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2006年7月29日 (土)

モーツァルト第1回イタリア旅行(3)「ミトリダーテ」

レオポルドの売り込みが功を奏し、ヴォルフガングはミラノ大公の劇場からクリスマスシーズン用のオペラ・セリアの注文を受けます。契約は3月26日に結ばれました。
6月27日には台本を受け取ります。"Mitridate, re di Ponto"というその台本には3年前にガスパリーニという人物が曲を付け、成功を収めていました。
ヴォルフガングは9月27日に、まずレシタティーヴォから作曲を始めましたが、作業は必ずしもはかどりませんでした。レオポルドは書簡で息子の作曲に対し様々な妨害が、とくにガスパリーニと仲が良かったミトリダーテ役歌手からの嫌がらせあったことを述べています。この歌手は3年前のガスパリーニの作品でもミトリダーテ役を歌っていたのでした。
妨害があった、というのは半ばは本当だったでしょう。しかし、半ばはレオポルドの思い込みもあったのではないか、というのが私の素人考えです。翌1771年、ヴォルフガングとその父の表敬訪問を受けたJ.A.ハッセが友人宛に書き送っています。
「若いモーツァルトは彼の年齢からすれば確かに一つの奇跡です。(中略)しかし、父親が息子をあまりに神聖視しすぎるの(が心配)です。」

ヴォルフガング はアリアなどをいくつか書き換えていますが、それは「妨害をしてきた」と言われるミトリダーテ役の歌手のための曲ばかりではありません。「彼女は ヴォルフガングのアリアを大変気に入ってくれました」とレオポルドが報じている、当のプリマドンナ用のアリアも書き換えています。ところが、これらの書き換えのおかげで、ヴォルフガングの"Mitridate, re di Ponto"は今日でも通用する魅力を備える結果となっているのが、書き換え前後のアリアを見比べると良く分かるのです。
オペラ・セリアには「アリアを歌ったら歌手は退場する」など厄介な約束事がたくさんあって、ヘンデルも対処に苦慮していた程ですが(ディーン「ヘンデル オペラ・セリアの世界」春秋社2005 特に第1〜2章参照)、そうした点を考慮すると、ヴォルフガングはむしろ歌手たちや書の他の人たちに、どうやったら劇的効果が高まるかについて、入念なアドヴァイスを受けたのではないか、とさえ想像したくなります。

[物語]
Fernace(フェルナーチェ、Alto) は父Mitridate(ミトリダーテ、Tenor)の婚約者であるAspasia(アスパシア、Soprano,prima donna) を愛してしまいますが、彼女はFernaceの弟であるSifare(シファレ、Castrato, Primo huomo)と秘かに相思相愛となっています。その上、Fernaceは父の仇敵であるローマを支持しているのです。
MitridateはFernaceの婚約者Ismene(イズメーネSoprano)を連れて戦場から戻ってきますが、執政官Arbate(アルバーテ、Soprano)からFernaceがAspasiaに求婚し、その上ローマを支持している、と聞かされます。Mitridateは怒ってFernaceを捕縛しますが、Fernaceは悔し紛れにAspasiaがSifareを愛している、とバラします。真相を確かめたMitridate はAspasia に毒を仰ぐよう命じますが、その時、戦場が劣勢に建たされたとの報告を受け、戦いに戻っていきます。間一髪でSifareはAspasiaを救います。
Fernaceはローマ軍の士官Marzio(マルツィオ、Tenor)に救出されますが、Marzioの何気ない言葉から祖国の本当の危機を悟り、ローマ支持をやめることを決心します。
Mitridateはローマの兵によって殺されます。残された人々は団結を誓い合い、幕となります。

物語は史実とは異なっています。歴史上では、ポントゥス国王ミトリダーテスは息子の裏切りをキッカケに死に至るのではなく、ローマに追いつめられて勢力を失ったことに誇りを傷つけられて自死しています。その遺体をローマに届けさせたのがフェルナーチェのモデルとなった人物であるようです。ポントゥス王国はその後カエサル時代にミトリダーテスの子息が決起し、滅ぼされるに至りますが、決起した子息がシファレのモデルになった人物かどうかまでの確認は私にはまだとれていません。

ディスコグラフィーは以下の通りです(輸入盤)。

CD:Disc 3-5 of "Complete Mozart Edition 13, Early Italian Operas", Philips 464 890-2
Hager/Mozarteum-Orchester Salzburg 1977
録音がちょっと前のものであるせいか、「ミトリダーテ」という作品への演奏者たちの思い入れか理解か、とにかく何かが不足している感じがし、臨場感に欠けます。

DVD:"MITRIDATE RE DI PONTO", unitel(Deutsch Grammophon) 00440 073 4127
Harnoncourt, Staged by Ponnele 1987...Some arias are omitted.
アーノンクールのモーツァルト演奏は、私は音が汚い気がして好きになれない部分が多いのですが、「ミトリダーテ」はこのDVDの演奏くらい粗っぽいほうが劇的要素が際立って分かりやすいかも知れません。歌手は知らない人ばかりでしたが、みな素晴らしく、とくにミトリダーテ役のゲスタ・ヴィンベル(と読むのでしょうか)が第8番のカヴァータを歌い始めたときには我家の誰もが
「え、誰?」
と画面に注目したほど素晴らしい高音のpで、驚きました。

[音楽]
"Mitridate, re di Ponto" K87(74a) の構成は以下の通りです(レシタティーヴォを除く):
Ouverture(Italian style---has 3 sections) D Dur
[Atto Primo]
1.Aria(Aspasia) C Dur (*)
2.Aria(Sifare) B Dur
3.Aria(Arbate) G Dur
4.Aria(Aspasia) g moll
5.Aria(Sifare) A Dur
6.Aria(Fernace) F Dur
7.Marcia D Dur
8.Cavata(Mitridate) G Dur
9.Aria(Ismene) B Dur(*)
10.Aria(Mitridate) D Dur
[Atto Secondo]
11.Aria(Fernace) G Dur
12.Aria(Mitridate) B Dur
13.Aria(Sifale) D Dur with WCorno solo"(*)
14.Aria(Aspasia) F Dur (*)
15.Aria(Ismene) A Dur
16.Aria(Fernace) D Dur
17.Aria(Mitridate) C Dur
18.Duetto(Aspasia,Sifare) A Dur(*)
[Atto Terzo]
19.Aria(Ismene) G Dur
20.Aria(Mitridate) F Dur(*)
21.Recitativo accompagnato e Cavatina(Aspasia) Es Dur
22.Aria(Sifare) c moll
23.Aria(Marzio) G Dur
24.Aria(Fernace) Es Dur
25.Coro(Aspasia Sifare,Ismene,Arbate, Fernace) D Dur

* No.1,9,13,14,18,20 のヴォルフガング改作前の原稿は今でも残っています。
かつ、1991年に、イタリアのある研究家がNo.20はヴォルフガングのではなく、ガスパリーニの作品であることを発見しています。これは音楽を聴いていただけでは分かりません。それというのもNo.20はヴォルフガングの"交響曲第25番ト短調K.183"に通ずる特徴を多分に有するからで、この事実はガスパリーニが決して凡庸な作曲家ではなかったことを示してもいます。
改作前の異稿については "Complete Mozart Edition 12,Arias ,Vocal Ensembles, Canons, Lieder, Notturni", Philips 464 880-2のCD6で聴くことが出来ます。



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