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2006年8月30日 (水)

Schostakovich第5CD(8):ロジェストヴェンスキー

旧ソ連の指揮者たち、恐るべし!

それまでも小さな仕事ではショスタコーヴィチとの直接関係は皆無ではなかったものの、ロジェストヴェンスキーの最大の業績は、オペラ「鼻」を、そのロシアで復活上演したことでしょう。
ロシアでは創作当初(1930年)にしか上演されず、その後ヨーロッパでは何度か採り上げられているものの、母国では実質上葬り去られていたオペラを、1774年9月12日、彼は2年前に出来たモスクワ室内音楽劇場を指揮して「鼻」の上演に携わり、大成功をおさめました。作曲者の死に先立つこと、わずか11ヶ月でした。

そういう耳で聴いてはいけない、と思いつつ、ムラヴィンスキーコンドラシンバルシャイスヴェトラーノフと同じように、ロジェストヴェンスキー
「ショスタコーヴィチとは劇作品で大きく関わった」
ということなしに、その演奏の特徴を捉えることは不可能のように思われてなりません。
私が手に出来たロジェストヴェンスキー盤「ショスタコーヴィチ交響曲全集(1983〜86録音)」は、昨年ヴェネツィアレーベルから出たものです。どの作品についてもドラマチックさが特徴で、しかもそれがたとえばコンドラシン的なドラマチックとは異なっているのです。聴いただけの印象とは異なり、
「シナリオに忠実に、しかし最大限に作品の劇的構造を活かす」
演奏だと感じるのです。75年の「鼻」の大変優れた録音と比べても、ロジェストヴェンスキーは同じ路線の延長線上に交響曲に取り組んでいる気がします。数曲しか検討していませんが、どの交響曲についても、スコアへの忠実度は(ムラヴィンスキーをも通り過ぎて)最も高い指揮者です。なお、ロジェストヴェンスキーは、ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの2度目の訪英時に若手指揮者として同行しています。

ロジェストヴェンスキーの交響曲全集は、エンジニアが大きく3代に渡って変わっており、それぞれのエンジニアの癖が大きく出ているようにも思われました。
1983年、6番と11番のエンジニアを務めた人の録音による演奏が一番自然ですが、この人は2曲で降りています。
2代目の人は84年に12番と7番、それからもう一人のエンジニアとともに5番を担当していますが、大きな癖があります。特に7番では、使用したマイクの、エコーを出すためのスプリングに起因する不自然な「ワオンワオン」という残響が数カ所はっきりと聴き取れます。
残りはすべて3代目のエンジニアが担当し、録音状態はおおむね良好ですが、83年よりも良い機材を使ったのか、声部のチャンネルをしばしば移動させています。
そのような条件を超えて、しかしロジェストヴェンスキーの演奏は全般に冴えている、と言えるでしょう。

第5は、エンジニアを2人も投入し、気合いを入れて(?)録音されたもののようです。
しかし、それが災いしている面も少なからずあるかな・・・
おそらく、全交響曲中、使用したマイクの本数が最も多いのではないでしょうか? 各パートにずいぶんと密着して音声を拾っていることが伺われ、全体が生演奏では有り得ないバランスです。
もともとロジェストヴェンスキーは、「鼻」のごく普通な録音でも打楽器の扱いに「ドラマと色彩」の重点を置いていることが分かりますが、そして、それ故に極めて20世紀後半から今世紀にかけての音楽センスを持ち合わせた人だということも言えるのですが、録音の問題は打楽器以外、とくに弦楽器に大きく現れています。第3楽章のチェロの響きは、ロジェストヴェンスキー自身のスコアの読みにかなり不忠実な「大きすぎる音」がし、しばしば弦楽合奏の和声と融合のバランスを崩す結果になっています。管楽器のソロ部分の録音上の誇張も、第5本来の味を崩す箇所があるように感じました。かつ、まるでライブ録音か、と疑わせるほど、管楽器がミスしてもそのまま突っ走る勢いがあって、爽快に思う人は爽快でしょうが、気にしだすと
「何故こんな録音を!?」
と、エンジニアが正気かどうか疑いたくなります。こんな録音は、全集中、この第5だけです。・・・こうした点が、2代目のエンジニアの降板が早まった一因なのではなかろうか、と勘ぐっております。
そうした録音上の難点は感じるものの、先に述べた通り、演奏としては「スコアへの読みの忠実度が最も高い」優れた演奏であることまでは覆い隠されません。傾聴すべき指揮者であり、演奏です。

ひとつだけ、解釈上で気になるのは、アクセント音を部分的にスタカートと混同しているように思われる点で、第1楽章冒頭の弦は聞き慣れればたいして苦にならないものの、終楽章大詰め前のトランペットは吹くなり唇を露骨に閉じているために音がまるでクルマのフロントガラスにに衝突してベチャッと張り付いてしまった虫のようで、ちと体がムズムズします。

色々言っても、第5の「演劇的効果」を読み取るには好適であることに変わりはなく、これからショスタコーヴィチの全交響曲を聴く方にはお薦めしたい全集です。

なお、ショスタコーヴィチ交響曲の様々な演奏録音比較(とくにムラヴィンスキーとロジェストヴェンスキーについて)には、ふるたこさんのページをお薦め致します。

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