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2006年10月 4日 (水)

日本人による "Eroica"

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首の後ろが腫れ、会社を「休みなさい」と言って頂いたので・・・復帰後はまだ週4日ベースの出社です・・・お医者から帰ったあと、課題だった「エロイカ」をあらためて聴き比べしました。
病中の長話になりますが、おつきあいの程を。

およそアマチュアが範とする演奏を探すには「標準型」か「美響系」(こんな言い方があれば)を狙うのが無難かと思います。ただ、いずれにしても人間は主観が入りますから、これ、と決め打ちするのはまず無理でしょう。
「エロイカ」は私にとって聴いたのも演奏したのも初めての交響曲でした(メンバ−50人で観客[!]5人という演奏旅行も経験させてもらいました)から、ついつい自分のレベルも省みず、録音を探すのでも高望みしてしまいます。

1972年、ミュンヘンオリンピックでテロ事件が起こり、犠牲者の追悼でルドルフ・ケンペがこの曲の第2楽章を演奏したことが記憶に残っている方も少なくないと思います。私にとって「エロイカ」のベスト盤は、彼ケンペがベルリンフィルと録音したものです。
1940年代から70年代にかけてのベルリンフィルというのは面白いオーケストラで、フルトヴェングラーが振ってもカラヤンが振っても、また他の指揮者であっても、「これが俺たちの音色だ」という芯があり、表面は指揮によって違っても、底の方では同じ豊かな響きのする団体でした(同時期のウィーンフィルに当たり外れがあったのは有名で、私もベーム指揮のハイドンで大ハズレを食らったことがあります)。
ところがLPで聴いたケンペ盤はベルリンフィルからプラスαを引き出していて、かなり驚かされた記憶があります。とくに第1楽章の展開部、ベートーヴェン独自の「展開部での新主題」が現れる箇所は、それまでどんな実演や録音でも聴いたことのない、深い青の響きがしたのでした。CDで久しぶりに発見し、喜び勇んで買い帰りましたが、記憶にあるその音がしません。変だなあ、と思って、実家に帰ったおりLPで再確認しました。記憶違いではありませんでした。CDという媒体に変わったとたん、青色はくすんでしまったのです。
また、ケンペはミュンヘンフィルとの録音に臨んでも、若き日にベルリンフィルで行なった演出を同じように試みていることがはっきり分かるのですが、残念ながらミュンヘンフィルにはそれを再現する技量はなかったもののようです。もちろんレベルは決して低くはないのです。

指揮者が同じでも実演か録音か、録音したものがどの程度再現され得るか、またオーケストラが違うとどう変わるのか・・・ケンペのような例があるのだということを、まず念頭に置いて、今回はなるべく最近の日本人のオーケストラ、日本人指揮者の演奏を聴いてみることにした次第です。

前置きばかり長くなりましたが、「中置き」もございます。。。 m(_ _)m   <--カニではありません。

プロの指揮者や音楽家になるのは、最低でもそこそこ金銭的ゆとりのある環境に恵まれないとダメで(ジネット・ヌヴーのような素晴らしい例外はあります)、そんな中から「才能も!」となると、真の意味ではなかなか難しい面もあろうかと思います。3例聴いたのですが、ひとつは残念ながらそんな貧乏人のヤッカミにみごと応える演奏でした。タスキ(とはCDでは言わないのかな)に「まるで昔のウィーンフィルのようだ」とあるのを信用し、「日本から本物の音楽を発信する」という気合いに<むむ、いいぞ!>と胸躍らせつつ聴いたのですが、「国内外での豊富な経験を持つ」メンバーの存在が、おそらく裏目に出たのではないでしょうか? 指揮者云々以前に、まずオーケストラがあるべき組織として完成していない欠点が、とくに弦楽器に聴き取れます。みんな、と言ったら言い過ぎかも知れませんが、オーケストラの一員としてではなく、ひとりひとりの負っている「過去」を演奏しているようです。これは生の音では紛れますが、録音は嘘をつきません。録音のディレクターさんの技量や予算の問題もあったかも知れませんから、悪口ばかり言ってはいけませんが、とくに音程・アインザッツの乱れは覆うべくもありません。すこし貧乏なさった方がいいと思います。まずは、気負いより基本ではないでしょうか?(二年前の演奏にグチグチ言っても仕方ないのであります!)

本題。
あと二つは、実はそう期待して見聞きした訳ではなかったのですが、なかなか立派でした。

驚いたのが、金聖響指揮、オーケストラ・アンサンブル金沢の2003年のライヴCD。
ピリオド奏法・・・とのことで、たしかに、弦楽器はノンヴィブラート、ホルンは倍音にない音程はゲシュトップで出しているけれど、みんなモダン楽器でしょう? それだけなら「あれまあ、意欲的!」で終わるんですけれど、美しいし、確固とした演奏です。金さんという人はこれまで名前しか知りませんでしたけれど、かなりの勉強家でスコアをじっくり読み込んでいるのを感じます。まだ相当お若いでしょう? 尊敬しちゃいます。そんな彼に誠心誠意応えているオーケストラ・アンサンブル金沢は、いま日本でいちばん機動性のあるオケではないでしょうか?
二つだけ疑問があります。ひとつは、他がピリオド奏法に従う中で、ファゴットだけが(好い音ではあるんですけれど)なぜヴィブラート過多なのか? もうひとつは、第1楽章がクレッシェンドで山を築くとき、それまでスピッカートで弾いていた弦が何故長めのデタシェで弾かなければならなかったのか?
深い理由があるなら別ですが、この二点がなければ、ケンペ/ベルリンフィル盤と肩を並べる「標準型」・「美響系」を兼ね備えた演奏だと思います。日本人の手による日本人のためのお手本として、私たちアマチュアに学ぶべき材料を豊富に提供してくれるCDです。是非お聴き下さい。

大植英次氏が2003年にハノーファー北ドイツ放送フィルと行なった日本でのライブは、DVDで出ています。これは3回見るまで、果たして指揮者とオーケストラが本当に一体なのかどうか、よく分からない映像でした。撮映されているアングルの問題もあります。今日見た3回目で
「あ、ちゃんと一体化してるんだ」
と、やっと納得がいきました。納得がいくまでは、
「この人、オールフォルテで指揮する人だなあ・・・」

映像でしか拝見したことがないのですが、大植さんの指揮は映りようによっては大振りで、オーケストラによってはうるさがられるタイプだと見受けます。ですが、この人は
「本当に音楽が好きなんだなあ」
と納得出来ると、目に楽しい指揮者です。大坂クラシック最終日の涙のエピソードも忘れられません。
ただ、単に「目に楽しい」では、オーケストラが付いてこない筈です。この点、普段の練習で彼がオーケストラとの間に築き上げた信頼関係が、演奏を「標準型」に留まらない活き活きとしたものとする上で大きな意味を持っていることでしょう。東洋人初のバイロイト登場で、どうも随分叩かれたようですが、叩かれた理由は「情熱が勝ちすぎている」点にあったのではないかと推察しております。

(10月6日付記:この件、叩かれたのはどうも演出家の方のようですね。間違っていました。同時に、批判された演出家に関する大植氏のコメント、「いや、私はいい演出だと思いました」がさわやかで、気に入ってしまいました。いい人なんですね、このかた。次のバイロイトもこの人には必ず巡ってくる気がします。)

大植/ハノーファーのコンビの音楽は、十代の音楽です。・・・これは、まだ十代や二十代そこそこでも老け込みがちなアマチュア楽隊には見習わなければならない美点です。そこから先、大植さんやハノーファーのメンバーたちが自らの課題をどう乗り越えていくかは、彼ら自身の問題ではありますが、じつに楽しみでもあります。
大植氏は昨10月3日に50歳になったそうで、NDRのサイトに記事が出ていました
その元気な指揮ぶりは、あちらでは好意的に受け止められているようです。



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