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2006年11月11日 (土)

レヴュー?:NHKの来日オケDVD8タイトル(2)

前回レヴューはこちらです。



残り4タイトルは、すべてウィーンフィルのもの、うち最初の3つは指揮者がカール・ベーム、最後の一つはゲオルク・ショルティです。


最初は、1975年3月16〜18日 NHKホール収録のもの。
これのみ2枚組です。
曲目:ベートーヴェン第7、ブラームス第1、
   シューベルト「未完成」、ワーグナー「マイスタージンガー」前奏曲
   J.シュトラウス「美しく青きドナウ」(16日、17日収録の2つ)
「ドナウ」とベートーヴェン4番のリハーサル映像、75年放映当時のベーム夫妻へのインタヴュー併録。
Bohm1975これ以降の映像と比べて撮影に作為が少なく、オーケストラの様子を勉強するには最も良い素材だと思います。まず、弦楽器。日本の奏者(ソリスト、プロを含め)のうちどれくらいの人が、バネとしての弓の役割を彼らほど自然に理解していることでしょうか?・・・などと、人のことだけにしてはイケナイ。とくに、「未完成」の第1楽章をじっくりご覧下さい(最も分かりやすいでしょう)。さらに、第2楽章は弓を「止める」ので、<なんだ、日本人だって大差ないじゃないか>とお感じになりやすいでしょう。実際にはその後に残る響きが違う。それは「止める」ときの弦と弓の毛の関係の違いで生じるのですが(じつは「止め」ているのではない)、そこまではよくよく画面に近づいて何度も見直さないと分からないかもしれません。次に、オーボエ。これほど柔軟なアンブシュアを目に出来るのはずいぶん稀なような気がします。それを思うと、ファゴットもですが、複リード楽器はやはり大変なんだなあ、と、つくづく感じさせられます。(クラリネットがトラブルをなんとか気付かれないようにカヴァーしている箇所もありましたから、1枚舌のほうが嘘はつけるのか・・・と妙な関心をしたりしています。もとい、1枚舌でも苦労は同じ、ということでした!)他の木管陣、金管陣も、もちろん注目です。ベト7は80年の映像にも収録されていますが、ベームとしてはこちらのほうが常套的な演奏。「マイスタージンガー」は、最後に挙げるショルティと比較すると、ベームらしい無骨さの発揮されたものになっています。
なお、『未完成』の最後の1音がまだ消えないうちに拍手が始まってしまったのは当時残念に思いました。
晩年のヨッフムは、日本でブルックナーを指揮した時、最後の音が消えないうちになりだした拍手に、オケに向かってペロッと、いたずらっぽく舌を出して見せていましたし、音楽家としてはそちらのほうが正直な反応だと思います。
けれど、ベームは聴衆に誠実に答礼しています。「お客様」に対する、ヨッフムとベームの考え方の違いが現れているのでしょうか。
75年映像には個人的な思い入れがあるため、ブラ1を中心に、先日長々綴りました。。。だのにまた長くなってしまいました。ごめんなさい。


2番目は1977年3月2日 NHKホール。
曲目はベートーヴェンの第6と第5、というキツいプログラム。
アンコールがまた、レオノーレ3番。
Bohm1977第6(『田園』)と第5(『運命』)での、ベームの表情の違いがお楽しみポイントです。「目で指揮する」人だったベームは、細かい意思を入れたいときは別として、『田園』では柔らかめの視線、『運命』では強い眼光に徹しています。誰でも常々不思議に思う、「『運命』の最初のダダダダーンは、どうして揃って入れるんだ?」という点に関しては、最初はベームのチョーおっかない顔がドアップで出るだけなので分かりません。が、呈示部反復の際に明らかになります・・・すなわち、メンバーは首席奏者を、首席奏者はコンマスを目印にし、かつブレスのタイミングをお互いに耳を使って揃える、という、室内楽的手法そのままなのですヨ。・・・だから、室内楽は大事です。
75年来日時よりも、ベームは最初から聴衆に対して神経を使わずに振っています。それだけ信頼されたこのときの聴衆は幸せだったと言えるでしょう。


3番目は、ベーム最後の来日となった1980年10月6日のもの。
この年の公演でただ1回のオーケストラのみによる演奏会でした。
会場は昭和女子大学人見記念講堂。完成直後のせいか、響きがこなれていません。
しかし、曲目はベートーヴェンの2番の滅多に聴けない素晴らしい仕上がりの演奏と、色々あって面白い7番。
リハーサル映像付き。
Bohm1980足は衰えているものの、翌年亡くなってしまうとは思えないほど、ベームは「目ヂカラ」があります。ベートーヴェンの交響曲で最大・・・から2〜3番目くらい、の難曲(だと個人的には思っている・・・ごまかしがきかない、きれいになりにくい)である2番を好演した後、しかし、疲れ切ってしまったのでしょう、第7では第4楽章の中盤まで意識が朦朧としているようにも見受けられ、ヘッツェルさんをはじめオケのメンバーが気を使い合いながら、それこそ何とか室内楽のようにアンサンブルを保つ努力をしている様子がありありと伺えます。終楽章の半ば以降、ベームが再び元気を取り戻すと、それはそれでオケが戸惑ってしまう、という、面白い映像でもあります。もちろん、演奏は崩れません。


最後は、14年後の1994年、ショルティの指揮。
10月3日、サントリーホールでの収録。
曲目:ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死(歌無し)
   R.シュトラウス「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
   ベートーヴェン第7、ワーグナー「マイスタージンガー」前奏曲
ショルティへのインタヴュー映像付き
Solty1994首席コンサートマスター、ヘッツェルさんが92年に事故死してからまだ2年。新首席となったキュッヘルさんの厳しい表情が印象的です。ウィーンフィルとは仲違いしたことのあるショルティですが(いや、ベームだってカラヤンだって、カルロス・クライバーだってそうでしたね)、彼の本領が発揮できるプログラムだから、という域を超えた、非常にいい相性での演奏が繰り広げられます。ベト7はベームとひと味違う飛翔感がありますが、重厚です。彼が育て上げたシカゴ響に演奏させたときよりも、ずっとショルティらしいのではないでしょうか?
ワーグナー、R.シュトラウスは、これもベームと違った、カラヤンとも全く違う、アルプスの山並みのような厚みを持つ演奏を実現させています。(ショルティは若い頃、シュトラウス本人より「バラの騎士」解釈について教えを受けたことがあったそうです。)
オケがいい音をちょっとでも出すたびに、その音の主に向かってニッコリと微笑みかける姿は、ショルティがこの3年後に急死してしまったことを思い合わせると、胸をちくりとさせます。

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カール・ベーム ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1975年日本公演
カール・ベーム ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1977年日本公演
カール・ベーム ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1980年日本公演
ゲオルグ・ショルティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1994年日本公演

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