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2006年7月18日 (火)

イタリア行きを前に

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「モーツァルト366日」(白水社2002 ISBN4-560-03848-1")の中のかわいらしいエッセイで、で高橋英郎氏はヴォルフガングが自分の天然痘を熱心に治してくれたお医者に、御礼として歌を一曲作曲した、という話を載せています。その作品、有節歌曲の "歓喜に寄す" K.53(シラーの、ではなくてウズという人の手になる歌詞です)は、残念ながらこの逸話通りの経緯で作られたのではなさそうです。ヴォルフガングが天然痘にかかり、治ったのは1767年末、オリュミッツでのことです。しかるに、
K.53 は1768年11月にウィーンで書かれているのです。
オリジナル譜は歌と低音部だけが書かれており、NMAのスコアでは適切な和音を補っています。

ともあれ、モーツァルト一家は1769年1月5日、ザルツブルクの我が家に帰り着きます。
この年の12月13日、すなわち彼と父がイタリアへ出発する日までのヴォルフガングの動向は、それほど明確ではありません。家族全員ずっと我が家にいて、お互い手紙をやり取りする必要がなかったからです。
この時期の彼の作品は
1) 軽い音楽 (K.65a[61b], K.63,K.99[63a],K.62 &K.100)
2)リツェンツァ1曲 (K.70[61c]).
3) 宗教音楽 (K.65, K.66, K141[66b])
といったところです。K.55-61とK.64 は偽作。K.54 はずっと後の1788年の作。 K.66c-e(シンフォニー) は失われてしまいました。
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1) 軽い音楽(K.61b, K.63,K.99[63a],K.62 &K.100[62a])

K.65a[61b] : 7 つのメヌエット(for two viollins, Violoncello and Bass [Cello & Bass play same parts])すべて短い作品です。それぞれの小節数は次の通りです: No.1-16&16, No.2-20&16, No.3-20&16, No.4-20&24, No5-16&16, No.6-24&24, No.7-20&16.

K.63(in G), K.99[63a](in B), K.62 &K.100[62a](in D) はNMAのスコア(Serie IV Orchesterwerke Werkgruppe12 Band1) では"3 Cassations(3つのカッサシオン)"としてまとめられています。
K.63 とK.99の編成は同じです。: 2Ob,2Hr, 2Vn,Vla, Vc & Basso。
かつ、この2作品の楽章の構成も大変良く似ています(7楽章構成).
K.63: Marche-Allegro-Andante-Menuetto-Adagio-Menuetto-Allegro assai
K.99:Marche-Allegro molto-Andante-Menuet(not "Menuetto")-Andante-Menuet-[Allegro-Andante-Allegro-Andante-Marche]
この2作品は1769年8月の6日と8日、大学の論理学及び医学の修了者の卒業音楽 (Finalmusiken) として演奏されたものと思われています。
K.62(行進曲)には2 つのトランペットとティンパニが加わっています。この行進曲はヴォルフガングの最初のオペラセリアである「ポントの王ミトリダーテ」で、ミトリダーテが戦地から戻って来た場面に再利用されることになるでしょう。
K.62をK.100の"Serenade(セレナーデ)"の1つの楽章として数えると、K.100 は 9 楽章構成となります:March(K.62)-Allegro-Andante-Menuetto-Allegro-Menuetto-Andante-Menuetto-Allegro.
このような次第で、K.100の方はまた別の、大きめの行事で使われたのではないかと思われます。

これまでの一連のシンフォニーに比べると、これらのカッサシオンのもつ響きは幾分気楽です。

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2)リツェンツァ(K.70[61c]) :
"A Berenice e Vologeso spoi-Sol nascente in questo giorno" for soprano

このリツェンツァは、歌詞から見て K.36と同じ目的で作られていることが伺われ、1666-7年にはもう作られていたとも考えられており、それ以上特別に付け加えるべき話はありませんが、典型的な"Da capo"アリアの内にd''''という非常な高音が用いられている点は求めている技術の高さの点で留意すべきかもしれません。

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3) 宗教音楽3つ(K.65, K.66, K141[66b])

ミサ・ブレヴィスニ短調 K.65:1月14日作曲
"ドミニクス・ミサ"ハ長調 K.66:10月15日初演
"テ・デウム" K.141[66b] :イタリアへ出発の数日前に作曲?

これら3 つの宗教音楽が1769年中の最重要作品でしょう。(20世紀前半までの研究者たちの否定的な評価とは違い、モーツァルト自身は自己の宗教音楽の「優秀さ」に絶対の自信を持っていました。私は学生時代、機会があって彼のザルツブルク時代のミサを3曲伴奏していますが、大変感銘深い音楽ばかりでした。)

"ドミニクス・ミサ" K.66は、モーツァルト一家の大家さんの四男でヴォルフガングがたいそう慕っていたCajetan Hagenauer(Pater Dominics)の為に作られたものです。この5年前、Cajetanが修行のために修道院に入った、という話を手紙で読み聞かされた時、ヴォルフガングは泣きじゃくってしまったということです。これでもうCajetanには会えない、と思い込んだからです。それで、父が「そんなことはないんだよ」と説得しなければならないほどでした。
1765 年にCajetanは"ドミニクス師"と呼ばれるようになります。
1769年、ドミニクス師はザルツブルクのベネディクト会の新司祭となり、ミサを執り行うこととなりました。 K.66は10月15日に行なわれた、このドミニクス師による始めてのミサで演奏されたのです。
K.66は輝かしい音楽で満たされていますが、ヴォルフガングはテキストの意味に厳しく従うことを忘れてはいません。13歳の作曲家の意図は、とりわけ「グローリア」及び「クレド」がそれぞれ7つの部分に分たれ、各部の言葉にふさわしく、じつに注意深い音楽付けをがなされていることから理解出来ます。各章の終結部も、ヴォルフガングはかつてないほど毅然とした仕上げを施しているのが感じられます。さらに、「グローリア」と「クレド」各々の最終部のフーガ、また「クレド」中の"Crucifix" 部はとりわけ心に深く刻まれる造りとなっています。
このミサのオーケストレーションは次の通り:2Ob,2Hr,4Trmp(2Clarino & 2 Tromba), 2Vn,Vla,Baasi & Organo and 3 Trmb.ad libium.

"Te Deum" K.141[66b]がイタリア行き直前になって何故作曲されたか、経緯は明らかではないそうです。それでもこの曲は性急なお粗末さはもたず、コンパクトながらしっかりした構成をもっています。"Te Deum"は4部からなり、あたかもシンフォニーのようです。楽器編成は:2Clarino & 2 Tromba,Timpani, 2Vn,Baasi & Organo.
Timpani のパートは、オリジナルが発見されていないため、NMAのスコアでは小さい音符で記されています。私のもっている、モーツァルトの宗教音楽を集成したCDでは、"Te Deum"はティンパニなしで演奏されています。一方、クーベリックのDVD(「ハ短調大ミサ」とともに収録)ではティンパニを入れて演奏しています。

K.65を最後にもって来たのは、この曲の一貫して厳しさを保った作風に驚嘆したからです。
この「厳しさ」は上演されるはずだった2月5日が「罪の償いをする儀式」を行なうべき日だったからだ、と言われてきました。しかし、この説は現在では否定されています。2月5日のミサは「荘厳ミサ」で、「ブレヴィス」すなわち略式ミサが行われたわけではないからです。
このK.65の"Agnus Dei" の主題が、彼の「レクイエム」中の"Agnus Dei" のそれに非常に似ていることだけ、とりあえずはご注目頂きたい、と強く希望します。
残念ながら、K.65は日本では探した限り単体のCDでは入手出来ないようです。全集で聴くしかありません。しかし、モーツァルトの音楽が好きな方の間で、このK.65はもっと有名になって然るベきだ、と私は信じて疑いません。

ちなみに、下記は私のもっているCDとは違います(私のは没後200年の際に出たものです)。



モーツァルト大全集 第21巻:ミサ曲全集(全18曲)


Music

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アーティスト:オムニバス(クラシック)

販売元:ユニバーサルクラシック

発売日:2006/02/22

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クーベリックのDVDは「テ・デウム」・「ハ短調ミサ」ともいい演奏です。



モーツァルト:ハ短調ミサ/テ・デウム


DVD

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発売日:2006/01/25

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コメント

ドミニクス・ミサK66は前年の孤児院ミサと共に
13歳の少年の作として驚嘆すべきものであり、
なおかつ、一個の「作品」としても充実した音楽だと思います。
彼の同時期の作品でこれらほどの輝かしさを
持った音楽はほとんど皆無でしょう。
神童時代のモーツァルトを評価しない、
という人もたまにいるようなのですが
そういう人にこそ、これらを聴いていただきたいですね。

そして、ニ短調ミサ・ブレヴィスK65。
いや、ホント、とんでもない才能ですね。
…としか言い様がない(汗
特にグローリアの音楽は、
歌詞を表現しつつ、その音楽的内容の豊富さと
音の流れの自然さが見事に一致していて
素晴らしいと思います。

P.S) カッサシオンK63とK99、K100は
    中間の楽章がなかなか秀逸ですね。

投稿: Bunchou | 2008年7月23日 (水) 20時17分

ミサ2曲については、付言すべき言葉が見つかりません。
こういう作品の演奏機会が日本では少ないのが、とても残念ですね。

カッサシオン、セレナーデ、ディヴェルティメントと名付けられた作品には、ザルツブルクではそれぞれ何か分類法に暗黙の了解があった気がして来ています。カッサシオンは最も難しいですけれど、ディヴェルティメントとセレナーデは、ある程度明確に区分出来るのでは、と。

投稿: ken | 2008年7月23日 (水) 22時53分

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