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2006年6月13日 (火)

「さまよえるオランダ人」序曲をめぐって(3)

「さまよえるオランダ人」創作に関わる伝記的なエピソードとしては、次の3つが象徴的です。

もととなった伝説は、ワーグナーは最初の妻ミンナと赴任した、現ロシアの港町リガで知った、ということになっています。

「オランダ人の船長が、喜望峰を回る航海をしている時嵐にあって、神を罵倒する言葉を吐いた。その罰で、彼とその船員は永遠に、暴風雨を伴って海上をさまよい続けさせられることとなった(ワーグナーの台本では、ただしオランダ人は7年に一度任意の港に投錨を許され、その地で彼に永遠の愛を誓う女性を得られれば神の呪いから逃れられる、ということになっています)。」

リガでのワーグナー夫妻の生活は、恵まれたものではありませんでした。
夫は劇団の楽長とは言え薄給でしたし、女優出身の妻は引退を公言していたにも関わらず、劇団のオーナーに横恋慕されかける始末。
そこで、夫妻はリガからの脱出を決意し、8日間の予定でロンドンへと出港します。
ところが、航海は暴風雨の連続で、妊娠中のミンナが流産してしまうなどさんざんなものでした。ロンドンへは予定の3倍、24日かかって到着したのでした。

ロンドンからパリへ渡り、ワーグナーはほぼ完成していた歌劇「リエンチ」と。まだ構想段階だった「さまよえるオランダ人」の話を携えて、オペラ座の支配人の元へ出掛けます。
1年待たされたあげく、支配人から返って来た返事は、
「『オランダ人』の話はモノになりそうだから、構想の草案だけ500フランで買い取ろう」
という屈辱的なものでした。食うにも困る生活でしたから、ワーグナーは泣く泣く(?)草案を売り、500フラン受け取って帰ったということです。ちなみに、この草案はかなり原型を失ってディーチェという人物の手で作曲され、オペラ座で演じられたものの、不成功に終わったそうです。この結果、ワーグナーは、オペラ座との仲介を買って出てくれたマイアーベアをその後ずっと逆恨みし続けます。

ワーグナーの「さまよえるオランダ人」の第1幕では、
「さまようオランダ船にでくわしたノルウェーの船長が、オランダ人の見せた財宝に目がくらみ、娘ゼンタをオランダ人に嫁がせることを承諾する。」

ワーグナーはあたかもマイヤーベアをこのノルウェー人の船長に見立て、軽侮しきっていったかのようです。・・・実のところは、マイアーベアは無償でワーグナーを助けようとしていたのですから、とんだトバッチリを食らった、としか言えません。

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