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2007年5月30日 (水)

モーツァルト;最初の自作ピアノ協奏曲K.175

私の所属する東京ムジークフローの定期演奏会(6月16日、杉並公会堂)について掲載しました。リンクご参照の上、是非おいで下さい。


私たちの大切な友、Hさんの死を通じて考えたことは、こちらに綴りました。
昨年のHさんの名演を、こちらでお聴きになって頂ければ幸いです。
ここまで読んできたモーツァルト作品の個々へのリンクを作成し直しました。ご利用下さい。
1773年の作品を眺める作業も、この作品で最後です。 モーツァルトにとって初の頂点とも言えるこの年の多彩な創作に触れるのは、耳にも目にも喜ばしいものでした。と同時に、彼の精神に触れられるかどうかの試練でもありました。 以上は全曲初自作の、この協奏曲にも当てはまります。年も押し詰まった12月に作られており、内容は今までのモーツァルトの集大成と見なしてもよいほど充実しています。アルフレート・アインシュタインも、モーツァルトはこの協奏曲で一気にエマヌエルとクリスチャンのバッハ兄弟(彼らの協奏曲はだいたい15分かからずに演奏出来ますが、モーツァルトのこの作品は20分かかります)を乗り越えた、と、手放しで賞賛しています。 とはいえ、モーツァルトの達したここまでの頂点を、単純に先輩たちを超えたものと見なしてよいかどうかには、用心が必要です。うかつにも、ハイドンやサリエリはどうだったのか、を、私は念頭においておらず、比較材料として準備していませんで、手配も間に合いませんでした。この件は、いつか再検討しなければならないと思っております。最も悔いが残っております。

もうひとつ、この協奏曲はどんな楽器で演奏されたのか、も、大切かなと思いました。
K.175に限らず、モーツァルトのピアノ協奏曲は最後の第27番に至るまで、ソロパートがFからf'''の音域に収まっているのを、スコアで全曲ざっと確認しました(間違っているようでしたらぜひ教えて下さいね)ので、当時普通だった5オクターヴ音域の楽器だったと考えて差し支えないようです。ピアノの改良に大きく寄与したベートーヴェンの伝記だと、ピアノの発達の様子が表で載っているのですが、ハイドンやモーツァルトの伝記にはないですから、確実にそうだと言える自信はありませんが、ベートーヴェンが使っていた1773年製のシュタインがこの音域です。ただし、モーツァルトはシュタインとも後年面識を得、彼の楽器の良さに初めて触れた父宛の書簡の日付が1777年10月ですから、K.175初演で用いられたのはシュタイン製ではないことが、「おまけ」で分かります。
もうひとつ、モーツァルトによるK.175の呼び名は<クラヴィチェンバロのための協奏曲>だそうです。じゃあ、クラヴィチェンバロとはなんぞや、という話になりますが、これは先日イワンさんが紹介下さった「ピアノはいつピアノになったか」の内容から伺うに、当時のピアノそのものと受け取ってよいようです。音量は小さいが強弱を付けられるクラヴィコードと、メリハリのあるチェンバロの合体を目指して出来上がったのがピアノなのですから。
ただし、当初のピアノはむしろ弱音のデリケートさを大事にしたとのことなのですけれど、K.175はお聴きになってみると分かる通り、かなり壮麗な音楽で、独奏楽器は相当の音量を要求されるはずです。ですから、もうすでに、近代ピアノを指向し始めた、音量重視の楽器が用いられたのでしょう。
面白いのは、ピアノの、ソロではない部分はNMAの印刷譜では数字付低音になっていることです。これは1784年のK451まで続き(K.450のみが例外)、以後、数字は消えます。以上から、少なくともモーツァルトはザルツブルク時代まではバロックの通奏低音の伝統に従って作曲していたことが判明します。1785年以後数字が消えた理由は、(オペラのレシタティーボがそうであり続けたように)即興で弾けば事足りたからなのか、ピアノの音量が大きいので和音を補強すると邪魔になるようになったせいなのか・・・そのへんのことは私には分かりません。

K.175の最大の聞き所は、終楽章(第3楽章)のピアノの提示がカノンになっていることで、これは聞いてお気づきになったらビックリなさると思います。さりげなく対位法を用いているところが、ちょっと前までのモーツァルト観からすれば意外性がありますけれど、この箇所のことについては既にアインシュタインも明記しているのをあとで知って、なあんだ、とがっかりしました。

以下、編成と各楽章の概要です。

編成:オーボエ2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦五部、ピアノ独奏
管楽器はより単純なのが最初の稿で初演時のもののようです。スコアにはオーボエ、ホルンの第2稿が併記されていますが、この作品はのちにマンハイムやウィーンで再演されており、ウィ−ン再演時のものではないか、というのがバドゥラ=スコダの推定だそうです。

第1楽章:ニ長調 Allegro 4/4 238小節
第2楽章:ト長調 Andante ma un poco adagio 3/4 119小節
第3楽章:ニ長調 Allegro 2/2 281小節

第3楽章の差替え用ロンド(ウィーンでの再演のときのもの)
フルート1本を追加。236小節。
基本はAllegretto grazioso 2/4 ですが、121小節〜136小節はAdagio、137〜217小節は3/8のAllegroとなっています。

録音は、古めですが、ヘブラーアンネローゼ=シュミットの全集が良質だと思います(いま持ってませんけど)。
廉価で驚きのBriliantレーベルの全集はデレク・ハンという人がフィルハーモニア管弦楽団をバックに演奏していますが、これもまたいい演奏です(91112)
スコアはNMAではピアノ協奏曲は8巻2分冊(第15、16分冊)となっています。ベーレンライター新版が三分冊で、こちらは容易に入手可能ですが、交響曲とは違い、英語の解説はありません(ドイツ語のみ)。

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