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2006年11月28日 (火)

Mozart:「ルチオ・シッラ」問題

アマオケですが、私たちの演奏会が12月3日にあります(詳細はクリック!)。入場無料。是非お越しください!



問題、などと綴ると大袈裟なのですけれど、モーツァルトの、イタリアで注文を受けた最後のオペラ<ルチオ・シルラ>K.135については、どう捉え、どう考えたらいいか、には、大変悩まされました。が、日数をかけた上で出た結論は、
「なるべく手短に、物理的に検討するにとどめよう」
というものでした。
(でも、またずいぶん長くなってしまった・・・読んでもらえないでしょうね〜)

ですので、オペラの内容、上演の経緯を詳しくお知りになりたい場合は、
・ストーリーについては堀内修「モーツァルト オペラのすべて」平凡社新書Y840 
・上演を巡る経緯については
西川尚生「モーツァルト」音楽之友社 作曲家◎人と作品シリーズ 2005年
海老澤敏「モーツァルトの生涯1」白水Uブックス1001 1991年(単行本は1984年)
のご参照をお勧めします。海老澤教授の「・・・生涯」は安価な新書版は古書でしか入手出来ないかも知れません。
(記事最末尾のアフィリエイトを参照下さい。)
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見ていくに当たって、課題を大きく二つに整理しました。
1)「ルチオ・シルラ」上演正否の理由を作品規模からおおまかに考える
2)レシタティーヴォ・セッコの通奏低音の、当時の慣習を考える
  ・・・こちらは、「ルチオ・シッラ」固有の問題ではありません。なぜ考えることになったかは、そちらの項でお話します。

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まずは、
1)「ルチオ・シルラ」上演は成功したか、否か、の問題です。
海老澤「生涯1」ではレオポルドの手紙を多く引用し、上演の華々しい成功ぶりを読者に印象づけています。
同じ著者の「超越の響き  モーツァルトの作品世界」(小学館 1999)でも、ルチオ・シッラは大成功であったと伝えられる、としています。
ところが、西川「モーツァルト」には、次のように記されています。
「(ルチオ・シッラの)実際の興行収入はたいしたものではなく、レオポルドが言うほどの成功はおさめなかったようだ。」(70頁)
「ヴォルフガングは、この作品以降、二度とミラノからオペラの作曲依頼を受けなかったが、これは<ルーチョ・シッラ>があまり成功しなかったという理由だけでなく、前述のマリア・テレジアの大公宛書簡が影響しているともいわれている。」(同頁。マリア・テレジアのミラノ大公宛書簡については、同書65-66頁に言及されています。書簡そのものの翻訳はドイッチェ/アイブル編「ドキュメンタリー モーツァルトの生涯」【シンフォニア、1989年】108頁に載っています。)
堀内「モーツァルト オペラのすべて」では、
「初演が成功だったか、実は失敗だったかは、いまも意見が分かれている。」(114頁)
とし、さらに、このオペラが初演時26回も上演されたことは人気が出ていた証拠だとしながらも、上演回数が予定分をこなしただけであること、再演は二度とされなかったこと、かつ
「なによりの失敗の証明は、このあとモーツァルトに新作オペラの注文がこなかったことにある。」(同頁)
とまで述べています。
大成功作は別として、再演されなかったことが失敗の証明、というのは極論に過ぎるかと思います。そのような作品は、たとえば後年モーツァルトがライヴァル視するようになるサリエリにも多くの例があります(水谷彰良「サリエーリ」参照)。
堀内「・・・すべて」はさらに、明確な失敗理由として、ではありませんが、「ルチオ・シルラ」が長い、ということをも特別視しているように読み取れます(118頁)。

マリア・テレジアの書簡問題については「アルバのアスカーニョ」について綴った際に言及しましたが、彼女はミラノ大公の母として節制を求める趣旨から問題の書簡をしたためており、かつ、その内容からは、父レオポルドがザルツブルクでの本来の勤務を忘れ去ったようにヴォルフガングの売り込みに熱中している様子を不快に思っていたらしいことが伺われます。
ですから、「ルチオ・シルラ」がたとえ成功作であっても、そののちミラノから注文がこなかった理由は、マリア・テレジアの意を受けたミラノ大公の判断によるもの、とするだけで充分、かつ何の不思議も無いはずです。従って、堀内著作の「不成功」理由の第1説(新作オペラの注文がなかったことが失敗の証明になる)は正しい記述ではない、と判断してよかろうかと思います。

次に、長さの点を、モーツァルトのミラノ・オペラ3作品の、NMAのスコアにおける(本来は小節数で比較すべきでしょうが、便宜的に)ページ数で比較してみると、以下のようになります。
「ポントの王ミトリダーテ」:340ページ
「アルバのアスカーニョ」:261ページ
「ルチオ・シッラ」:478ページ
以上から、上演の成非との関係はともかく、ページ数で見る限り、「ルチオ・シッラ」は「アスカーニョ」の1.8倍、「ミトリダーテ」の1.4倍、と長いことは事実であることが分かります。
ただし、長さが成非のバロメータであるとしてしまうと、上演回数がたとえ予定分キッチリであったとしても、何とかそれをこなしていることから見て、無理があるように思います・・・が、それは堀内氏も明確に「失敗理由」としているわけではありません。

以上を総合的に見ると、西川「モーツァルト」の記述が最も客観的、かつ的確な判断ではないかと評価出来ます。

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2)のレシタティーヴォ・セッコの通奏低音の問題について、に移ります。
半年ほど前、「ドン・ジョヴァンニ」自筆譜ファクシミリの抜粋が安値で出ていたので、解説がフランス語なので殆ど理解出来ないにも関わらず、衝動買いしてしまいました。(1ヶ月ほど前にも新宿の高島屋裏のほうの紀伊国屋書店の洋書コーナーで見かけましたから、まだ入手可能かも知れません。)
眺めていて、レシタティーヴォ・セッコの自筆が目に入ったとき、ビックリしてしまいました。
レシタティーヴォの音符の下には、バスの根音しか書かれていないのです。しかも、「数字付低音」でもありません。和音の転回について全く指示がなされていないのです。
あまりに驚いたので、古楽に詳しい先生に「これこれこういうわけなんですが」と質問したら、
「それは、モーツァルトが自分で弾いたから、和音とか数字まで書く必要が無かったんだよ」
とのことで、私もずっとそれで納得していました。

NMAでは各作品(あるいはそのジャンルの代表作)の白黒ファクシミリが数葉付いています。で、レシタティーヴォ・セッコの自筆は「ルチオ・シッラ」で初めて見ることが出来ます。
また、驚きました。「ドン・ジョヴァンニ」現象が、ここでも起こっていました。数字無しの、根音だけのバス。。。

で、今度は別の先生に「あれこれこうだったんですが」と質問したら
「レシタティーヴォのフシを眺めて調が判定出来れば、どんな和音を付ければいいか簡単に分かっちゃうから、数字なんか要らないの不必要なの!」
さらに、伴奏の名手の先生が
「セッコじゃなくて合唱だって、バスに数字がついてなくても各声部から和音が読み取れるから、バスに数字をつけなくたって即興で出来ちゃうんダヨあんた勉強タリナイ!」
と貴重なご教示を頂いたのでした。
で、恥を忍んで、実際に「シッラ」のレシタティーヴォに私が和音を付ける実習をしてみた結果を、自筆譜、NMAの回答譜と合せてご覧頂くこととします。音楽は正式に先生から習ったことが無く、和声についてはホンの初歩的なことしか分からない私ですが、家族から「ついに発狂したか!」と差別の目で見られながらも、歌って、鍵盤叩いて和音を付けてみたら、音の配置の変更を覗いて、和音を付けるだけの作業には数分しかかからなかったことを、あらかじめご報告しておきます。(ついでですが、ピアノは超ヘタクソです。)

画像は、それぞれクリックすると拡大して見ることが出来ます。
まず、自筆譜。分かりにくいかも知れませんが、5段目の"Silla"とあるところから最後までが、和声付けの課題としたところです。
Sillaauto

私の答案
Sillatouann

NMA(新モーツァルト全集)ペーパーバックの印刷譜
Sillaanswer

私の音の配置のセンスの無さはともかく、たしかに、レシタティーヴォのフシからだけで容易に調も判断出来ましたし、印刷譜と比べてほとんど錯誤のない和声付けが出来たことには、こんどは自分で自分にビックリしました!
先生たちのお話がいかに信じえるものかは、この私の拙い例で充分ご理解頂けることと思います。

お粗末さまでしたが、この作品について、これ以上触れると「墓場の場面がドン・ジョヴァンニを予見させる」だの、「死を覚悟したヒロインのアリアはフィガロの伯爵夫人の若書き版だ」だのと、やたらとしゃべりまくりたくなりますので、こんなところでやめておきます。そうでなくても、いつも長すぎるので。

CDは、アーノンクールによる短縮した演奏のものをお勧めします(まだ手に入るかな・・・)。
違う演奏ですが、近々DVDも出るはずです。
(アーノンクールは「ミトリダーテ」もうまく短縮した演奏で映像化しています。)



モーツァルト

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モーツァルト

著者:西川 尚生

販売元:音楽之友社

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単行本のほうですが・・・



モーツァルトの生涯

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モーツァルトの生涯

著者:海老沢 敏

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超越の響き?モーツァルトの作品世界

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超越の響き?モーツァルトの作品世界

著者:海老沢 敏

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サリエーリ?モーツァルトに消された宮廷楽長

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サリエーリ?モーツァルトに消された宮廷楽長

著者:水谷 彰良

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モーツァルトオペラのすべて

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モーツァルトオペラのすべて

著者:堀内 修

販売元:平凡社

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