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2006年9月29日 (金)

いのちの「モルダウ」〜フリッチャイ

TMFの皆さま、次回の分奏に行けず申し訳ございません。
お詫びを兼ね、以前メーリングリストで紹介した、フリッチャイによる「モルダウ(ヴルタヴァ)」の練習風景を、ムダな部分を削って掲載しておきます。掲載にあたり、外部サイトへのリンクを貼りました(同じ語彙へのリンクでも、原則として一つ一つリンク先が違います)本文共々ご参考になさって頂ければ幸いです。

・・・と、掲載の理由は身内向けですが、「モルダウ」とフリッチャイという人の素晴らしさを知っていただくため、長くて恐縮ですが、どなたもフリッチャイの言葉を味わって頂ければ・・・ひいては、音楽そのものの味わいそのものを楽しんで頂ければ、いっそう嬉しく存じます。

以下は、PIONEER CLASSICSのDVD「フリッチャイのスメタナ:交響詩<モルダウ>」(PIBC-1076)でのフェレンツ・フリッチャイのコメントを拾って字にしたものです。この映像の収録時、フリッチャイはすでに白血病に冒され、痛み止めを打って収録に臨んだとのことです。収録は1960年6月、逝去は1963年2月。48歳でした。

演奏のための練習に当たって、もしCD等を参考になさるのなら、
・まずスメタナ自身が示したガイドをみて頂き、
・次にフリッチャイがどの部分にどういうコメントをしているか
読んで頂き、
その上で、出来れば実際の「モルダウ」の演奏(リンク先にあるのはMIDI編曲のもの。アマちゃんでも演奏する立場では「ちょっと違うんじゃない」という印象が拭えないのですが、しかし、このMIDI版は相当頑張ってお作りになったと推察される優れモノです)を聴いてみて頂きたい、という趣旨です。
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スメタナが示したモルダウの構成を、曲にしたがって段落わけすると、次のようになります。

1)この河は二つの水源から発し(Fl、Cl):チェコ南西部に水源があるそうです。
2)次第にその幅を増してゆく。(モルダウのテーマ):スウェーデンの民謡に基づく?
3)両岸には狩の角笛と(ホルンを中心とした部分):以下、5まで展開部に相当
4)田舎の踊りの音楽がこだまする。(2拍子)
5)・・・月の光、妖精の踊り・・・(4拍子の静かな部分)
6)やがて流れは(モルダウのテーマの再現):この部分のみ再現部に相当
7)聖ヨハネの急流にさしかかり、波しぶきをあげて飛び散る。(荒れ狂う部分)
  :ここは「再展開部」とでも言うべきかも知れません。
8)ここから河はプラハ市に流れ込み(長調に転じたモルダウのテーマ):以下、コーダ
9)ここで河は、古く尊いヴィシェフラト(高い城)に敬意を表する。(終結部)
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この各部分に、フリッチャイはオーケストラに対し、実に丁寧な指示を行なっています。
スメタナのコメントを段落した上記の番号に沿って、それを列挙します。
ただ、残念ながら、5)〜7)の練習風景は収録されていません。
それでもかなりの分量であることがお分かり頂けると思います。
注目に値する発言ばかりですので、是非お読み頂けると、嬉しいです。
なお、()内は私が補足したものです。
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1)「この河は二つの水源から発し」

・始まりは遊び心を感じ、何もないところから小さな流れがわき出します。(Fl2本)

・「モルダウ」最初の小さな流れの誕生は、とても陽気で、生きる喜びにみちています。初めて太陽を浴びるのです。ここは小さな水滴(ハープ、ピチカート)と流れ(FL)の表現を、弦は1拍目のハープに応えて、水滴を色彩感で表して下さい。

・(復習の際に)ハープでヴィブラートが可能なら、最初のE音に使いたいですね(Joke!)

・(同じく)フルートの掛け合いのイメージをひとつ思いつきました・・・大嵐の後に、太陽が輝きはじめると、ミミズが一匹地面から顔を出して日光浴を始めました。今度は2,3センチ横でもう一匹顔を出しては日光浴を始めます。彼が先客に気づき、媚び始めると、一匹目が「マヌケさん、分からないの?私があなたの尻尾だって事」

・バイオリン(のピチカート)は、いまのようにフルートのブレスが必要なら、私(指揮者)ではなくフルートに合せて下さい。そして、流れ毎の差に注意して、よく聴くように。

・1番奏者だけでクラリネットとフルートの掛け合いをはっきりと。必要なところはフォルテにして下さい。(Clが、二つ目の水源)

・いまの一つの細い流れに、今度は二つ目が加わります。2本の流れが交差して、絡まりながら楽しげに進むのを聞かせて、主役を奪いあうかのように。

・(まとめ)音を間違えてもいいから、表現を確実に。

・(木管を誉めて)いまのは室内楽でした。4つの声部が微妙な起伏まで聞き分けられました。


2)「次第にその幅を増してゆく。」

・(復習の際に)「A」のトライアングルの指示は絶妙だと思いませんか?「エレガントに」。「エレガント」な音の奏法を尋ねる奏者は本物ではありません・・・尋ねませんよね。(Joke!)

・(弦のかけあい)そこのイメージは、まだ幼い存在に過ぎなかったものが初めて川になり流れ始める。一つの生命が河に成長したのです。幸福に、楽しげに、弦はクレッシェンドし、最高音をフォルテでしっかり弾いて下さい。(2nd、Vla、Vc)

・もっと響きを揃えて、階段状にならないで。この河は深刻になるには若すぎます。

・第1バイオリンは、スフォルツァートとマルカートではスフォルツァートを優先して。

・この曲でいちばん美しいのは祖国愛を感じさせる瞬間で、この旋律で始まります。

・ホルンはその旋律(モルダウのテーマ)から数えて3小節目をみずみずしい響きで。

・「繰り返し記号(原稿スコアにあるかな?旋律が2回目に繰り返されるところ、の意)」の3小節前のディミヌエンドは第1ヴァイオリンと一緒に弱めて、音量変化を揃えます。ピアニッシモに落ちてもかまわないので、強くはしないで下さい。

・(ホルンは)鐘の音を想像して、柔らかくひろがる音で。ヴァイオリンもホルンと同じ響きを。

・第2ヴァイオリンは16分音符の動きをよく聞いて。室内楽だと思って!

・「B」の6小節目のホルンはこう吹いてもらえますか? 伴奏にならず、アタックを強く、1番奏者の音が強く聞こえますが、1つのグループとして、まとまって4人の音を同じバランスで。音を短く。

・第1ヴァイオリン、木管、ホルンで8分の6拍子を意識して(受け渡しあう)。

・「B」で頂点に達します。ティンパニのトレモロは・・・「B」をもっと急激に強めて頂点まで達して下さい。突然岩にぶつかり轟くような響きで。もっと表現出来ます。

 
3)「両岸には狩の角笛と・・・」

・「C」の4小節前、ホルン・・・そこは、フォルテピアノですね。8分音符が聞き取れなければ。ただし、強くせず、ほかを抑えて実現します。・・・伸ばす音を抑えると、全方向からの返答が分かります・・・4番の動きを浮き立たせるため、他は長い音をすぐ弱めて、強い瞬間は短く、動きを聞かせ、かたまらず4方向から吹くのです。・・・8分音符でお互いに返事をすれば、どんなに楽しいか分かるでしょう。(ゆったりした音型になるところは)ディミヌエンドと書いてありますが、弱くせず強いままで。

・音楽の主導権はホルンにあります。必要なら弦楽器はフォルテをピアニシモで。

・トロンボーンは最後は消える。トランペットは狩の合図のつもりで。ファゴットはホルンをサポートして下さい。

・「狩の音楽」の8小節から12小節の間は、他が強すぎるとホルンとの音量関係が崩れます。・・・9小節目のホルン・・・ここはもっと歓喜が欲しい。ただし狩人ではなく、猟犬の喜びです。・・・トロンボーンは強すぎました。

・ホルンが1本呼びかけると、姿は見えずに答えが返ってきます。それを徹底すればソロらしくなります。ホルンの掛け合いは4本ともソロらしい音で。弦は抑えて。

 
4)「田舎の踊りの音楽がこだまする。」

・こう考えてもらいたい。テレビカメラがなくても、大勢の聴衆の前での演奏だと思い、音楽を視覚的に表現しましょう。農村の結婚式の場面です。いまより弓を長く使い、力強さと武骨さを表現したいのです・・・拳で机を叩くように地団太を踏む感じで。これは東欧的ですが、私も東出身です。どこからともなく強さが現れ、すぐに愛らしさが続きます・・・その強さを爆発させて、4分の2拍子の5小節目から弓使いを長く、弓の元まで使って、そうして力強く。

・とんだ弓を捕まえ再び弾き始めるように・・・飛ばすくらい!楽しい瞬間を組み込んで、そしてメゾフォルテを、その後のクレッシェンドの準備段階のつもりで。もっと田舎の響きで。

・トライアングルはエレガントな音からワイングラスを叩く音に変わります。ティンパニは長靴を踏みならすように。

・弓を長く使うにつれテンポが遅くなる(ので、注意して下さい)。

・どれほど素敵な気分なのか、分かっていないようですね。色鮮やかな衣装で活発に踊る人々が、突然身をかがめてしまう。そんな感じでしょう? かわいらしく・・・これを考慮してもらえたら感謝します・・・和音も気をつけて。

・最後の部分は・・・もっとかわいらしく。河だけが流れ去り、結婚式は続いています。私たちは農村を後にするのです。フルートの1番はEの14小節前でD音のシンコペーションを2番と一緒に吹き始めますね。そこから9小節は、村から響く小さな鐘の音のように。少し堅いタンギングで鐘の音を表して。

・低弦を聞いて。だんだんと暗くなっていきます。

ここまでで休憩に入り、
5)「・・・月の光、妖精の踊り・・・」
6)「やがて流れは」
7)「聖ヨハネの急流にさしかかり、波しぶきをあげて飛び散る。」
の部分は映像に収録されていません。返す返す残念です。
 
8)「ここから河はプラハ市に流れ込み」
9)「ここで河は、古く尊いヴィシェフラト(高い城)に敬意を表する。」
 ここはひと繋がりですので、最初のコメントは交錯しています。

・8)ピウ・モッソでは合流を続け、今や我等が(字幕では「ここで」とのみ)若き河は青年となり、このように流れていきます。急流となり、
・9)大砲火の洗礼を受け、この部分で彼の旅は終わりを告げます。「ヴィシェフラト」と書かれています。これはチェコの歴史上最も重要な地点です。「モルダウ」が何世紀もの間その前を流れつづけている場所で(注:プラハ城ではなく、プラハ市街図では通常南南東にこの地名が見られます。ついでながら、プラハ城のほうは作家カフカの住んでいた対岸のユダヤ人街からよく見えるようです。「ヴィシェフラト」のほうは、プラハ草創の女王リブシェ[スメタナには彼女を主人公としたオペラ作品もあります]が住んでいたと言われる7世紀の城塞跡とのこと。「モルダウ」を第2曲とする連作「我が祖国」はこの「ヴィシェフラト」を象徴する曲で幕を開くことは、どなたもご存知のとおりです)、この国の神聖な地点です。音楽ではこの部分です。(ヴィシェフラトの主題[ソ・ドーーシ|ソ・ラーーソ|ミ・]は)気高いフレーズです。


8)「ここから河はプラハ市に流れ込み」

・「K」の7小節目からは、ただのピアニッシモにはせず、激しさのあと、ヒョウが飛びかかる瞬間を待っています・・・爆発させて下さい。(ピアニッシモで)飛びかかる準備をして下さい。

・ピウ・モッソからの響きを私と一緒に楽しむなら、管楽器は抑えて。弦が無理に弾く必要がなくなり、この表現が出来ます。
・・・生きるとは素晴らしい、と歌っています。・・・そう、生きることは本当に素晴らしい。

 
9)「ここで河は、古く尊いヴィシェフラト(高い城)に敬意を表する。」

・クレッシェンドがまだ額面通りでした。こうです・・・盛り上がりのあと、トランペットで最後の王冠をかぶせます・・・それから後は、最後の情景的な表現をお願いします。(弦を見て)私たちは河の視点で旅をしてきましたが、河を離れ、山の上に立っています。この愛すべき河は流れ去っていきます。ここです・・・どんどん遠くへ流れていき、最後は細い流れになります・・・急いで通り過ぎて行くのです。そこで現れるクレッシェンドの波は別れの挨拶と思って(下さい)。・・・一筋の流れが残ります。最後の瞬間まで歌います。我慢して。

・(最後の小節の)前の拍でイン・テンポになります。

・(オーケストラが重く締めくくったので)最後の響きを今のタイミングで欲しかったらこう振ったでしょう(と、振りをして見せて)・・・重さは要りません。そのかわり、私の動きに合わせて音を出して下さい。

(フリッチャイのコメント、以上。)

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