« 「長い休符」の過ごし方(5) | トップページ | 「長い休符」の過ごし方(3) »

2006年8月 2日 (水)

「長い休符」の過ごし方(4)

さて、話は「新世界」のチューバに戻ります。
このチューバパート、本来はバストロンボーンだったところが、校訂の行き違いでチューバになってしまった、のは(2)で述べた通りです。
では、どうしてそのような手違いが起こってしまったのか。
ちょっと自筆譜ファクシミリをご覧下さい。(クリックすると拡大します。)
Dvorak92_2

うちのスキャナの能力上、画像が不鮮明で恐縮ですが、ちょうど中央辺りの段がトロンボーンとチューバパートです。
その左端に薄く"3 Trombone"(複数形のsなし)と鉛筆書きしてあるのがお分かり頂けるでしょうか?
それとは別に、今度は五線の間に、やや濃い鉛筆書きで"Bass X Thba"とあります。
この鉛筆書きについて、画像に入れられなかった2つの重要な部分があります。
ひとつは3葉前の第1楽章のホルンの追加で、チューバと書いた同じ濃さの鉛筆書きで行われています。これは、「新世界」のアメリカ初演に際して、音を補強するために修正されたもののようです。すると、修正した鉛筆書きの濃さから、"Bass X Thba"の記入も同じ時に記入されたものだと考えられます。ものの本によると、事実、ドヴォルザークは当初、ヨーロッパの、太い音がするバストロンボーンを想定してオーケストレーションしたとのことです。ところが、アメリカではバストロが思ったような深い音色で吹いてくれない。苦肉の策でチューバにした、とか。
もうひとつ重要なのは、この頁の前、やはり第1楽章の最終部分です。ここは現在、八分音符1個ずつの小節が3つで終わることになっていますね。タン、タン|*タッタ|タン*|タン*|タン*|という感じです。これが、初めのインク書きではタン、タン|*タッタ|タン*|で終わっています。おしまいの2小節は薄い鉛筆書きで付け足されているのです。こちらの濃さは第2楽章冒頭左端の"3 Trombone"と似た濃さです。これからまず分かるのは、"Bass X Thba"と"3 Trombone"の記入は別のときにされているのは間違いない、という点です。
さて、むずかしいのは、では"3 Trombone"が後に書かれたのか、先に書かれたのか、という問題ですが、そこは研究者ではないので何とも言えません。自筆譜全体を一瞥した限りでは、"Bass X Thba"と記入したのと同程度の濃さ、太さの鉛筆書きは数ケ所見受けられ、大体が音の表現に関する指示であるため、初演に向けての練習過程で記入されたものかと考えて良さそうです。ところが、第1楽章最後の2小節と"3 Trombone"の記入をしたのと同じと思われる細い鉛筆書きは、他の箇所では私には発見出来ずじまいでした。
2つの可能性があります。ひとつは、「初演練習にかかる前に譜を見直し、書き足しておいた」。もうひとつは、「校訂稿を引き受け者であるブラームスに送る際に書き入れた」。しかし、校訂用の書き入れは画像の頁でもわかるように、青鉛筆でなされています(インク部分と見比べて、ドヴォルザークの自筆に間違いは無いと思われます)。したがって、「校訂用」の可能性が薄いとなると、「当初の見直し」で書き入れられた可能性が大きく残ることになります。つまり、「ドヴォルザークの意思ははじめは3本のトロンボーンだった」というわけです。
・・・ついついムダな長話になりましたが、いちおう、「ドヴォルザークの意思は3本のトロンボーンだった」ことを(ちょっと頼りないですが)裏付けするためでした。ごめんなさい。

この事実から何が言えるか? そう、ドヴォルザークは第2楽章冒頭のコラールの響きを非常に大切に考えていた。しかし、現実の楽隊が、彼の頭の中のイメージとは違う響きしか出してくれない。そこで、彼はあくまで自分のイメージを貫くため、バストロンボーンをチューバに変えて演奏に臨んだ、ということです。

|

« 「長い休符」の過ごし方(5) | トップページ | 「長い休符」の過ごし方(3) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/95716/2900933

この記事へのトラックバック一覧です: 「長い休符」の過ごし方(4):

« 「長い休符」の過ごし方(5) | トップページ | 「長い休符」の過ごし方(3) »