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2006年12月13日 (水)

忘れ得ぬ音楽家:1)岩城宏之

(このカテゴリで取り上げる方たちとは、私はTV画面上で一方的にしかお会いしていないか、お会いできても末席でお話を聞いていたか、程度の接点しか持っていないのが普通です。失礼の無いようには気をつけますが、ヘンな点があったらご指摘頂れば幸いです。)



子供のとき、オーケストラ番組を見ていたら、真中に立っている人が何やら次々に色紙を・・・もっとも、白黒テレビでしたので、色まではわからなかったのですが・・・とにかく、色紙を次々にとっかえひっかえ掲げていました。で、紙が変わると、たとえばクラリネットの人たちがお面をつけて出てきて、ひとしきり音楽らしき不思議なものを吹く。で、次に紙が変わると、クラリネットの人が引っ込んで、ラッパの人たちが出てきて似たようなことをする。あるときには、どっちの楽器の人もいっぺんに出てきたりする。
記憶が定かではないのですが、こんなヘンテコリンなオーケストラ番組を見たのはそのときが初めてでした。
(12月17日付記:「色紙」というのは記憶違いで、アルファベットか記号を書いたカード・・・それも手品用の大型とランプみたいなヤツだったかも知れません。イタリア人作曲家の「マスク」という作品ではなかったかなあ〜。。。ご存知の方、教えて下さい!)

「君はどうしてクラシック音楽なんか好きになったの?」
とは常々聞かれる質問で、だいたい私はこう答えます。
「宇宙飛行士にあこがれていて、プラネタリウムに良く通っていたんですけどね、そのプラネタリウムで、場面の変化にばっちり合わせて<新世界より>の第2楽章がバックグラウンドに流れたんです。それでコロッときました。」
自分でも、長いこと、このとおりだったと思い込んでいました。

3年程前に気の病になりまして、それから妙に昔のことをクドクド考えてしまうときがあります。
すると、自分にとって音楽の原風景としてよみがえってくるのは、どうも、<新世界より>では、ない。
あのプラネタリウム経験よりずっと前から、家で大声で音痴な歌を歌うのが好きだったし、テレビでオーケストラをやっていると、かじりついて見ていたような気がします。

で、中身こそちゃんと覚えていないものの、初めて
「へえ、こういうのもあるんだ!」
面白い、と感じたのは、どうも、上に綴った「色紙とお面」のシーンだったようです。

色紙を掲げていたのが、岩城宏之さんでした。
岩城さんの名前は、ほぼ確実に、このときのTVで覚えたのでした。
プラネタリウムとの前後関係は、忘れましたが。

で、岩城さんが何のためにとっかえひっかえ色紙を掲げていたのかというと、これは「指揮」というものだったのでした。だから、「指揮」というのがオーケストラでも小学校の先生と同じように「腕を振り回す」ものだ、と、ちゃんと知ったのは、もう少しあとのことだったはずです。

そう、岩城宏之さんは、「指揮者」だったのでした。

色紙で「指揮」をしちゃう、岩城さんという人が、私はなんだか好きになってしまいました。ほとんどはTVを通してしか演芸なるものに接する機会がありませんでしたし、祖母に連れられて演歌ショーとかクレージーキャッツ【ハナ肇・植木等さんたちのグループ】を見に行ってケラケラ笑った他には、木馬座(ご存知です?)の児童劇を見に行くくらいでしたから、ちょっと新しい見ものが出来た、という感じで、とても面白かったのです。
・・・「クラシック音楽」が演芸、と言ったら叱られますよね。きっとね。でも、私にとっては、岩城さんの見せてくれた「クラシック音楽」には演芸との境界線なんてまるでなかった。そのことには、ある意味、今でも感謝をしています。(これは、決して故人に失礼なことではないですよね?そうであって欲しい。。。)

学生時代と勤めてからと、ご著書も何冊か拝読しましたが、今は実家のどこかに埋もれています。ゴラクとしてしか読んでいなかったのですね。今度帰省したときに探せるだけ探してみようと思っています。

CDは、というと、最初の出会い方が出会い方だったので、現代物、それも黛敏郎さんと武満徹さんの作品を数枚持っていただけでした。黛さんのは「涅槃交響曲」と「曼荼羅交響曲」で、武満作品は「小沢征爾指揮で」を基本にしていたので、たぶん金沢で演奏なさった「系図」の1枚だけだったと思います。・・・これは、リーフレットも満足に読まずに聴いていて、
「岩城さんがオーケストラ・アンサンブル金沢でも出来るように規模を縮小して編曲した」
と知ったのはお亡くなりになった後でした。加えて、岩城さんも、小澤氏に劣らず武満作品の多くの初演、紹介に尽力していたことも、同じ時に知ったのでした。

訃報をネットで見つけて、ショックから大慌てでCDを探し回りました。
それから仕入れたCDの数々は、上の3枚と合わせて、後ほど御紹介します。

出された本は、
「あ、これ読んでもオレ、痩せられないや」
と、岩城さんが意地悪に思えて買わずじまいだった
<男のためのヤセる本>(タイトルを間違えているかもしれません)
を始め、いまはなかなか見当たりません。
最近かろうじて文庫3冊を発見し、1、2週間、むさぼるように読みました。
読んでいて、
「ああ、こんなにオーケストラを愛していた人って、他にいなかったのでは?」
と、大きな錯覚も伴いながら、故人の本であるにもかかわらず、げらげら笑いながら・・・でも、巻末に近づくにつれ、どの本にもホロッとし、胸をキュンと締め付けられたりしたのでした。

理由は分からないけれど、岩城さんをあまり評価していない人も、私の身近にはいます。人の常、というものでしょうか。
ですが、いまは私の感じたままに、(お会いしたことはないけれど)、岩城さんのステキさを強調したいと思います。(媚びる意図は全くありません。亡くなったかなに媚びて、何の得もありゃしませんし。)

こんな永遠の素人にも、本当に、音楽の・オーケストラの面白さに目を開かせて下さった方でした。
亡くなったあとでも、ご著書を通じて、なによりも人間の面白さを教えつづけて下さる方でもあります。

私の手に出来た文庫本とCDを、品名のみ(ちょっとはコメントつけて)ご紹介します。


<書籍(文庫本)>

光文社 知恵の森文庫
Ongakukyoshitu_1
「岩城音楽教室」2006年4月15日 2刷
*歯に衣着せぬ物言いがさわやかです。恩師の一人である斎藤秀雄氏の指揮教育について「リズムは点だ」と教えたことは間違いだ、と言い切っているお弟子は他にいらっしゃらないでしょう。それでいて、師にはかえって見込まれたのでしたし、いまも同門の人に憎まれることは無いだろう、と安心しきって読めるのは、やはり故人の人柄ゆえ、と、頭が下がります。


文春文庫
Sikinookeiko_1
「指揮のおけいこ」2006年2月1日 第3刷


Syokunin_1
「オーケストラの職人たち」2006年6月15日 第2刷
*どちらも著者の豊富な実体験によるエピソードに満ちていて、心を奪われます。
*「指揮のおけいこ」は、愉快ながら切ない本です。長年の同僚、外山雄三さんの「解説」も、今となっては、他の人では書けなかっただろう、岩城さんへの最高のオマージュです。
*「オーケストラの職人たち」などという本を書くほどに、スタッフにまで関心・好奇心を持つ指揮者は、後にも先にも岩城さんだけかも知れませんね。愛情に満ちた1冊です。


<CD(私の聴いたもの)〜末尾にまとめてアフィリを入れておきます>

黛敏郎「涅槃交響曲」N響
DENON(携帯再生機に入れていて、原盤は棚から取り出せず!)

黛敏郎「舞楽/曼荼羅交響曲」N響(1967/1965)
DENON COCO-70506

武満徹「弦楽のためのレクイエム」
外山雄三「ラプソディ/子守歌」
小山清茂「管弦楽のための木挽き歌」
渡辺浦人「交響組曲<野人>」
尾高尚忠「フルート協奏曲」(独奏:吉田雅夫)
メシアン「ばら色の扉〜5つのリュシャン/天国の色彩」
(N響 他:1961,1973)
追悼盤:KING KICC 3068

*以上の日本人音楽家の作品は、とにかく、これらの演奏で聴いてみて下さい。
  ホントはもっといろいろ、たくさん出ているハズなんですが
  ・・・お店で見つけたのは今のところこれだけです。
  ネットで探すと山ほど出てきます。

ブラームス:交響曲第1番・悲劇的序曲・大学祝典序曲
(バンベルク交響楽団:1968)
DENON COCQ84214
*大変興味深いのは、この演奏、曲からイメージされるしかつめらしさとは正反対の、明るい音色で満たされているのです。当時の岩城さんの性格と生き方を垣間見る思いがします。

ベートーヴェン交響曲全集(N響:1968〜1969)
追悼盤:DENON COCO 84209-13 5枚組+特典盤
*欧米のベートーヴェン交響曲全集にも、これだけ良質の演奏が揃ったものは殆ど無いと思います。2番、4番、6番、8番と、偶数番が揃ってよい演奏であり、かつ若々しいのが最大の魅力です。

三善晃「三つのイメージ」
武満徹「系図(ファミリー・トゥリー)」
(オーケストラ・アンサンブル金沢:2002/2003)
WarnerClassics WPCS-11722
*いずれも谷川俊太郎さんの詩による音楽。武満「系図」が岩城さんの編曲だということは、先に触れました。

権代敦彦「84000×0=0 for orchestra Op.88」
ブラームス:交響曲第2番
(オーケストラ・アンサンブル金沢:2004/2005)
WarnerClassics WPCS-11861
*権代作品については「のだめ9話」の記事の中でふれました。

ブラームス:交響曲第3番、ワルツ作品39-15(編曲者についての解説無)
間宮芳生「オーケストラのためのタブロー2005」
間宮芳生「コントルタンツNr.1<白峯かんこ>」
(オーケストラ・アンサンブル金沢:2005/2006)
WarnerClassics WPCS-11925(生前最後の録音・・・でしょうか?)
*リブレット中の間宮さんのメッセージは岩城さんの生前に書かれたものですが、少しだけ引用します。
「病をのり越え、のり越え、無限のエネルギーを感じさせる岩城宏之さんの仕事ぶりが、私にこの音がいっぱいつまったスコアを書かせた。」

で、聴くべき1枚は、と言われたら・・・
黛敏郎「曼荼羅交響曲」N響(1960年ヨーロッパ演奏旅行の際のライヴ。貴重な記録でしょう。)
チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」N響 1996年、定期演奏会最後の指揮
追悼盤 NHK(キングレコード)KICC 3067
*カラヤン54年の単身来日時か、57年、59年のどの来日時か分かりませんでしたが、岩城さんは彼から<悲愴>を題材に指揮者の心得を訓戒されたとのことです(このこと自体には触れていないものの、「いわき音楽教室」の記述から推定するに、たぶん59年かなと推測しています。ですが、岩城さんが<悲愴>を指揮して本格デビューを飾ったのは1956年なのですけれど)。
「じゃあ、カラヤンと似た演奏なのだろうか?」
幸いにして、1954年単身来日したカラヤンがN響と残した<悲愴>の録音がCD化されています(DEUTSCHE GRAMMOPHON POCG-10175)。こちらは、まだ生長途上のN響によるとはいえ、本質的に後年ベルリンフィルでカラヤンが指揮したのとほとんど変わりのない、優雅で滑らかな演奏が求められていることは明確に分かります。
岩城さんの、1996年のライヴは、カラヤンのものとは全く異質です。岩城さん自身の、ベートーヴェンやブラームスの若き日の演奏とも、ぜんぜん違います。本場ロシアのものとも、似ていません。
ですが、こんなに素晴らしい<悲愴>を聴いたことはなかった。
演奏こそ巧みで艶やかながら、人間としてもっとも素朴な悲喜の発声が聴き取れる、日本という枠を越えた、独特な味わいがあります。

「極東の<悲愴>」。

これは、世界の人に、耳を傾けてもらう価値がある録音ではないでしょうか?



黛敏郎:涅槃交響曲
黛敏郎:曼荼羅交響曲/舞楽
武満徹:弦楽のためのレクイエム
ブラームス:交響曲第1番
ベートーヴェン:交響曲全集
武満徹:系図(ファミリー・トゥリー)
ブラームス:交響曲第2番
間宮芳生:オーケストラのためのタブロー2005(委嘱作品・世界初演)
チャイコフスキー:交響曲第6番

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コメント

こんにちは。JIROです。
私も岩城さんのことを沢山書いてますから、TBしようとおもうのですが、なんか、ダメみたい。もういちどやってみます。

投稿: JIRO | 2006年12月14日 (木) 22時04分

kenさん、こんにちは。

本ではすぐ手にはいるのが、電子文庫パブリというか、
文春文庫の電子ブックで、
「棒振りの控え室」
「棒振りの休日」
「棒振りのカフェテラス」
ですかね。
岩波新書で
「フィルハーモニーの風景」
「楽譜の風景」
新潮文庫
「ハニホヘト音楽説法」
かな・・。ご存知のがあるでしょうが、
ご容赦のほど。

投稿: JIRO | 2006年12月14日 (木) 22時21分

JIROさん、TB大丈夫でしたヨ。
それから、情報ご提供に感謝!
文春文庫のシリーズが読みたいんですよネ。
岩波新書は実家にあるはずなんだけどなあ。
年末に探します。

投稿: ken | 2006年12月14日 (木) 23時59分

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