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2007年4月 3日 (火)

グリーク:ピアノ協奏曲の構造〜全音スコアによる

諸井三郎さん、という名前をご存知でしょうか?
諸井誠さんのご父君です。
日本人作曲家の常で、現在なかなか作品が演奏される機会は無いのですが、かろうじてナクソスから、交響曲のCDが発行されています。
ドイツロマン派の衣鉢を受け継いだ、堂々たる作品です。

この諸井さん、私が子供の頃に出ていた旺文社文庫「ベートーヴェン」の著者でした。
文庫とはいえなかなかの名著で、赤い傍線だらけにして熱中して読んだ本でした。
「ベートーヴェン」は、のちに角川文庫で復刊されていた時期もあります。
ベートーヴェン好きになった他に、私は諸井さんの別のご著書にも恩恵を受けました。
「音楽の理論」という、たしか音楽之友社から出ていた小冊子でしたが、和声のことから楽式や対位法、フーガのつくりまで、要領よく、しかも丁寧に解説されていました。
正規の音楽専門教育を受ける機会に恵まれなかった私には、またとない教科書でした。

全音版の「グリーク:ピアノ協奏曲」スコアの解説は、この諸井三郎さんの筆になるものです。
いまでもそのままなのが嬉しい限りです。
名前の知れたかたでも楽曲分析には往々にして「流動的」であるべき部分を「こうだ」と決め付けてしまった解説が多いのですけれど、諸井さんにはそういうところがありません。
そういう意味では少々遺憾ですが、グリークの協奏曲は形式面に複雑なところはありません。
したがって、諸井さんの本領を百パーセント発揮した解説になっていないのではないか、・・・などと思って読みますと、そんな心配は無用であることが分かります。
むしろ、諸井さんの音楽に対する目がいかに客観的であったかを理解しえる名分析となっています。

ですので、私のような者が全音版スコアの解説に付け加えて分析を試みる要素も余地も、グリークの協奏曲に関しては全くありません。
ストーリー性を求めなければ理解出来ない性質の作品でもありません。
純粋に音の推移を楽しめばこと足りる音楽ですし、ショッスタコーヴィチのような「思想」を芯にしている気配は、私には感じられません。(鈍感なのかもしれない。)

以下に、諸井さんの示された、作品の骨組みだけを引用しておきます。
これを踏まえた上で、末尾に若干の補足のみ述べることにします。
数字は小節、()内はその部分の小節数です。
実際に該当箇所に付箋を貼るなどして目印にすると、
「なるほど」
と納得出来るものが見つかると思いますので、是非お試し下さい。

第1楽章(ソナタ形式)
=冒頭の動機は「主題」ではないのですが、騙されますね。
第一部(呈示部) 1-88(88)
第二部(展開部) 89-116(28)
第三部(再現部) 117-170(54)
第四部(終止部) 171-222(52)
*展開部の短さ、再現部での序奏セクション非呈示が特徴的

第2楽章(複合三部形式)
=ショパン的。グリークはシューマンとショパンが好きでしたが。
第一部 1-28(28)
第二部 29-54(26)
第三部 55-84(30)
*実質上、中間に自由な部分を置いた幻想曲的な作り

第3楽章(ロンドソナタ形式)=これ、ノルウェー舞曲ですね。
第一部 1-139(139)
第二部 140-229(90)
第三部 230-352(123)
第四部 353-440(88)

※全曲を通じ、後期ロマン派としては複雑な転調を一切持たない単純な例を見せる作品なのですが、気をつけなければならない動きの特徴が2つあります。

1)調が半音分だけ上昇し、また復帰する
 例:第1楽章89小節からなどを観察して下さい。
   ラーシードシラー・ラーシシドラー、という旋律を、まずホ短調で、
   95小節からはヘ短調で、101小節からは嬰へ短調で、と転調します。
   これを並行調のイ長調に持って行き、ロ長調、嬰ハ長調、ニ長調を経、
   ロ短調の下降導音を半御下げする事でホ短調に持って行く(練習記号E)。
   転調の手法としては単純ですが、心に差す光が徐々に明るさを増す効果があります。

2)擬似的に下属調の平行短調を用いる場合がある
  典型は終楽章第二部のソーードーーシソシラファラソーーーという有名なメロディ。
  この直後に接続する部分は、最後のソをレ煮に読み替えする必要があります。
  すると、ト短調のレーミファソラファファミシド・・・と続くのが分かります。
  これはイングランド民謡などにもよく見られる動きだと思いますが、
  ノルウェー人のグリークが、まさにノルウェー舞曲である終楽章で
  この手法を使っているのを目の当たりにしますと、
  「ノルマン人の血」がイギリスにも流れているんだなあ、などと、
  曲に全く関係のない事で感心してしまったりしています。

追伸)
協奏曲として合わせる上での留意点をスコアで拾い出してみると、類似部分を省略しても、
・第1楽章〜13箇所
・第2楽章〜9箇所
・第3楽章〜19箇所
に達しました。およそ基本ルールで合う部分しか無いのですが、「基本ルール」とは何かを再認識しておかないと、間の抜けたズレでお聴き頂く方の失笑を買いかねません。そのことはよく考えておかなければならないと思います。
ソロ併せ練習前までに、譜例か音声を交えてまとめたいと考えております。

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