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2006年9月24日 (日)

Mozart:教会ソナタ1772年

モーツァルトは生涯に17曲の教会ソナタ(書簡ソナタ)を書いています。
父のレオポルドは3楽章のものを残しているそうですが、ヴォルフガングの方は全て単一楽章。加えて、最初の1曲を除き、すべてアレグロの作品です。小節数も、K.224、K.225、K.244(以上1776年頃作)、K.278(1777年)、K.328、K.329(以上1779年頃)、K.336(1780年)を除くと100小節に達しません(この中でいちばん短いK.224は101小節)。編成は1779年と推定されている2曲だけに管楽器などが加わるものの、残り15曲はすべてヴァイオリン2、バス1にオルガンというトリオソナタの規模となっており、慣例としてはこれらをオルガン協奏曲のようにして演奏するようになっています。・・・というのも、これらのソナタは、ミサの最中、新約聖書にある使途の書簡を朗読するために司教が登壇する際、ミサの伴奏をしているオーケストラが演奏したと考えられているからです。

一連の「書簡ソナタ」は、こうした次第で17曲まとめて取り扱ってもいいくらいなのですが、79年頃の編成の一時的拡大のこともあり、作品が聴かせる響きはその年その年のヴォルフガングの感性・技術力と密接な関係があるので、曲そのものは年ごとに追いかけてみようかと思います。

教会(書簡)ソナタには面白い問題を見いだすことが出来ます。
「ミサの最中、新約聖書にある使途の書簡を朗読するために司教が登壇する際演奏されたと思われる」
といいながら、その実体が分かっていない、とされているのです。

1776年、ヴォルフガングは対位法の師マルティーニに、ザルツブルクのミサが短い理由を綴った有名な手紙を送っています。これは書簡全集を始め多くの書簡集に掲載されているもので、平易なイタリア語で書かれています。原文で引用します(文字は英語のものを用います)。

"...la nostra Musika di chiesa e assai differente di quella d'italiana, e semple piu , che una Messa con tutto ---Il Kyrie, Grolia, Credo, la Sonata all'Epistola, l'Offertorio o sia Motetto, Sanctus ed Agnus Dei..."(後略)
(私たち[ザルツブルク]の教会音楽はイタリアのものとはずいぶん違っており、それだけではなく、ミサではキリエ、グローリア、クレド、書簡ソナタ、連祷かモテト、サンクトゥスに次いでアニュス・デイ・・・)

この後、ヴォルフガングは、「荘厳ミサでも全体で45分を超えてはならない制約があることについて言及しており、上気した部分を含め彼のザルツブルクでのミサ曲が短い証左としてよく引用されます。

"la Sonata all'Epistola, l'Offertorio o sia Motetto,"
とある部分以外はミサ曲の順番通りに記されていることが素人目にも明白であるにもかかわらず、カルル・ド・ニ『モーツァルトの宗教音楽』(白水社 文庫クセジュ700)ではあっさりと
「福音書の朗読の前に演奏された」(!)
と綴っています。当時のローマカトリックの典礼に従えば、この場合、「書簡ソナタ」はクレドの前に演奏されたことになります。書簡朗読の前、だったとしても同じことです。・・・新モーツァルト全集(NMA、第17冊)の解説にはミサの中で演奏された順番についての記述がありませんし、他に目にした書籍では書簡ソナタへの言及そのものがないため、学者さんたちがどのように考えているのかは分かりません。が、私の持っているCDの解説では
「いったいミサのどの部分に置かれたものかは、正確には分かっていない」
と記されていて、そのあとに
「マルティーニ師宛ての手紙では、クレードの次に挙げられているが、これはそうした順序を示すものとは思われず」
云々と続いています。
しかし、ヴォルフガングの書簡は、「書簡ソナタ(=教会ソナタ)」以外の場所は(連祷の位置を含めて)順番を典礼通りに記しています。ですから、「書簡ソナタ」についてもヴォルフガングは順番を守って書いているかも知れず、この場合、ザルツブルクでのミサはローマ典礼の順番とは違って、書簡朗読ないし福音書朗読はクレドの後に置かれていた可能性が示唆されていると考えられなくもないはずです。

アインシュタインはケッヘル第6版で、最初の教会ソナタ3曲(K.67〜69)の置き所に迷い、これらを1767年作であると考えました。
これはモーツァルト親子に寛容だったシュラッテンバッハ大司教生存中に書かれたレオポルドの教会ソナタが3楽章であったのに対し、ヴォルフガングのソナタ群は最初から1楽章だけであることをもって、先のカルル・ド・ニの著作では、コロレド大司教着任後の1772年作であり、アインシュタインの考えが正しい可能性は極めて薄いとされています。
さらに、NMAの解説はまた、エーリヒ・シェンクがこれら3曲を検討した結果、K.68に見られる対位法的な書き方、K.69での流れるような3和音の取り扱い方はマルティーニ神父の指導を受けた後であると結論したことを述べ、編者としてもド・ニと同じか彼に近い考え方であることを示唆しています。
ただ、これら最初の3曲のソナタは、明らかに1772年の作品だとされている2曲(K.144、K.145)と違い、低音に数字がついていません。新全集への校訂譜掲載時(1957年)には最初の3曲の自筆譜は発見されていなかったことが全集のあとがきから分かりますので、数字の有無は伝承に従ったものだったと思われます。
サンプルで掲載されている後年の自筆譜で数字付低音になっている作品は校訂譜も数字を付してあり、自筆譜上数字がないものは校訂譜も数字がありませんから、最初の3曲の伝承は数字なしだったのかと推測されますし、この点、1986年までには自筆譜が発見されているにもかかわらず訂正を受けていませんから、伝承には間違いがなかったもの、と私は受け止めております。
であれば、数字のない最初の3曲と、数字付の後の2曲は、それぞれ別の時期に手掛けられたことは明白だと考えるのが妥当でしょう。

1772年作の各ソナタの概要は以下の通りです。
K.67:変ホ長調(3/4拍子)、44小節。この作品だけがAndante。
K.68:変ロ長調(4/4拍子)、26小節+36小節
K.69:ニ長調(4/4拍子)、28小節+32小節
K.144:ニ長調(4/4拍子)、27小節+47小節
K.145:ヘ長調(3/4拍子)、37小節+55小節

1964-65年にマリー=クレール・アランがパイヤール管弦楽団と残した録音(Erato WPCS-22110)はケッヘル番号順ではない配列での全曲演奏で、変えられている順番は聴きやすさに配慮したのだと分かる、楽しいCDです。
彼女は最初の3曲をオリジナルの譜面より自由に、後の2曲も前半部の繰り返し前、後半部(繰り返し記号がありますが、演奏ではK.144以外は繰り返していません)は譜面通りであるものの、繰り返した際には著しい変化をつけて、即興的に弾いています。それがまたモーツァルトの精神に叶った響きとセンスであると感じられる、よい演奏です。

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