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2007年6月27日 (水)

"amateur":アマチュアという言葉

東京ムジークフロー第44回定期演奏会の、演奏の音はこちらで聴けます。併せて(私個人の偏った視点ではありますが)反省もお読み頂けますよう、お願い申し上げます。


チャイコフスキーコンクールヴァイオリン製作部門で優勝・第2位・第4位を獲得した菊田さん、高橋さん、天野さんについて紹介させて頂いた記事はこちら。菊田様・高橋様にコメントもお寄せ頂けました。「手仕事」の貴重な精神をお汲み取り頂ければ幸いです。情報を頂いたJIROさんに心から感謝申し上げます。

ホントはモーツァルトの1774年の協奏曲関係を綴るつもりだったのですが、間に合いませんでした。
代わりに、ではありますが。。。メーリングリスト時代に綴ったものを少し省略、手直しして載せます。


"amateur"、日本語では果たして何を意味することばでしょう? お分かりになります? 
そのまんま「アマチュア」でいいんじゃないか、と言われれば、まあ、そうなんです。
でもね、嬉しかったのは、いろんな辞書を引いてみると、この語彙は本当は
「愛好家」
を示すのだ、っていうのが分かって、私は、その時とてつもなく心地よかったのです。
「変な奴!」
とお思いですか?
よろしゅうございます。
英語の、語源の説明までついた辞典によれば、この単語"amateur"はラテン語で愛好を示す"am-"という語根に由来します。この語根によるラテン語の動詞の三人称単数が、"amato"([彼・彼女は]愛する)です。
ところが、それを語源にする"amateur"は、英語でもドイツ語でも、「素人」という意味を持っています。日本語の「アマチュア」に「素人」の意味が付加されたのは、この語彙がゲルマン系経由で輸入されたことを伺わせます。・・・フランス語になると、ところが、意味が違ってきます。

和仏辞典のほうだと、「素人」にあたるフランス語に"amateur"が出てくるのですけれど、本来は使い方によるのでしょう。"amateurisme"なる語彙があって、こちらは日本で言うと京都弁風の皮肉のようです。「素人芸どすなあ」って言う感じ。
"amateur"に戻ると、幾つかの仏和辞典を覗いてみましたが、こちらに「素人」の日本語が充てられている例は皆無でした。それどころか、「目利き」などという、もっと優れたイメージの訳語が割り当てられていたりするのです。
ちなみに、より直接にラテン語の子孫であるイタリア語ではどうか、を調べてみますと、"amatore"というのが"amateur"に合致する語で、やはり「愛好家、目利き」という日本語が充てられています。(その他に「女たらし」なんていう意味まで持っています!)イタリア語で「素人」に当たるのは、"dilettante"です。

くどくどと"amateur"の意味ばかり綴ってしまいましたけれど、果たして私は何が言いたいのか!?

そう、「アマチュア」って、本来は「素人」じゃないんです!
ラテン語直系のイタリア語、やはり古代ローマの影響が強かったフランス(ガリア地方ですね。カエサルの「ガリア戦記」も、読みにくいですけれど面白い本ですヨ)の語が、そもそも「素人」の語義を含んでいないのが、何よりの証拠です。

物事を愛する人、それが「アマチュア」の本義なのでしょう。
すると、その中にはもちろん素人も含まれることになりますけれど、日本にも「玄人はだし」という言葉があります。広辞苑では「素人が技芸に優れていること」と解いていますが、元来は「玄人(すなわち日本では今、プロと呼ばれる人種)がはだしで逃げる」を短縮した語彙ですから、「素人が〜」という言い方がどの程度適切なのか難しいところです。・・・「素人」に変わる日本語がないのも困ったことです。

「玄人はだし」の演奏家と、私も出会った思い出がいくつかあります。普段、大学のオーケストラに手伝いに来て下さるヴァイオリン弾きの女性で、ジョーク好きの面白い人でしたが、大学のメンバー数人で彼女の地元のオーケストラへ手伝いに行ったとき、驚いたことに、彼女がメンデルスゾーンのコンチェルトのソリストなのでした。
「まあ、知ってる人だから、こっちも気楽に伴奏出来るナ」
なんて、最初は気軽に考えていたのです。フタを開けたらさらに仰天でした。それまで目の当たりにしたソリスト・・・名前の売れていた人も含めて・・・の誰に比べても、彼女の演奏は完璧でした。技術もそうでしたし、何よりも、あの人の一見柳のように細い体からは想像出来なかったふくよかなカンタービレには、伴奏を忘れそうな瞬間があったほどでした。

モーツァルトのピアノソナタの大半も、いわゆる「アマチュアのために」作られたものです。古典派の時代、シンフォニーといえば職業音楽家達によって公の場で演奏される編成の大きめな曲種の代表格だったということですが、ソナタはそれとは対照的に、サロンで活躍したり家庭で音楽を楽しむ「玄人はだし」のアマチュアの為の曲種だった、と、音楽史関係の本には書かれています。
それを裏付けるかのように・・・モーツァルトについては残念ながらほんの一部しか判明しないので・・・ベートーヴェンを例にとりますと、彼が交響曲を献呈した相手はことごとく彼のパトロン(しかも自らは演奏しなかった人も含まれます)のに対し、習作を除く32曲のピアノソナタのうちほぼ半数に当たる15曲が、いわゆる「アマチュア演奏者」に捧げられています(パトロンでもありましたがピアノの弟子でもあったルドルフ大公も、そうした献呈を受けた一人です)。

ともかく。

私自身も、私のいま属しているオーケストラも、アマチュアです。
しかし、「素人集団」としての「アマチュア」という発想はやめて、「アマチュア」の本義である「愛好者」の集団、音楽を心から堪能する人たちの集まりとして、この先もみんなで一緒に歩んでいければいいなあ、と、本当は分かりもしないフランス語の辞書を手にしながら、ほんわり想いに耽ってしまった次第です。
私のいるオーケストラの団員は、楽器を始めたばかりの人から専門の勉強をしてその道で飯を食っている人まで揃っていますし(ただし、ゲスト出演か。。。)、「玄人はだし」の該当者もいます。年齢も20代から70代までと幅広いのも、大きな特徴です。
そんな集まりだからこそ、素人なんていう限定語など必要がない、<ムジークフロー>という団の名称通り「音楽の喜び」を愛する心が共有出来るのが最高なんじゃないか! と思っている次第です。・・・そうなりたいなあ。。。

なんだかまた、いつも通り、よくわからん文を綴ってしまいました。

このくらいで。

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コメント

「愛好家、目利き」、いいですね。
今回も勉強になりました。
いい記事をいつもありがとうございます。

ところで別記事の話題ですが、私も
チャップリン好きです。
音楽も確かライムライトなどは、
少々甘口すぎるきらいもあったかと
思いますが、私はメロディー好きでした。

それでは!

投稿: イワン | 2007年6月27日 (水) 21時17分

イワンさん、
あれあれ、まだ残業ですか?

じゃあ、ケーキを用意して・・・さしあげたいところだけれど!

それにしても、言葉って、奥が深いんですね。
言葉と格闘なさっている日々を過ごすことの出来る人に幸いあれ!

で、今夜、ガキが見ているのは「コント55号」です。
どのチャップリン映画を見てるのか、楽しみに帰ってきたのに!

投稿: ken | 2007年6月27日 (水) 21時28分

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