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2007年4月 6日 (金)

ものさし

北辺の町にも、今どれだけそんな技量の人がいるか覚束ないが、僕が子供の頃は、家は一軒まるまる大工さんが一人で作った。屋根をかけるような特別なときだけは、三人程度の手伝いが入る。でも、あとは壁を塗る以外は畳を入れるのも床をはるのも大工さん一人だった。
もちろん、畳を仕立てて来るのは畳屋さんで、床材を整えて来るのは材木屋さんなのだが、僕の知ってる大工さんは、あとはやっぱり自分一人でやるのだった。その大工さんが、いつも袋を一つ、腰にぶらさげている。

子供心に、僕はサンタの袋より大工さんの腰の袋に興味津々だった。
中にはL字型の金物や黒い壷からピュッと糸の出るものや、これは自分ちでも見た目盛り付きの平たい竹なんかが詰まっている。でもそれで何をするのか、と見ていると、それぞれが長さを測ったり直角を確かめたり水平を出すための、ものさしなのだった。

大工さんだから、一人でこんなにいくつものものさしを一人で使いこなせたのだろうか?

生きている日々、いくら自惚れてみても、自分の中には自分の一つきりのものさししか無いのか?
家内が傍にいてくれたあいだ、自分はそんなことを悲しみもしなかったし、考える必要もなかった。
それは幸せなことだったのか?
自分のものさしがどんなものか、直視出来る自分であるには、お医者の予告通り、あまりにもキツいウツが、桜の葉っぱと期を一にして襲って来ている。
勝とう、などと思う程、牙を鋭くしてくる相手だ。
今はこいつのなすままにして置こう。

娘は先に早めに家を出て、葉っぱだけになりはじめた桜の木の下に座っていた。いつもありがとう、と肩を叩いたら、黙ってうなずいてくれた。
息子は息子で、二日続けて気ウツにくずおれて帰宅した僕を助け起こしてくれた。
ありがとう。(9:44)

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