« Mozart:1771年のシンフォニー | トップページ | Mozart:宗教音楽1771年 »

2006年8月 8日 (火)

Schostakovich第5CD(1):ムラヴィンスキー

TMF団員の方に夏の間に参考として頂くのを主な目的として、ショスタコーヴィチ交響曲第5番の録音のうち、私が耳にしたものについて、「なるべく客観的に(!?)」レポートしてみます。
とはいえ、世に決定盤と言われるものは殆ど耳にしていません(スヴェトラーノフロジェストヴェンスキー等、未聴です・・・付記:後から聴きました。指揮者の名前をクリック!)。それらについてはショスタコーヴィチ大好きな方々がWebで詳細に報告して下さっていますので、より広くはそちらをご参考になさって下さい。とりあえずは入口として、ショスタコーヴィチの演奏に命を懸けていらっしゃる「オーケストラ・ダ・スビダーニャ」の頁にリンクを貼らせて頂いておきます。

本題です。
第1弾は、この曲の初演者であるムラヴィンスキーの演奏にスポットを当ててみます。

日本ムラヴィンスキー協会のディスコグラフィ(天羽健三氏、Frank Forman氏編、2000,2006)によると、第5の録音はムラヴィンスキーは12種残しており、ショスタコーヴィチの交響曲の録音数としては第2位の8番(6種)の倍となっています。これはムラヴィンスキーの嗜好からよりは当時のソ連の意向がはたらいての結果かも知れませんが、この点はあくまで推測でしかありません。最古の録音は初演の翌年(1938)(70年代あたりと違い、第1楽章前半などはずいぶんゆっくりです。メトロノーム記号の速度を守ったという感じ。しかし、ムラヴィンスキーらしさは既に出ています)、最新のものは指揮者逝去の4年前(1984)と、年代の幅の広さもこの指揮者の演奏を聴くときの留意点です。古いほうから三番目か四番目の録音を聴いた事がありますが、古い時期の録音方法では、たとえば弦が各トップ個人の音だけを大きく拾ったりしていますから、ムラヴィンスキーの演奏として最初に入手すべき候補ではない、と思います。
ベスト状態のものは1973年の東京でのライヴ盤だと言われていますが、最近の発売当初、私は財布を同じ来日時の他の曲と天秤にかけて購入し損ねてしまいました。しかし、同年収録のレニングラード(現サンクト・ペテルスブルク)での映像とセッション録音が残っており、その内容の濃さから類推して、73年東京ライヴ盤から入っていくのが最良だと考えられます。(8月30日追伸:ふるたこさんのページ(ムラヴィンスキー)掲示板を読ませて頂くと、82年の演奏が素晴らしい由。8番の録音を参考にすると、間違いないのかな、と推測されます。残念ながらタワーレコードとHMVのオンラインショップでは見つけられませんでした。)
最後の84年盤については、当初は解釈が変ってしまったような印象を受けましたが、注意深く聴くと紛うかたのないムラヴィンスキー流の演奏です。ただ、73年に比べると、個々人の技術は上がっていると思われるものの、アンサンブルに不均衡が感じられる箇所が多くあります(楽章の最初の出に神経の集中度が低い、管[とくにホルン]が走るかリズムが甘い、弦の細かい音符に乱れが多い、等)。こうした点は、73年のリハーサルを収録したCDが残っていますので、翻訳をスコアと共に参照しながら73年リハーサルでのムラヴィンスキーの要求に傾聴すると、同様の要求がなされていれば起こりえない現象であることが、どなたでも理解出来ると思います。84年には少なくともオーボエ・ホルン・トランペット・弦はコンサートマスターは、73年とはメンバーが入れ替わっていることが録音からはっきり分かります。

リハーサルについては別途採り上げることとし、CDではなく映像の、73年の演奏に注目しましょう。
(現在でも新品を売っているのは目にしましたが、「在庫限り」かもしれません。中古が出回っています。9月にリプレス発売されます。)
この映像、ところどころ、うまくいった箇所や楽章の変わり目でムラヴィンスキーの笑顔が見られます。「練習に厳しい人」という側面だけが浮き彫りにされがちですが、オケにとっていい親父さんだったことが伺われ、見ていて嬉しくなります。・・・その点、84年の演奏の背後には、何か暗いものを感じずにはいられません。何故でしょう?

大きな特徴にだけ触れます。(以下では言葉にしていますが、映像中ではもちろん身振りだけです。)なお、私の綴り方だと「いかにも抑えた演奏」という印象をお受けになると思いますが、そうではありません。起伏の激しさの中にも、リズムの正確さとニュアンスの正しさを保ちなさい、というのが彼の方針であったことは、リハーサルでの言葉からはっきりわかります。その中の一つ、第4楽章については、彼はこう言っています。

ちょっと・・・すべてが荒削りの境地(境界か?)を超えています、全体にあらっぽいです。

ムラヴィンスキーは、原則として各楽章とも、メトロノーム記号が八分音符のところは八分音符一つずつ、同じく四分音符であれば四分音符一つずつ、二分音符であれば二分音符ずつを振っています。つまり、メトロノーム記号で「単位」とされている音符を1拍として指揮しています(メトロノーム記号の「速度で」指揮している、ということではありません。この速度には問題が有るらしく、ダスビダーニャさんの「曲目解説」をご参照下さることをお勧めします)。ですから、たとえば第2楽章では一つ振りになることは全くありません。
ただし、「ここはオーケストラに任せるヨ」という箇所では拍の振りを和らげ、「一つ振り」に近い振り方になることはあります。木管のソロに関しては奏者任せにする度合いが高いようです。また、弦の細かくて速い箇所は、細かく突っ込むのではなく、逆に大きめの拍で振り、奏者に落ち着きを求めているかのようです(第4楽章の練習番号107番[弦の激しい箇所]では、その前後が4つ振りであるのに、4小節間だけ2つ振りにしています)。
また、金管に対しては、入りをはっきり合図しますが、ディナミークについてはワンランク落とさせるような、押さえ気味の振りを見せています。先程の第4楽章でのリハーサル中の言葉に関係するかと思われます(リハーサルの方を後で聴きましたので、先入観では映像は見ていないつもりです。)

各楽章の顕著な特徴を若干ずつあげますと(スコア参照。私はまだ全音の版しか所有していません)、

*第1楽章:練習番号27番のPoco sostenutoでは前からのテンポを変えない。同31番は2小節間のみ2つ振り。同36番2小節前からは顕著なリテヌートで、36番には大きく一つ区切ってはいる。

*第2楽章:練習番号60番のフルートにはritさせない。同61番2小節目の弦の八分音符はベタ弾き。66番からはピアノ(弱く)だが、大きく振り、はっきり演奏させている。70番のトランペットはフォルテシモだが、ワンフォルテ程度の指示。

*第3楽章:練習番号90番の前は、いったん切り上げる。96番のハープ、チェレスタに明確な指示を出している。最後3小節は音の入り直しを指示する以外は拍を振らない。

*第4楽章:練習番号98番5つ前からテンポを上げる(アチェランドは全音版スコア上は3小節前から)。104番トロンボーンに明確な指示は出すが、強度は指示せず。117番7小節目ホルン、はっきりだが弱く、という指示。120番低音弦のエスプレッシヴォは強め、大きい幅で指示。121番から4つ振り。122番の裏拍から2つ振り。128番からは1拍1つの振りに戻る。131番のトランペットは抑制させている。

・・・といったところでしょうか。あげていくときりがありませんので。

なお、この映像は、様々な徴証から、リハーサル日と同じ1973年5月3日に行われたセッション録音と同一演奏であると思われますが、ディスコグラフィでは分かりませんでした。非礼ながらディスコグラフィの編纂をなさった天羽さんにメールを入れ、ご質問している最中です。タイミング関係等、細かい点は省略しますが、管楽器がトラブルを起こしている箇所が双方の演奏で同じであることが決定的ではないかと考えています。ご確認可能なかた、情報をいただければ幸いに存じます。

2006年9月15日、天羽さんよりご回答をいただきました(クリック下さい)。

このような背景から、リハーサル盤も併せてお聴き頂ければ嬉しいのですが、9枚組で高価ですから、無理にとまではお勧めできませんネ。。。残念!



エフゲニー・ムラヴィンスキー


DVD

エフゲニー・ムラヴィンスキー


販売元:ニホンモニター・ドリームライフ

発売日:2003/08/20

Amazon.co.jpで詳細を確認する

下は84年の演奏です。



ショスタコーヴィチ:交響曲第5


Music

ショスタコーヴィチ:交響曲第5


アーティスト:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

販売元:ビクターエンタテインメント

発売日:1997/03/21

Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« Mozart:1771年のシンフォニー | トップページ | Mozart:宗教音楽1771年 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« Mozart:1771年のシンフォニー | トップページ | Mozart:宗教音楽1771年 »