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2006年10月31日 (火)

Mozart:ミラノ四重奏曲

Milanoq2theme_1最初に、右図をご覧下さい(汚い手書き譜で恐縮です、クリックすると拡大してみられます)。
大きくローマ数字を振った、2つずつの3つの固まりにしてあります。
どれも、1行目は、モーツァルトが16歳のときにミラノで作曲した弦楽四重奏曲(6曲)のうちの、第2番です。
2行目は、それと似たテーマを持つ、モーツァルト成熟期の作品からの譜例です。

第1番目〜有名な「レクイエム」のラクリモーサの旋律が長調になっているだけです。
第2番目〜これは「フィガロの結婚」第2幕最初の、これも名高い伯爵夫人のカヴァティーナに、大変良く似ています。
第3番目〜「コシ・ファン・トゥッテ」第2幕最初の、デスピーナのアリアが一段落するところと、これも殆ど同じです。

1772年10月24日、モーツァルト父子は、彼らに天が微笑みかけてくれるはずの大オペラ(これは「ルチオ・シルラ」となります)を作曲し、上演に携わるため、ザルツブルクを出発して三度目のイタリア旅行へと出かけます。その顛末は「ルチオ・シルラ」にふれる際に一瞥するか、伝記に委ねるかします。
このときミラノに滞在したヴォルフガングが片手間に(?)作曲した6曲の弦楽四重奏曲は、「ミラノ四重奏曲」と呼ばれ、日本ではとくに大学オーケストラの弦楽器初心者の修行用教材として使われることが多いようです。
ですが、この6曲、やはり1772年の特徴として高い完成度を誇っており、現実問題として初心者の演奏では聞くに耐えないことが多いかもしれません。
なかでも上に譜例を上げた第2番は、研究者の間では、譜例に併記したモーツァルト成熟後の作品と主題が似通っていること、しかも音楽の精神上においても成熟期を予見させる深みを持っていることで、昔も今もよく注目を浴びます。

とはいえ、第2番だけが優れて秀作だ、というわけではなく、6曲全てが、伸びやかでありながら変化に富む表情を持っており、それらを含めて譜例を掲載できない(きりがないので)のが惜しいくらいです。

ケッヘル番号では155〜160で、番号順に「ニ-ト-ハ-ヘ-変ロ-変ホ」と4度ずつ下降する(五度圏をへめぐる)配列になっている点にも、海老沢敏氏をはじめたくさんの方の言及があります。
ただし、この調整配列を素直に順番通りにとることには問題がありまして、このことは全集ペーパーバック版の緒言にも言及があります。下の自筆譜例を見て下さい(クリックで拡大表示)。
Mozartk155_1
NMA 18 Kammermusik II

見づらいですが、上段左端の4行目に"Bass"(SSはエスツェット)とあるのに、その上にわざわざ"Violoncello"と書き足してあります。
これはK.155(ミラノ四重奏曲の中では第1番)のファクシミリですが、この他にK.159(第5番)、K.160(第6番)の最低音部が、やはり"Bass"と表記されていて、こちら2作品に付いては"Violoncello"の補記はないそうです(私はファクシミリ未見。全集の緒言による)。
K.136〜138の通称ディヴェルティメントが、やはり同様だとのことです(ペーパーバック版ではK.136冒頭部でしか確認出来ません)。
これは、残りの3曲とは異なり、K.155、K.159、K.160が弦楽合奏で演奏されるのを意図していたのではないか、と考えられているようです。
すると、調の並びは、
・弦楽合奏向け〜二・変ロ・変ホ
・弦楽四重奏曲〜ト・ハ・ヘ
で、弦楽合奏向けグループは、関係調も含め3度基本の循環を意図して創作されたことになり、五度圏を経巡るよりいっそう成熟した発想の元に取り組まれたことになります。
モーツァルトがこの作品群で示した取り組みの真剣さの、もう一つの例は、第2番(K.156)の第2楽章です。これにはイタリアバロックの伝統を踏襲した完成版が別に存在します。しかし、ヴォルフガングは
一旦出来上がったそのイタリア風楽章を大きくバツで消し、その下から、現在残っている素晴らしいカンタービレの楽章を完成させたのです。

さて、この6曲のCDはわりに見つけにくく、往年のアマデウス四重奏曲は初期四重奏曲だけでLPを出していましたが、いまは全集盤にしか収録されていないようです。イタリア四重奏団の全集もあったように記憶していますが、自信はありません。
現在はスペインの若手、CUARTETO CASALSによって、翌年の6曲を含めた3枚組のCDが輸入盤で入手できます。第2番のテンポがかなり快活で、伝記から伺うヴォルフガングのテンポ感からすると作曲者自身は怒ってしまうんじゃないかと思いますが、全体にさわやかで、読みに対する努力も半端ではなく、好感の持てる演奏です。(harmonia mundi HMI 98760.62)
「いや、古き良き時代の演奏がやっぱりいいんだ!」
とおっしゃる向きには、バリリ弦楽四重奏団によるCDが見つかったらラッキーですよ、と言っておきましょう。(私が以前入手できたのはWESTMINSTER MVCW-19044、ただし1〜3番【通し番号では2〜4番】)。
もうずいぶん前なので、実家においてきたのか今どこかに隠れているのか分からなくなってしまいましたが、6曲とも弦合奏で演奏した録音もありました。もし発見された方は是非情報のご提供を!

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コメント

>・弦楽合奏向け〜二・変ロ・変ホ
>・弦楽四重奏曲〜ト・ハ・ヘ

なるほど。
初めはK136~138の続編のような曲集を
書こうとしていたのかもしれませんね。
(調性の配列も似ていますね。)
でも後で弦楽四重奏曲集に変更した、と。

これらを曲集として見てみると興味深いことに
両端に比較的フツウな曲を置いて額縁の役目を担わせ、
その間にバラエティ豊かな曲を並べる構成になっていますね。
(というか、そう感じます。)
最終的には出版を目論んでいたのかも。

CDはフェステティチ四重奏団のものだけ所有しています。
(フンガロトンから出ています。初期13曲収録)
演奏自体はとても良いのですが、
残響(特にチェロにおいて!)のありすぎる録音が
ちょっと残念なところです。

投稿: Bunchou | 2008年12月28日 (日) 00時20分

>後で弦楽四重奏曲集に変更した

弦楽が合奏か各1本か、の明確な意識は(当時の合唱曲がそうであったように)必ずしも持たれてはいないかもしれません。が、少なくともグループとしては、現在の順番通りではないのは間違いなかろう、と思っております。(そうは言っても、チェロを指定した時点で、指定した作品は各パート1本を前提にした、ということはいえるかもしれません。ヴィオローネ、だったら話はまた別だったのですが。)

出版は、間違いなく意識していたと思います。その結果が、当初とは違った配列に曲が並べ替えられて流布していることで、6曲書いてあれば、少なくとも後半3曲を書く時点で前に続くプランニングをし直せば、このくらい調を揃えるのは簡単だったろうと思います。・・・で、6曲は、ご存知の通り、間違いなく「献呈」もしくは「出版」で<お金を頂く>ための必要条件に叶っている、という次第です。

フェステティチ四重奏団という団体を、残念ながら知りません。聴いてみたい衝動にも駆られますが・・・最近は娘のものを揃えてやるのに自分は少しでも現状の財産でやっていかないといかんものですから。。。

ありがとうございました。

投稿: ken | 2008年12月28日 (日) 17時42分

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