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2006年12月16日 (土)

Mozart:Exultate, jubilate K.165

モーツァルト作品関係の記事は、ケッヘル第1版番号順のリストを作ってあります。
こちらをご利用下さい。


「ルチオ・シッラ」一応の成功の置き土産として、ヴォルフガングがミラノに残して行ったソロ・モテットが、この有名な「エクスルターテ・ユビラーテ(踊れ、喜べ、幸いなる魂よ)」です。
これがイタリアのための最後の作品になる・・・もう二度とイタリアを訪れるチャンスはない、とは、当時のモーツァルト親子は考えだにしていなかったでしょう。。。
アルフレート・アインシュタインは自著の中で、この作品が声を独奏楽器とした見事な協奏曲である、という点に手放しの賛辞を贈る以上には、饒舌になることを避けています。
海老澤敏教授は、この作品のオペラ的華やかさがモーツァルトの他の宗教作品に限らずハイドン等古典派時代のキリスト教作品に共通してみられる特徴であること、それ故に19世紀中葉盛り上がった禁欲的な<セシリア主義>から目の仇にされ、以降20世紀に至るまで(深刻な作風である若干の例を別として)モーツァルトやハイドンの宗教音楽が「献呈先の王侯貴族から貰える金を目当てにしたものだ」と不当に評価された経緯を丁寧に記述しています(「超越の響き」405〜411頁)。
「エクスルターテ・ユビラーテ」の自筆譜は第二次世界大戦で逸失してしまった、と長い間信じられており、新モーツァルト全集編纂にあたっての典拠は、そのためザツツブルクにある筆者譜によらざるを得なかったはずです(レオポルトが重用していた写譜家の手になるもの、だったと思いますが、この件は Carus版スコアの曲末尾にドイツ語の注釈はあるものの私は読みとばしてしまっています。誤りでしたら是非ご指摘下さい、感謝してお受け致します。なお、新全集でのこの作品の楽譜は1963年校了)。
ところが、1977年、ポーランドのクラカウに、戦時中多くの貴重な自筆譜類が疎開していたことが判明、かつそれらをポーランド政府が東ベルリン(当時)に移譲するという劇的事件があって(そのなかには「ジュピター」交響曲の自筆譜も含まれていました)、その中から運良く「エクスルターテ・ユビラーテ」の自筆譜も再発見されたのでした。
これにより校訂しなおした楽譜は2000年にシュトゥットガルトのCarusから出され、2006年(今年)、ポケットスコアのかたちで私たちも容易に手に出来るようになりました。
自筆譜再発見そのものからは、第1曲と、続くレシタティーヴォの歌詞が、新全集版を含む従来流布していた楽譜とは異なっていることが判明しています。
またCarus版と新モーツァルト全集版をざっと見比べただけでも、以下のような点に違いが確認出来ます。

・真偽不明だったスラーが、自筆譜によりほぼ確実に分かり、Carus版に反映されたこと。また、不自然だった第1楽章47小節目のフォルテッシモも、フォルテに是正されている。

・Carus版では作曲後に付け加えられたと思われる従来楽譜のスタカートを除去するとともに、新モーツァルト全集ではすべてダッシュ型で表示されていたスタカートを、ダッシュ型とポイント型に区別した(とくに第2楽章)。

・Carus版が自筆譜に忠実な数字付低音記載を行なっていると見なし得るならば(最初の頁のファクシミリしか掲載されていませんが、それと比べる限り、全部ではないが大部分が自筆譜で是正されたとみなして差し支えないように思われます・・・残念ながら、またもスキャナトラブルで、引用掲示できません)、自筆譜が低音に付した数字は新全集版の典拠とした楽譜よりはシンプルで、したがって即座の演奏にはより実用的であること。

・レシタティーヴォは新全集版は和音を補っているが、Carus版はバス音と数字のみを印刷しており、自筆譜では「ルチオ・シッラ」(や「ドン・ジョヴァンニ」)同様、もともと和声を補った書き方はとっていないこと

なお、曲の構成は以下の通りです。(なお、Carus版の修正を反映した演奏の実施ないし録音のCD化については、私は情報を持っておりません。ご教示頂ければ幸いです。)

・第1楽章(アリア1): Allegro ヘ長調、129小節
・レシタティーヴォ 12小節
・第2楽章(アリア2): Andante イ長調 115小節
・第3楽章(アリア3):アタッカで。 Molto allegro ヘ長調 159小節

初演は1773年1月17日、ミラノのサンタントーニョ・アバーテ教会にて。初演歌手は「ルチオ・シッラ」のプリモ・ウォーモであったカストラート、ヴェナンツィオ・ラウッツィーニ(当時25歳)(カルル・ド・ニ「モーツァルトの宗教音楽」80頁、他参照。なお、ソロモテットのクヴァンツによる定義については、ド・二の記述の他、海老澤前掲書に邦訳がありますので、ご参照下さい。)

※新全集版(ペーパーバック)は第3分冊の頁通し番号で385頁( Serie1 WERKGRUPPE3 S.157)
※Carus版は "Werke zum Kirchenjahr"115頁から。 ISMN M-007-08739-5

なお、JIROさんから教えて頂き驚愕したのですが、新全集版の楽譜は無償でPDFにて入手できるようになりました!ワシ、なんのために全冊買ったんや!  (T_T)
・・・まあ、印刷手間を考えれば冊子で持っているのはいいことですから。。。
とはいえ、コピーしての利用に頼らなくて済むのは、アマチュアの演奏のためにも多いに有り難い話です。ご活用下さい。
(パート譜は、別に購入が必要です!)

"Exultate, jubilate"の現在出ているCDいくつか:
タワーレコードのサイト
HMVのサイト

関連書籍:
超越の響き?モーツァルトの作品世界
モーツァルトの宗教音楽

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どうぞよろしくお願い申し上げます。

投稿: 寺嶋正明 | 2009年3月 8日 (日) 12時15分

寺嶋様

ご覧頂きありがとうございました。
おすすめサイトに加えさせて頂きました。
お世話になることもあるかと存じます。宜しくお願い申し上げます。

投稿: ken | 2009年3月 8日 (日) 20時36分

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