。
レクイエムは、好き嫌いが分かれるのではないかなあ。
なので、声楽があれば「ピッタシくるぜ!」とは、必ずしも言えないかも。解釈としては非常に興味深いし、曲が曲だけに不適切な表現ですが、面白い、と思います。(出回っている2回の録音とも。)

ベームが彼のモーツァルトを嫌い抜いたのはおそらくご存知の通りですから、ベームじゃじゃなきゃ駄目、という人には、協奏曲も含め、器楽関係はアーノンクールに手を出すのはやめた方がいいんでしょうね。
ランスロットさんのお言葉から考え直してみたら、アーノンクールの狙っているのは、まさに
>モーツァルトのもつ悲しみは絶対に溢れ出してはいけない
の正反対なんですね。オペラが俄然面白いのも、そのあたりが原因しているんじゃないかなあ。協奏曲も、独奏者の独壇場を許す(でも結構注文付けてるはずだな!)し、そういうとき伴奏はどう押さえたらいいか、についてはずいぶん考慮しているのです。
とにかく、この人、冒険家の面ばかり脚光を浴びちゃったけれど、凄い勉強家ですよ。頭が下がります。

投稿: ken | 2007年6月 6日 (水) 00時47分

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