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2007年3月12日 (月)

管楽器のためのディヴェルティメント(1773)

1773年に書かれた「ディヴェルティメント」は3作品、それも管楽器(K.188はティンパニを含む)ものです。
この年、他に大きめなセレナーデ(アントレッター・セレナーデ)と幾つかのメヌエットを書いていますので、それらと一緒くたに「1773年の機会音楽」として扱ってしまっても良さそうなものですが、スコアおよびアルフレート・アインシュタインの記述を参照すると、そう言うわけにはいかないなあ、と思いましたので、独立で考察(なんて、大げさか!)します。

取り上げるのはK.186、K.166、K.188の3つのディヴェルティメントですが、アインシュタインの述べるところに従ってみても、またそれ抜きで楽器編成のみに着目しても、初めの2作とK.188は別の目的で書かれた事は明確です。

裏付け資料が手元に無いので、アインシュタインの言うところに全面的に従うと、まず、管楽器のためのこの種の作品は、野外音楽として書かれたという事になります。根拠は2点。
・入場・退場の行進曲を持たない
・当時は従僕からホルン奏者やファゴット奏者になる事の方が、ヴァイオリニストやチェリストになるより容易だった〜すなわち、管楽器奏者は「いつでもヴァイオリニストより原始的な音楽家である」
・・・管楽器演奏者の方、お怒りにならないで下さいね。これは当時の情勢を鑑みてアインシュタインが言った事です。まあ、残念ながら、今私にはそのまま受け入れるしかありません。
「われわれは、これら管楽器のためのディヴェルティメントを一つ一つ扱う必要は無い。それらは純粋に庭園音楽であり・・・気難しい案出も緊張も無い、形式の遊びである。」(アインシュタイン281頁、白水社)
ただし、続けてアインシュタインはこうも言っています。
「十八世紀の作曲家としてのモーツァルトを特徴づける作品があるとすれば、フランス革命の<失楽園>以前に書かれた、あらゆる意味で<無邪気な>これらの作品である。それは松明やランプの静かな灯に照らされた夏の夜の音楽である。近くで聴いても遠くで聴いてもよい。そして遠くから聴こえてくるのが最も美しい。」(同)

この記述の後、アインシュタインは『ドン=ジョヴァンニ』や『コシ・ファン・トゥッテ』劇中の、たとえば前者の中でテーブルミュージックとして演奏される「フィガロのアリア」の木管合奏を想起していますが、これはNMAの解説を参照すると、実に妥当な連想である事が分かります。
すなわち、K.166の第4楽章(アダージョ)は、K.166が作曲される直前のモーツァルト自身のオペラ「ルチオ・シッラ」のバレエ音楽の第30番を、またK.186の第5楽章(アレグロ)は同じオペラの同じバレエ音楽の第31番をアレンジしたものだ、とのことなのです。・・・もととなったはずのバレエ音楽の楽譜は、残念ながらオンライン化されたNMAにも楽譜が掲載されておらず、参照出来なかったために、私は確認がとれていません。もし音源ででも確認がとれれば、のちほどその旨を掲載したいと存じます。また、K.166第3楽章にはパイジェッロのオペラ「アネットとルヴィン」が引用されているとの指摘もあります。こちらも、パイジェッロの楽譜・音源は手軽に入手出来るものが限られており、確認をとっておりません。ただ、ナクソス盤でパイジェッロのピアノ協奏曲2曲(うち1曲はト短調)を収録したCDが出ており、彼が当時の流行作家であった事を裏付ける立派な作品だと知るにはいい材料ですので、機会があったらお耳になさってみて下さい。傾向としてはクリスチャン・バッハが似ています。

モーツァルトに話を戻します。
K.186は1773年3月の作であるらしく、K.166についても自筆譜に1773の年号が記されてます。『ルチオ・シルラ』との関連性を考慮するまでもなく、当時ザルツブルクの楽団では所収されていなかった事が明らかなクラリネットを用いている事からも、ミラノでの「最後の」作品群に含まれる事が明らかです。
編成もオーボエ2、イングリッシュホルン2、クラリネット2、ホルン2、ファゴット2、と同一であり、楽章の構成も如何に見るとおり、大変似ています。

K.186(変ロ長調)
i. Allegro assai 3/4 62bars
ii. Menuetto 24+16 bars
iii.Andante 2/4 24bars
iv.Adagio 6/8 24bars
v. Allegro 2/4 124bars

K.166(変ホ長調)
i. Allegro 4/4 107bars
ii. Menuetto 24+20 bars
iii.Andante grazioso 2/4 72bars
iv.Adagio 6/8 26bars
v. Allegro 2/4 107bars

いずれも全曲が一つの調で書かれています。また、上の表から、小規模な作品である事も分かります。聴いた印象も、アインシュタインの言う通り、極めて素朴です。

3つ目のディヴェルティメント、K.188は、小規模だという点では似ているものの、たしかにこれらとは全く違う傾向の作品です。編成がフルート2本にトランペット5本(!)、ティンパニ、と、こんにちの我々からすれば非常に珍しく感じられるものとなっています。この編成、日本にはラッパは無かったものの、笛と太鼓というあたりは明治維新期の「官軍」の軍楽を連想させませんか? アインシュタインの推測でも、K.188はザルツブルクの騎兵隊用音楽の仕事だとされています(調べた根拠があるのかも知れませんが、ドイツ語理解力の低い私にはNMAの解説からそこまで読み取れてはいません。)

作品はハ長調(全曲一貫・・・3月17日付記:これは誤りで、第3楽章のみト長調です。ランスロットさん、ありがとうございました)。
i. Andante(3/4, 40bars) - Allegro(2/4, 60bars)
ii. Menuetto 24 bars (トリオ無し)
iii.Andante 2/2 28bars
ii. Menuetto 20 bars (トリオ無し)
v. Gavotte 2/4 20bars

先の2作と比べて、また著しく小規模になっているのは、演奏された際の時間枠かなにかに関係があるのでしょうか?

以上、とくにK.188はモーツァルト作品としては極めて珍しい音色を持つので、音をご紹介したかったところですが、私の時間的理由から断念します。申し訳ございません。
小規模作品で編成も珍しいため、単独のCDは見つけにくいかと思います(私は見つけられませんでした)。
PHILIPS Complete Mozart Edition 3 "Divertimenti, Divertimenti・Serenades"
には収録されています。K.186とK.166はホリガー・アンサンブル、K.188はアカデミー室内楽団の演奏です。

楽譜は全集(NMA)では第17分冊に収録されてます。



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コメント

K188 本当に変わった編成ですよね。宮廷でのファンファーレ用にしては、どこか違うと思ってました。ガヴォットも付いていますしね。騎兵隊用音楽なら納得ですね。しかし、大嫌いなはずのフルートとトランペットが主役なんて面白いですよね。すいませんAndanteだけト長調だったと思います。

次はてっきりK201だと勝手に思ってました。いや~K201大好きなんです。近々よろしくお願いします。

投稿: ランスロット | 2007年3月13日 (火) 22時52分

ランスロットさん、調性、ご指摘の通りです。
せっかくなので後日音を一部アップしようと思っていますので、そのとき記事を修正します。
ありがとうございました。

>大嫌いなはずのフルートとトランペットが主役なんて面白い

ホントですね!
しかも、結構いい曲なんですよね〜。

K.201は・・・1773年の作品がまだ少々残っておりますので、今しばらくご猶予を。。。 m(_ _)m
アントレッター・セレナーデとかも、ヴァイオリン協奏曲との関係を考えると面白いですヨ!

投稿: ken | 2007年3月13日 (火) 23時21分

あぁ何かで読みました。2、3,6のVnのソロがある楽章を取り出して、2,6,3に組み替えてコンチェルト風に でしたっけ。

投稿: ランスロット | 2007年3月13日 (火) 23時34分

組み替えの話は記憶に無いのですが・・・あったかもしれません。
その点も調べてみますネ!
なにせ、この頃のモーツァルト父子の書簡集に唯一出てくるヴォルフガング作品ですから、落とせません!

投稿: ken | 2007年3月14日 (水) 00時24分

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