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2006年8月 6日 (日)

Mozart:1771年のシンフォニー

Mozart:1771年のシンフォニー
付)CDの「モーツァルト交響曲全集」について

1771年の作品(各項をクリック下さい)
交響曲宗教曲救われたベトゥーリア
アルバのアスカーニョ・シピオーネの夢(未)・その他(未)
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舞台作品が3つもある1771年を当たり始め、日本語文献も当初よりは読み進み、
「うーん、ワシの語学力ではやっぱり外国語は誤読ばかりじゃ!」
との認識を深める今日この頃。・・・過去分の誤りはいずれ(遠い先に?)修正します。すみません。
また、「味わう、聴く」各曲の特色を添え、楽譜情報やディスコグラフィのリンクを加えるのが筋かと考え、構成も若干変えてみます。

(長めの記事ですみません。K.114[第14番]は是非聴いてみて下さい!)
CDは初期作品はほとんど<全集>で聴く事になります。記事後半をご残照下さい。

第2回イタリア旅行のこの年に作られたと判明、または推測されている交響曲(シンフォニー)は次の6作品です。ほぼニ長調一色だった前年と違い、調性もヘ長調、ト長調、ハ長調、ニ長調の4種となり、中には短調楽章も含まれ、早くも成熟期の作品に繋がる表現が見られるなど、深みを増しているのに興味を惹かれます(各作品の<特色>残照)。

スコアは全て"Mozart : Die Sinfonien II" Baerenreiter Urtext ISMN M-006-20446-3、またはNMAペーパーバック版スコア第11巻247頁以下の"Serie IV Orchesterwerke SINFONIEN BAND2"に含まれています。

各作品への<特色>以外の注記は上記スコアの前書きによります。校訂上の音符、アーティキュレーションの変更等については、聴いた演奏との間に特別な違いが存在しない限り注記しません。
なお、ファゴットは明記されていない限りバスパートを吹くか否かは任意となっています(前年以前と同じ)。

in F K.75(2Ob,2Hr,Str):Salzburg,早春〜42番
*自筆稿は散佚。楽譜は旧全集(AMA)に準拠。
1.Allegro(3/4,136bars)展開部の成熟していないソナタ形式
2.MENUETTO(3/4,26bars) & Trio(in B, 16bars, Str.)
3.Andantino(in B, 2/4, 60bars,2Ob,Str)二部形式
4.Allegro(3/8, 103bars)ロンド形式
<特色>
まだバロックないし前古典期の名残を残す作風ですが、交錯を伴う声部の連繋(第1楽章の1st・2ndヴァイオリンおよび2ndヴァイオリン・ヴィオラ)、またそれとは対照的にヴァイオリンのユニゾン(第1楽章、第2楽章、第4楽章)やオクターヴ(第3楽章)の響きの面白さを逍遥する楽しさに目覚めた作品です。第2楽章がメヌエット、第3楽章が緩徐楽章、というのもユニークです。第1楽章は冒頭の動機を呈示部の結尾で反転利用したり、と、作曲術にも進歩を示しています。メヌエットは、彼の半音階好きの初期的兆候を見せていますが、ほんの瞬間的な利用にとどめています。終楽章のロンドをピアノ(弱音)で終わらせているのは、彼の茶目っ気でしょうか?

in G K.110[75b](2Fl,2Ob,2Fg,2Hr,Str):Salzburg,6月〜12番
*自筆稿の署名部分はLeopoldの筆
1.Allegro(3/4,157bars, 2Ob,2Hr,Str)ソナタ形式
2.Andante(in C, 2/2, 52bars,2Fl,2Fg,Str)
3.MENUETTO(3/4,40bars, 2Ob,2Hr,Str) & Trio(in B, 20bars, Str.)
4.Allegro(2/4, 103bars,, 2Ob,2Hr,Str)
<特色>
ユニゾン利用などにつきK.75の応用編で、前作の古風さが吹っ切れ、第1楽章冒頭から楽想が幅広くさわやかになっています。晩年の交響曲第39番の、力強く若々しい前身作品だとの印象を受けます。第2楽章はカノン的な作法を取り入れ、弱拍でわざと2度をぶつけたりしており、ここがきれいに響くかどうかが演奏者にとっては音程感覚の善し悪しの試金石となります(ピノック盤でははっきりぶつかっていますが、ホグウッド盤では音程感を変えてあることにより衝突が回避されており、ラインスドルフ、ベーム、テイト盤では2度の上の音を弱めに演奏させることで回避しています)。第3楽章のトリオはモーツァルトの半音階趣味をより前面に出しており、原則ホ短調なのですが、一種不思議な雰囲気を持っています。弦楽四重奏曲「ハイドンセット」中の『不協和音』の祖型と見なしても良いかと思います。

in D K.120[111a](2Fl,2Ob,2Hr,2Trp,Tim,,Str):Milano,8月末
最初の2楽章は「アルバのアスカーニョ」K.111の序曲。
交響曲稿。もともと独立稿として存在したプレストはアンドレの推定により第3楽章に位置づけられた(編成、調性から考えても自然である)。
1.Allegro assai(4/4,134bars)
2.Andante grazioso(in G, 3/8, 42bars, without Trp. & Tim)
3.Presto(3/8, 110bars)アインシュタインの推定では1771年秋の作
<特色>
オペラ(セレナータ、祝典劇)『アルバのアスカーニョ』は最初の2楽章のあとバレエ(合唱)に突入していくのが本来のかたちですが、バレエの無い上演でも可能なように第3楽章を用意しておいたもの、と考えられています。この年の6作の中で唯一の完全な「イタリア風シンフォニア」です。祝典劇にふさわしい華やかな第1楽章、「嫌いな楽器」であるはずのフルートが美しい第2楽章は、グルック風な響きがする点、71年の作品中では異色な存在かも知れません。

in C K.96[111b](2Ob,2Hr,2Trp,Tim,,Str):Milano,11月〜46番
*自筆稿散佚。楽譜は旧全集(AMA)に準拠。
*72年10月〜73年3月作(ルチオ・シッラとの情感の類似から。ヴィゼワ・サンフォア)との説あり。
1.Allegro(4/4, 69bars)
*32-33小節目のホルン、新全集は旧全集の表記に原典との相違を推定し、修正案を併記。
2.Andante(in c moll, 6/8,43bars,without Trp. & Tim)
3.MENUETTO(3/4,28bars) & Trio(24bars,without Trp. & Tim)
4.Molto allegro(2/4, 120bars)
<特色>
これも祝典的な、響きの華やかなシンフォニーです。第1楽章の、音階上昇の装飾を伴うトニカ三和音の上昇音型はモーツァルトが好んで用いるようになるモチーフの一つで、早くも翌年にはディヴェルティメントと呼ばれている3曲の弦楽四重奏(または弦楽合奏曲)の3曲目、ヘ長調K.138に再び現れます。このシンフォニーの第1楽章は、三和音と音階を組み合わせて基本骨格を構成しており、モーツァルトは決して「インスピレーション」だけではない、しっかりした構成観を持って作曲に臨んでいたことの好例の一つです。
この作品で最も興味深いのは、第2楽章、ハ短調のシチリアーナです。強拍をピアノ(弱音)、弱拍をフォルテ、と重心を逆転させることにより、何か重たいものを心に抱えている印象を生み出していますが、その重荷はまだ成人のものにはなっていません。そのため、大人のほうが演奏には困難を覚えるかも知れません。現に、ピノック盤以外はこの楽章の求める「再生」は成し遂げていません。ピノック盤でも「辛うじて出来た」という程度です。

in F K.112(2Ob,2Hr,Str):Milano,11月〜13番
*自筆稿の署名部分はLeopoldの筆
1.Allegro(3/4, 124bars)
2.Andante(in B, 2/4, 64bars, Str.)
3.MENUETTO(3/4,16bars) & Trio(16bars, Str.)
*Leopoldの筆
*後日の作ではなく、他楽章と同時に作曲されたものをLeopoldが筆写したか、またはLeopoldの作品であるかのいずれかと思われる。
4.Molto allegro(3/8, 123bars)
<特色>
K.96とは逆に、下降する3和音で曲が開始する仕掛けになっています。K.96が72年後半の作ではなく、71年11月創作で間違いないのであれば、連続して作ったかも知れず、モーツァルトの実験魂を示している可能性があります。ただ、第2楽章が他の作品とは異なったウィーン風のイメージを持っている(もしくは、ハイドン兄の緩徐楽章に似ている)点が私には気にかかります。こちらのほうが創作時期は71年11月で間違いが無いだけに、この時期何が彼の脳裡にあったのか、謎に感じるのです。その他はあまり際立ったところがない、71年の作品中では最も平穏無事なシンフォニーではあります。

in A K.114(2Fl,2Ob, 2Hr, Str):Salzburg,12月30日〜14番
*自筆稿の標題部分は自筆、署名部分はLeopoldの筆
1.Allegro moderato(2/2,139bars : 2Fl, 2Hr,Str)
2.Andante(in D, 3/4,62bars :2Ob,Str)
3..MENUETTO(3/4,16bars : 2Fl, 2Hr,Str) & Trio(a moll, 24bars, Str.)
*作曲者自身が非採用とした異稿あり。
4.Molto allegro(2/4, 174bars)
<特色>
71年最後のこの作品は不思議な存在です。第1楽章、第2楽章とも、2つのヴァイオリンパートだけで開始されますし、第4楽章も和音の強打とヴァイオリンの二重奏が交錯する開始部を持っています。また、イ長調故の音域設定の関係でしょうか、通常は第2楽章でオーボエから持ち替えられるフルートが、逆に第1,3,4楽章で活躍するのも異様です。ただし、これにより音域が高目に偏心しているため、響きは清らかなものとなっています。第2楽章はフルートからオーボエに持ち替えられます。この緩徐楽章は、拍子(3/4)といい音の流れ方といい、『レクイエム』のレコルダーレを彷彿とさせます。第4楽章のロンド74小節目には、K.96に続き、彼が愛用することになる「ソーファミレド」の音型が登場します。これはクリスチャン・バッハに由来する動機だそうですが、モーツァルトは翌72年、この動機を使った印象深い作品「ディヴェルティメントニ長調K.136」第1楽章を作ります。
彼の精神に何が起きていたかは、ザルツブルクに戻ったあとなので、書簡などから伺う、という手段がありません。ただ、2つのことが注意を引きます。ミラノを発つ少し前、11月30日の書簡に、
「ミラノの大聖堂前で4人が絞首刑になったのを見た」
という報告があり(彼はこのとき初めて絞首刑の現場を見たわけではありませんが)、ザルツブルクに帰着した翌日の12月16日、ザルツブルク大司教でモーツァルト父子の保護者であったシュラッテンバッハが死去しています。
K.114に、別段死の影がさしているわけではありませんし、あくまで私の主観なのですが、この作品にはヴォルフガングの何らかの精神的転機を感じ取らずにはいられません。

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CDによる「モーツァルト交響曲全集」について:

モーツァルト初期の交響曲はアーノンクール盤を除き全集でないと聴けない場合がほとんどです。
認識している限りでは、特別に廉価のもの2つを除いて個人指揮者の手による全集は6つありますが、マリナーによる全集はLP時代に聴いて、後期作品、とくに39番の管と弦のピッチの違いが激しいのに辟易し、CD化されてから購入していません。以上6つの特徴を感じたままに掲載しておきます。
以下のうち、1770年以前の作品はピノック盤の軽妙さが抜群かと思います。1771年以降の作品になってくると、ベーム盤は、重めの演奏ではありますが、管・弦のバランス、楽譜への忠実度(一部旧全集によるようです)につき、全集としてはこれまでのところ最も順当な響きが聴けるのではないかと思います。

ラインスドルフ盤〜旧全集に準拠し、かつ41番までに限って納めたもので、偽作の2番、3番を聴きたければ今はこれしかありません。音はいかにも1950年代、という、ヴィブラートかけっ放しの弦に平たいオーボエ、いかにも金属といったホルンではありますが、全般にキビキビしたテンポで、現在も聴き甲斐があります。今回ご紹介の6曲中、含まれるのは12番、13番、14番の3曲のみです。

ベーム盤〜いま聴くと、「ベルリンフィルで全集を入れた当時から、こんなにテンポが遅かったっけ?」と感じるほどですし、ロマン派的解釈が根強く残っています。が、オーケストラのバランスがよく、スコアから想像する響きのバランスを最も良く再現してくれます。ただし、音質は重めですから、「軽やかなモーツァルト」がお好きな方はホグウッド盤かピノック盤を選択することになるでしょう。今回ご紹介の6曲中、K.120(『アルバのアスカーニョ』序曲の交響曲版)は収録されていません。

ホグウッド盤〜現在でも斬新ですが、演奏は意外におとなしく、管楽器がもう少し聞こえてもいいように感じます。「オーデンセ」なども収録し、「パリ」や40番は2種類の稿を聴けるなど、幅広くモーツァルトを味わうには最適の全集です。テンポ設定はベーム盤よりも快速ですが、時代を顧みてそうなのか、現代だから心地よく感じるのか・・・は、18世紀末の録音なんて存在しないのでわかりませんネ。今回ご紹介の6曲は全て収録しています。

ピノック盤〜オーケストラとのコミュニケーションが以前より深まっていることを感じさせる、好演ぞろいの全集です。「ジュピター」までの全曲にチェンバロを加えて演奏しています。これがモーツァルト当時の響きに最も近いのかな、と想像しながら楽しく聴けます。テンポ設定はホグウッド盤と似ており、管・弦のバランスはベームに近く、音色は最も明るい感じです。今回ご紹介の6曲中、K.120(『アルバのアスカーニョ』序曲の交響曲版)は収録されていません。

テイト盤〜初期作品に関して言えば柔らかい演奏で、逆にそれがともすれば作品の輪郭をボカしてしまう欠点があるように思います。ベーム盤では硬い、古楽系はいやだ、という場合の選択肢は、このテイト盤になるかと思います。アンサンブルは丁寧ですが、バランス、テンポに対する考え方が若干一貫性を欠きます。この点で上記4全集には及びません。今回ご紹介の6曲は全て収録しています。

マリナー盤〜フィリップスのモーツァルト全集の1として発行されています。映画『アマデウス』ではなかなかの好演を聴かせてくれたマリナー/アカデミーですが、交響曲全集だけでなく、「レクイエム(バイヤー版)」のCDも、マリナーらしく硬質で、かといってベームのような沈着さが感じられません。縦の線の揃いはほぼ申し分ないのですが、おそらくはそちらを尊重しすぎるあまり音程に安定を欠き、スタジオ録音にも関わらず(いや、スタジオ録音であることによって、でしょう)、響きの広がりが調整され切っていない演奏が多々あります。ライヴなら申し分ない演奏もあるのですが・・・モーツァルト以外の作品でもそうした傾向が強いのは何故なのかなあ、というのがこのコンビへの正直な印象です。収録内容は確認していませんが、五十数曲なので、おそらく全て収録されていると思います。

他2つの廉価版全集のうち1種はまだ販売しています。口コミでの評判は高かったのですが、演奏についての方針が明確ではないようで横流れの音という感が否めず、「曲の概要を知る」目的以外には適さない(つまり、アンサンブルの見本にもしにくい)と思います・・・スコアから想像する響きに比べると、どの作品も単調で柔弱に聞こえます。「まあ、それでもいいや」と思えば、一番手軽に手に入る全集です。K.120(『アルバのアスカーニョ』序曲の交響曲版)は収録されていません。

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