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2006年10月10日 (火)

Mozart:名曲の多い機会音楽(1772年)

モーツァルトの、モーツァルトによる、モーツァルトらしい作品は、この年に初めて生まれたと言っていいでしょう。これまで見て来た中でも交響曲第21番をあげることが出来ますが、誰でも知っているのはK.136〜138の3つの"Divertimento"です。各々弦合奏(または弦楽四重奏)だけから成る、3楽章のイタリア風シンフォニアで、K.137だけがゆったりした楽章から始まりますが、基本は急(ソナタ形式)-緩(複合三部形式)-急(ロンド)という枠組みです。構造のバランスの良さ、長音階主和音を骨組みとした幕開け主題の爽やかさが好まれ、初心者から熟練者まで数多くのアマチュアが愛奏する作品です。それだけ逆に、「お気に入りの演奏」が見つけにくいかも知れません。

K.136(ニ長調)
Allegro(4/4)102小節-Andante(3/4)69小節-Presto(2/4)144小節

K.137(変ロ長調)
Andante(3/4)69小節-Allegro di molto(4/4)64小節-Allegro assai(3/8)110小節

K.138(ヘ長調)
Allegro(4/4)90小節-Andante(3/4)45小節-Presto(2/4)97小節

この3曲はディヴェルティメントと呼んでいいかどうか不明確な作品群ですが、同じ年に出来たあと2作のディヴェルティメント(K.205=K.290の行進曲とともに演奏される、K.131)についても、創作の動機は明らかになっていません。ただ、ディヴェルティメントは交響曲(シンフォニー)に比べると各パート、特に管楽器がより技巧的に書かれているのが特徴です。

K.205は(K.290と共に)2本のホルンとヴァイオリン1つ、ヴィオラ、バスという編成で、
Marchia(K.290、72小節)、Largo-Allegro(4/4)99小節、Menuetto(24小節) & Trio(24小節)、Adagio(4/4)21小節、Menuetto(26小節) & Trio(24小節)、Finale=Presto(2/4)214小節、という、やや小振りな作品です。

K.131(6月作曲)は演奏されることが少ないせいか有名ではありませんが、たいへんな名曲です。
編成がフルート、オーボエ、ファゴット各1、ホルン4、ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ&バス、と大きく、とくにホルン4本が採用されたのはモーツァルト作品では初めてで、その小協奏曲的取り扱いはベートーヴェンの「エロイカ」交響曲(こちらは3本で最大の効果を上げていますけれど)の先駆けを感じさせさえします。大先輩であるハイドンの交響曲に「ホルン信号」というニックネームのものもありますが、ハイドンの作品が牧歌的であるなら、モーツァルトのこのディヴェルティメントは超自然的です。また、これもフルートの活躍が目立つ点で同年のシンフォニーと共通しており、シンフォニーの時と同様、当時のザルツブルクのオーケストラのメンバーがどんなだったかに興味がひかれる思いがします。
それよりも驚くのは第2楽章のアダージョです。ときにビゼーを彷彿とさせる、足を引きずるかのような後打ちリズムが挿入され(演奏にあたって引きずるようにひいては台無しですから難しいのですけれど)、全篇が長調であるにも関わらず、思春期の胸の内を覗かせるような切なさが漂います。・・・モーツァルトでなければ書けなかったであろうと同時に、10代でなければまた込めようのなかったういういしさが溢れていて、初老のゲーテがこれを聴きながら若き日を回顧しつつ涙する姿を、つい想像してしまいます。
Allegro(4/4)129小節-Adagio(4/4)29小節-Menuetto(20小節),Trio I(20小節),Trio II(16小節),Trio III(16小節),Coda(24小節)-Allegretto(2/4)87小節-Menuetto(24小節),Trio I(16小節),Trio II(16小節),Coda(8小節)-Adagio(2/4),Allegro molto(4/4),Allegro assai(3/8)255小節
と、大規模な作品でもあります。

この年の機会音楽としてはもう一つ、「6つのメヌエット」K.164があります。K.131と同じ、6月の作です。
編成はオーボエ・ホルン各2、トリオでの管楽器はフルート1本、ヴァイオリン2とチェロ及びバス、と規模が縮みます。やはりフルートが活躍します。第3番のトリオがレントラー風であるところに新味を感じますが、今回採り上げた中では最も気楽に書かれたらしい、軽い作品で、K.205やK.131のディヴェルティメント中にあるメヌエットよりも地味です。舞踏会用の、様々な作曲家の作品に混じって演奏されたものだったのではないかと思います。

新全集(NMA)では、スコアはK.205(とK.290)は第17分冊、その他は第13分冊に含まれています。
K.136-K.138のCDはたくさん出ていますので、挙げません。オーソドックスなのはイ・ムジチなのかも知れませんが、まだ硬い気がします。コープマン盤は軽すぎるかなあと思えて、自分がろくろく弾けもしないくせに、お気に入りもさっぱり見つかりません。
K.131の単独盤は1種類だけタワー・レコードのウェブに出ていました。演奏の中身は分かりません。もし全集盤とおなじマリナー/アカデミーの演奏が単独盤で見つかるようでしたら、おすすめです。全集盤は"Complete Mozart Edition 2" PHILIPS 464 780-2で、13枚組です。
K.205は同じく全集盤で"Complete Mozart Edition 3" PHILIPS 464 790-2、11枚組の中に収録されています。
いずれも、K.131やK.205だけを聴くのでしたらちょっともったいないかも知れません。収録された演奏がすべておすすめ、というわけではないので。

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コメント

最近ではアンサンブル・ゼフィロという古楽団体がK131のめちゃくちゃ楽しい演奏を披露してくれていて、とてもオススメですよ。K205、K251とのカップリングです。

投稿: Bunchou | 2007年12月 2日 (日) 18時00分

Bunchouさん、お知らせありがとうございます。
早速聴いてみることにしました。
レヴューを読んだら、管のメンバーにもなにか資するところがありそうな気がしたので。

投稿: ken | 2007年12月 2日 (日) 22時51分

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