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2007年2月11日 (日)

第3回ウィーン旅行前のザルツブルクシンフォニー

1773年に始まるザルツブルク時代にモーツァルトが書いた9つの交響曲は、父の手で1冊に綴じられました。19世紀の所有者にちなみ「クランツIII」と呼ばれたこの冊子は、1987年まで原形を保っていましたが、現在では最後の1曲が切り離されてウィーンの個人の所有となり、他はニューヨークのコレクターの手元にあるとのことです(Baerenreiter Urtext MOZART Yhe Symphonies Vol.III 解説 XI頁)。

9曲のうち7曲までが1773年のうちに作られています(K.162, K.184, K.199, K.181, K.182, K.183,K.200〜ただし疑義あり。概要でも触れませんでした)。続くK.201(有名なイ長調)は翌74年、K.202は75年の作です。その後は1778年に「パリ」交響曲を書くまで、モーツァルトはこのジャンルを手掛けていません。弦楽四重奏曲ほどではないにしても、空白の3年間の存在は興味深く思われます。

さらに、1773年の7曲も、ウィーン旅行に出かけた前後では形式に大きな隔たりがあります。
すなわち、旅行以前の5曲(最後の曲のみウィーン滞在中)はすべてイタリア風の3楽章であるのに対し、帰郷後の2曲は第3楽章にメヌエットを置いた4楽章構成となっているのです。
これによって、「ウィーン」の精神が彼にもたらしたものの大きさを、私たちはウィーン弦楽四重奏曲を挟んで強烈に印象づけられることとなります。
帰郷後の2曲のうちのひとつは、名高い「小ト短調交響曲(第25番)」ですので、帰郷後の交響曲については今回は含めずに観察しましょう。

この年の作ではないか、と考えられている「シピオーネの夢」序曲の交響曲稿については、省きます。

ウィーン旅行前の5曲について、構成と際立った特徴を掲げておきます。

K.162(ハ長調)第22番
オーボエ2、ホルン2、トランペット2、弦五部
(ティンパニがあってもおかしくないのに入っていない、との話もあります)
I. Allegro assai 4/4 135小節
II. Andantino grazioso(ヘ長調、トランペット無し) 2/4 70小節
III. Presto assai 6/8 116小節
*第1楽章・第3楽章が似た開始部を持つことで、統一感の強い作品になっています。

K.184(166e)(変ホ長調)第26番 
フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、弦五部
I. Molto Presto 4/4 135小節=アタッカ
II. Andante(ハ短調、トランペット無し) 2/4 70小節=アタッカ
III. Allegro 3/8 236小節~クリスチャン・バッハ風
*中間部にあたる第2楽章は、用事が夕暮れ道に迷って途方にくれたような雰囲気です。

K.199(162a)(ト長調)第27番
フルート2、ホルン2、弦五部
I. Allegro 3/4 146小節~伸びやかで、やはりクリスチャン・バッハ風
II. Andantino grazioso(ニ長調) 2/4 99小節
III. Presto 3/8 323小節~クリスチャン・バッハ風
*第3楽章で、声部(楽器)を徐々に増やすことで生まれるクレッシェンド効果は、新工夫。
  他作曲家からの影響関係を調べてみたいところです。

K.181(166b)(ニ長調)第23番
オーボエ2、ホルン2、クラリーノ2、弦五部
I. Allegro spiritoso 4/4 181小節=アタッカ
II. Andantino grazioso(ト長調、トランペット無し) 3/8 88小節=アタッカ
III. Presto assai 2/4 166小節~マーチ風の、1拍目のウェイトがクッキリした楽章。
                    モーツァルトの独自性が他作の第3楽章より際立っている

K.182(166c)(変ロ長調)第24番
オーボエ2(第2楽章でフルートに持ち替え)、ホルン2、弦五部
I. Allegro spiritoso 4/4 146小節
II. Andantino grazioso(変ホ長調)2/4 60小節
III. Allegro 3/8 132小節~クリスチャン・バッハ風

また、全体に共通する特徴をまとめますと、

1)五作品とも、冒頭が主和音の連打、もしくは分散和音で始まっている
2)2作が切れ目無しで演奏される〜歌劇の序曲(シンフォニア)的
3)第2楽章をAndantino graziosoとしたものが5曲中4曲を占める
  ・・・しかも、graziosoという言葉が大袈裟ではないかと思うほど、素朴で親しみやすい
4)K.184(平行短調)、K.199(属調)以外の第2楽章は主調の下属調となっている
5)トランペット、あるいはそれに近い楽器が3作で活躍するにもかかわらず、それらにはティンパニが含まれていない
6)フルートも3作で活躍する

となります。

とくに第1、2番目がめを引きます。

1番目の特徴は、5曲全てが類似した雰囲気をもつ結果をもたらしています。

2番目の特徴からは、次のようなことが考えられます。
これら5作は、イタリア帰り直後なので「イタリアで既に注文されていたのではないか」と推測されるのが一般的ですけれど、切れ目無しの2作は、むしろイタリアから新しいオペラの注文をとりつけたいがために敢えて宣伝用に作ったのではないか、と考えてもいいのではないかと思います。的外れでしょうか?
また、すくなくとも後半3曲はK.184の切れ目なく演奏される作品と同じか、または別に、具体的なオペラ化台本が存在し、あらかじめそれを読んでいたモーツァルト父子が作曲者として名を挙げるためにワンセットのサンプルで提示した、ということがあったとしてもいいのではないでしょうか? ・・・まあ、伝記的根拠はありませんので、素人の勇み足かも知れません。。。それにしては、5つ子とでも呼んでいいくらい、みんながみんな似た顔をした作品であることが、どうにも気になって仕方ありません。

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コメント

>みんながみんな似た顔をした作品であることが、……

これはどうでしょうか?
3楽章のものばかり、というのは確かにイタリアでの経験を
反芻している結果とも考えられるかと思います。
しかし、個人的にはこれら5曲がそんなに似ているとは思えません。

K.162第22番ハ長調とK.181(166b)第23番ニ長調が
よく似ているのは僕もよく分かるのですが…。
(23番の方がより複雑で完成度も高いように感じます。)
他の3曲とは違い、室内楽的な性格を持つ
K.199(162a)第27番ト長調とK.182(166c)第24番変ロ長調は
その前の時期の、
例えば17番K129ト長調あたりとの類似性をより強く感じます。

K.184(166e)第26番変ホ長調はこれら5曲の中では
最も特徴的な曲かもしれません。
オペラ序曲並みの編成の大きさ、
第一楽章のMolto prestoという発想記号と
少々風変わりな和声進行、
この時期のシンフォニーとしては積極的な管楽器の使用など、
この曲は意外と力作なのかも。
(その割には効果的に聴こえてこないようですが。)

こうして見てみると、
「全体に共通する特徴」というのは「同時期の作品だから」
ということ以上の意味はないのではないかとも思えますが
いかがでしょうか?

それにしても前回のシンフォニー連作のときとは違って、
ここでは軽めの曲が並んでいるのは興味深いと思います。
ヴォルフガングの個人的な気分の問題なのか、
それともそうする特別な事情があったのか。

投稿: Bunchou | 2009年3月 3日 (火) 21時40分

Bunchouさん

いつもありがとうございます。
曲ひとつひとつのもつ内面は、もちろん、それぞれに個性的です。
つくりとしての「顔」が似ていることを申し上げたかったのですが・・・
それを、共通する6つの特徴でまとめてみた次第です。

ハズしてますか?

共通してフルートが活躍することから、特別な注文主のために書かれた連作であった可能性は高いと思います。それぞれの個性は認めますが、やはり、私としては「類似性」にこだわりたいなあ、と思っています。セットと見るには数が半端かしらね。

・・・まあ、むずかしいところなんですけどね。。。

投稿: ken | 2009年3月 3日 (火) 23時22分

共通項があるのは、まあそうなのですが、
「5つ子とでも呼んでいいくらい」
という程ではないかなあ、というのが僕の感想です。

フルートの使用もこの時期の連作に限ったものではないですし、
(以前の18番、21番など)
特に緩徐楽章でのフルートの使用は当時としては
ありふれた用法だったようですので、
それを以って「特別な注文主」の存在を仮定するのは
かなーりキビしいのではないかと。

またセットと見るには規模も編成も違いすぎるように感じます。
(数の問題もあるでしょう。)
特に26番K.184(166e)はこの一曲のみ、
一般的なシンフォニーにしては管楽器がかなり大編成なのも
(セットとしては)やや不自然に感じます。
さらに、ウィーン移住以前のモーツァルトにおいては
フルート、オーボエを各2本ずつ同時に用いるシンフォニーは
劇場作品の序曲として使用されるケースがほとんどで、
実際、この変ホ長調の作品も後に劇の序曲として使われたそうです。
とすると、この作品に関しては例えば、
「ザルツブルクでの旅劇団の一座の公演ために作曲された」
とでもいう方が仮説としては有り得そうな気がします。


以下、kenさんの仮説を見ていきます。

>五作品とも、冒頭が主和音の連打、もしくは分散和音で始まって

当時のこのジャンルの音楽というのは大なり小なり
そういう始まり方をするのではないでしょうか?
それに、「だから似た雰囲気を持つ」というのは
かなり無茶なことだと言わざるを得ないかと。


>2作が切れ目無しで演奏される~歌劇の序曲(シンフォニア)的

このタイプのシンフォニーはそんなに特徴的なものなのか、
そもそもこれは連作の共通項といえるのかどうか。
考慮の余地がありそうです。
(5曲中、2曲だけに共通。)


>第2楽章をAndantino graziosoとしたものが5曲中4曲

これはその通りですね。
でも、それ以前に無い指示、というわけでもないような。


>K.184(平行短調)、K.199(属調)以外の
 第2楽章は主調の下属調となっている

中間に置かれる緩徐楽章が下属調をとるのは珍しくないのでは。
少なくとも、この連作特有の現象とは言えないかと。


>トランペット(中略)が活躍するにもかかわらず、
 それらにはティンパニが含まれていない

これもこの時代にはよくあることでは。
モーツァルトだけで見ても他に20番や28番、30番、32番があり、
フィナールムジークのシンフォニー楽章の例もあります。
これもこの時期の連作の特徴としては弱いような…。

6)フルートも3作で活躍する

これは前述の通りです。


…という感じです(汗)
で、ここまで書いて初めて気づいたのですが、これら5曲が
>イタリアで既に注文されていたのではないか、と推測される

っていうのは初耳なのですが、ホントですか?
今までそれなりに色々読んできたつもりですが、
全く知りませんでした。


えーと、今回のコメントは
「真っ向から否定」
という感じになってしまっていますが、
悪意はございませんので、ご了承くださいませ。

投稿: Bunchou | 2009年3月 4日 (水) 21時13分

Bunchouさん、細かいチェック、ありがとうございました。

ただ・・・綴ってから日がずいぶん経ってしまったため、自分で
「あれ? なんでこう綴ったんだっけ?」
っていうのを結構忘れていまして・・・(^^;

イタリアで既に注文された可能性、というところの記憶も、恥ずかしながらあいまいです。
イタリア風序曲の構成だから、このあとに続くものと明確に区分される。
であれば、時期的に見て、イタリアオペラ用に用意して送ってくれ、と言われて作った可能性が高いんじゃないか、という、極めて安直な発想だった可能性が捨て切れず(根拠を探し直しても見つかりませんので)、お恥ずかしい限りです。

その他、御意見頂いた点は、スコアの絵模様の印象、というのは自分では大切にしているつもりですから、もしかしたら、そこからくる多分に主観的なことばかりを並べた可能性はあります。

全否定、いいんじゃないかな、と思います。

かえって有り難いです。

悪意がないのも承知をしております。
しっかりチェック!・・・は非常に助かります。

また機会をみて見直す時に、いい指針になります。

いま、パリの異稿について、おそるおそる考えをまとめとる最中です。
こっちもビシバシ、お願いします。

こわいよー!

投稿: ken | 2009年3月 4日 (水) 21時27分

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