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2007年5月 7日 (月)

モーツァルト:1773年以前の宗教曲についての補遺

私の所属する東京ムジークフローの定期演奏会について掲載しました。
ご招待の企画も(個人的に)しております。リンクご参照の上、是非おいで下さい。



1773年の観察を、もうこのあとすぐに協奏曲2作でしめくくろう、というのは、痴呆症もいいところでした。
小さな作品いくつかがまだ残っていましたね。
うち、宗教的作品のほうに触れますが、これは調べていくと(って、素人にたいした調査はできませんが)、宗教作品でありながら非常な問題児なのでありました。

1773年作とされ、コンラートの作品でもこの点修正されていない
・レシタティーヴォとアリア「さればたいせつなことは/高きを求め」K.143
について、Carus版スコアでの解説者レルケは2003年に「1770年の作ではないか」と推定しています。すなわち、第1回イタリア旅行の際、父レオポルトはヴォルフガングがカストラート向けに2つのモテットを作った、と書案で報告しています。現在では2作とも失われてしまった、というのが定説ですが、レルケは「2作のうちの1作が、このレシタティーヴォとアリアなのではないか、というわけです。
しかも、この考え方は、すでに1963年にNMAの方でも「その可能性あり」と述べられていて、突飛な説ではありません。
問題は2つ。
まずは、ではなぜ、この作品は1773年作とみなされてきたか。
こちらについては、モーツァルト自作の宗教曲を1772年から1774年にかけて自ら書き写した楽譜集が、この作品の唯一の原典であることに由来するのだ、とされています。「じゃあ、なんで72年から74年という幅の中でではなく、73年と限定されているのか?」~素人向けに明示されている論拠は、私は見つけておりません。
2つ目の問題。レシタティーヴォとアリアがワンセットで、はたしてモテットと呼んでいいのかどうか。
海老沢敏「超越の響き」中に引かれた、クヴァンツによる当時のモテットの定義は「2つのレシタティーヴォと2つのアリアを持ち、2つ目のアリアはアレルヤで終わる」というのには、K.143は条件が合致しません。一方、だいぶ年代はあとになりますが、モーツァルト自身が残した単一楽章の美しい「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は、モテット、なのであります。こうしたあいまいさに答えてくれる<楽式の歴史>がどこかにまとめられていない限り、こちらの問題については根本的な決着はつけっれないでしょう。が、学者さんがもっとも軽くあつかているのも、この<楽式>問題なのではなかろうか、と、ちとねじくれた目で見ているところです。

で、オマケとして後2つの、しかし、双生児関係にある"Tantum ergo"k。142とK.197についても触れておきましょう。
NMAでは参考としてスコアが掲載されているこれら2作は、'Genitori'の詞で曲を冒頭から折り返し、コーダに'Amen'を置く点でも、トランペット2本にオルガン・弦五部というオーケストレーション(ただしK.197はティンパニも含む)の面でも、非常によく似ています。
じっさい、楽譜は1771年以降モーツァルトの作品を数多く筆写したコピイストによるものが2作まとめたかたちで残されており、このことも併せて、K.142、K197ともモーツァルト作ではないか、とされてきたそうです。
ただ(録音は見つけていないので、楽譜を読んでの印象ですけれど)、前半部が折り返し運転されている作りとか、K.142のアーメンのコーダが突然、それまでの3拍子から4拍子に変わってしまうとか・・・「こんなこと、モーツァルトがするんだろうか」と、主観からではありますが、私にはとても疑問に思われます。オーケストレーション面でも、あるいは言葉を旋律にのせるのせ方も、どうもモーツァルトらしくない気がします。
アインシュタインはケッヘル第6版で、これらを疑作に含めています。彼のエッセイ中にも、これらの作品についての言及はありません。カルル・ド・ニ「モーツァルトの宗教音楽」の作品表ではいずれも1772年作とされてはいるものの、ド・ニにしても本文中ではまったく触れていません。
1965年にバイエルン国立図書館から、K.142の「20小節短い版(アーメンのコーダが含まれない、などの理由から)」が見つかったそうで、こちらはミュンヘンの宮廷に仕えたツァッハ(1699~1773)という人の作品だとみなされています。このことから、コンラートの作品表にはK.142は「ツァッハ作?」と記されています。K.197にいたっては、ツァッハ作であると断定されていますが、断定の根拠までの情報は、私は持っておりません。西川尚生「モーツァルト」の作品表は、コンラートに準拠しています。

こんなところで。


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