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2007年5月19日 (土)

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番K.207

私の所属する東京ムジークフローの定期演奏会(6月16日、杉並公会堂)について掲載しました。
ご招待の企画も(個人的に)しております。リンクご参照の上、是非おいで下さい。


1773年の山場となる、ピアノ協奏曲第5番に接するに先立って、現存するモーツァルト初の協奏曲作品であるヴァイオリン協奏曲第1番について簡単に触れておきます。

アラン・タイソンの研究によってこの年の春の作品であると判明した(ロビンズ・ランドン「モーツァルト」中公新書p.40)ヴァイオリン協奏曲第1番ですが、アルフレート・アインシュタインが「モーツァルト その人間と作品」(訳書は白水社)を著した頃には、残りの4つのヴァイオリン協奏曲とともに1775年作と考えられていました。NMA掲載の第1ページ目のファクシミリ写真を私のような素人が眺めても・・・一連のヴァイオリン協奏曲は何らかの事情で作曲年代が一度1780年と書き換えられているのですが・・・第1番に元来記入されていた作曲年は1775年に見えてしまいます。ですが、第1番は第2番以降に比較すると間違いなく古風で、バロックの伝統の延長線上に位置する書法がとられていますから、年代の如何に関わらず、いかにも彼の「最初の協奏曲」らしい特質を備えているとは言えるでしょう。
アインシュタインが、この作品について、タルティーニ、ジェミニアーニ、ロカテルリ、ナルディーニ、プニャーニ、フェルラーリ、ボッケリーニといった、バロックから前古典に至る弦楽器奏者かつ作曲者のお歴々を並べ立て、モーツァルトの第1番はこれらの伝統・限界を守っている、と指摘しているのは、正しいことです。
すべての楽章はソナタ形式ですが、「<ブッフォ的>でない」と、アインシュタインは言っていますし、確かに、特に第1、2楽章はバロックの協奏曲に類似した雰囲気、むしろリトルネロを感じさせる構造を持っています。
それと並行して、アインシュタインはほかの4作品をあわせ、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲は技巧的なところが無くて彼のディヴェルティメント作品にも劣る、と過小評価しているのですが、これは如何なものかと思います。すくなくとも、第1番の独奏部でさえ、ヴァイオリンソロを伴う楽章を持った近作の「アントレッター・セレナーデ」K.185よりも複雑に出来ていますし、それでもなお技巧的でないとするなら、その理由は、モーツァルトはタルティーニやボッケリーニを指向したのではない、かつそのことは、おそらく父の示唆による、という可能性を検討しておく必要があるかと思います。
なお、少なくともタルティーニとジェミニアーニについては音声資料を所有しているので、比較が出来ればこの点をもう少し突っ込めるのですけれど、遺憾ながら家内の死去に伴い、今まだ、我が家はそれらを取り出せる環境にありません。いずれ考え直したいと思います。
まだバロック的な最初の2つの楽章に対し、第3楽章のみは前古典派的な明快さを持っているのは、協奏曲の分野では、おそらくボッケリーニあたりの影響によるのではないかと思います。
変ロ長調、という調性も変わっているのですけれど、この調はアントレッター・セレナーデで採用されているのと同じである点にも注意をしておきましょう。これは当作品が南ドイツ・オーストリア風(ザルツブルク風)を打ち出しているからだ、との説明が海老沢敏「「超越の響き」p.190ではなされています。
初演の独奏者は、ザルツブルク宮廷管弦楽団のコンサートマスターとなっていたモーツァルト自身であったろう、と推定されています(西川尚生「モーツァルト」p.243)。これはほかの4つの協奏曲も同じです。従来、一連のヴァイオリン協奏曲の初演者ではないか、と考えられていたブルネッティは、ザルツブルクに採用されたのは1776年3月であることが分かっています(西川 前掲書)。

ロビンズ・ランドンの述懐。
「(モーツァルトのヴァイオリン協奏曲)は、モーツァルトの初期の作品の中では最も知られたものであり、これらが甦ってからまだ百年も経っていないのだが、それ以来ずっとヴァイオリニストたちのアイドルとなってきたものである。・・・これらの五曲が、いずれもモーツァルトの生前に出版されたことがないというのは、驚くような事実ではなかろうか。それらは全くの”機会音楽”として書かれ、主としてザルツブルクという地域の中で使われただけで、・・・流通の極端な悪さにより、十八世紀のヨーロッパでは、偉大な音楽でも、ある地域の境界線を越えなかったのである。」
・・・きわめて共感をもよおさせる言い分で、これをもってきれいに締めたいところなのですが、楽譜と流通の問題については様々な研究がなお進行中であり、ことはロビンズ・ランドンの考えたほど単純に決めつけてしまってはいけないようです。
などと言いつつ、私はそのことを深追いする材料は持ち合わせませんので、一応、このことに付きご留意いただきたいとだけ申し上げるにとどめましょう。

第1楽章:Allegro moderato 4/4 181小節
第2楽章:Adagio(変ホ長調) 3/4 116小節
第3楽章:Presto 2/4 372小節

管楽器はオーボエ2本、ホルン2本。弦五部。

NMAは第14分冊に収録。
音源多数。お好きなものを。



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