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2007年1月28日 (日)

井上直幸 ピアノ奏法1(DVD)


井上直幸ピアノ奏法 1 作曲家の世界 [ビデオ]


名ディレクター、井阪紘さんのご著書「一枚のディスクに」(春秋社2006)には、クラシックの録音に関する興味深いエピソードが豊富に出てきます。
その中に、2003年4月22日に逝去した井上直幸氏が、死期を悟って井阪さんに「最後のレコーディング」を依頼した話があります。当時1歳になるかならぬかのお孫さんが、井上さんのピアノを一生懸命聴いてくれる。その孫に、生きてピアノを聴かせてあげられる時間は、しかし、残り少ない。それを思った井上さんが一大決心をして井阪さんにオファーしたのでした。
そのCD、私は年末に入手して、あとでじっくり聴こうと未開封にしていたのですが、家内の死去で家がごった返してどこかへ行ってしまい、未だに見つかりません。
(付記:後日発見、こちらに記しました。)

井阪さんのご本で上の話を知るまで、ピアノに詳しくない私は、井上直幸という人を、辛うじて顔しか知りませんでした。NHKの「ピアノのおけいこ」で先生をなさっていた方だよな、程度しか記憶に無かった。

たまたま、これも年末、家内の死のほんの数日前に、井上さんが書かれた「ピアノ奏法」というご著書と、同じタイトルのDVDブック2巻を手に入れ、これはいつも作業する手元近くにおいていたために、行方不明を免れました。(2巻目については今回とは別に綴りました。こちら。)

家内のこと、部屋のことに、あらかた先行きのめどが立った先週来、まずDVDの第1巻の方を3度ばかり見ました。
話はズレますが、『日本霊異記』という平安初期の古典に、牛の生まれ変わりであるばっかりに何度経を読んでも全然覚えられない僧の話が出てきます。
私も牛かなにかの生まれ変わりなのか、井上さんのDVDを3度も見て、かなり強い感銘を受けながら、内容については全く記憶出来ずにいます。
そこで語られている音楽が、あまりに素晴らしいからです。素晴らしさに気を取られてしまって、理詰めで見聞きしていないから、覚えられない。

DVD第1巻は副題が「作曲家の世界」となっています。
「ピアノ奏法」という標題であるにも関わらず、この「作曲家の世界」で取り上げられている曲が、これまたユニークです。バッハのマタイ受難曲や、モーツァルトの「すみれ」、シューマンの「美しき五月に」といった声楽曲まで採り上げている。
井上さんは、そうした中で、別に「ピアノの弾き方」をレクチャーしているのではないのです。
シューマンやドビュッシーを採り上げるときには、ピアノでたった二つの単音や和音を繋げて弾いただけで、
「この音の次に、(教育的なカデンツから逸脱して)何でこの音が来るの? ねえ、でも、新鮮でしょう?」
笑顔で、そんな話ばかりしている。
不思議なもので、今聴かされたのはたった二つの音なのに、井上さんが
「なんで?」
と画面の向こうの私たちに、そして、画面の内側にいる自分自身に問いかけるとき、無機質なはずの2音が、それだけでシューマンやドビュッシーの響きになる。

こういう経験は、コンサートではなかなか得られません。
こうした映像が残っているのは、ですから一つの奇跡だと思わざるを得ない。

目次をご紹介すれば概要がお分かり頂きやすいのですが、長くなるので断念します。
採り上げている作曲家は、バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、(ショパンやリストではなく)シューマン、そしてドビュッシー。
「ほう、音楽とはこういうものだったか!」
と新発見/再発見するにはまたとない素材です。
もちろん、ピアノをお弾きになる方には、とくに井上さんの左手にご注目頂ければ、ピアノでの音楽の作り方はどうあるべきか、とても考えさせられるし、得るところも大きかろうと思います。

ご覧になってみて下さることを、強くオススメしたく、ご紹介した次第です。



井上直幸ピアノ奏法〈第1巻〉作曲家の世界―バッハからドビュッシーまで


Book

井上直幸ピアノ奏法〈第1巻〉作曲家の世界―バッハからドビュッシーまで


著者:井上 直幸

販売元:春秋社

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関連記事
井上直幸 ピアノ奏法2(DVD)
  (書籍の『ピアノ奏法』についてはまだ綴っておりません。
『象さんの子守歌』:井上直幸

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コメント

kenさん、
このDVD興味あります。
アマゾンへのリンクをはっている
『井上直幸ピアノ奏法〈第1巻〉作曲家の世界―バッハからドビュッシーまで』(春秋社)を
買えばDVDもついてくるのですか?

投稿: イワン | 2007年1月29日 (月) 20時50分

イワンさん、
おっしゃっている通りです。DVD付きの冊子です。
(冊子の方は15分くらいで読めてしまう内容です。とはいえ、味わいがあって、私は好きです。)

大きな本屋さん、楽器屋さんにお行きになるついでがあれば、そのほうが手っ取り早く入手出来ることもありますヨ。

投稿: ken | 2007年1月29日 (月) 23時42分

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